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35.なぜこんなに
しおりを挟むトレイトライル様が「ダイティーイに先に手を上げたのはリリヴァリルフィランだ」と怒鳴ると、フィレスレア様まで声をあげる。
「閣下!! 確かにダイティーイ様に手を上げようとしたのはリリヴァリルフィラン様です!! だって私、ちゃんと見ていました! リリヴァリルフィラン様が……突然……ダイティーイさまを……あああっ! なんて恐ろしい!! これ以上はあまりに恐ろしくて、私からは申し上げられませんわああああ!! なんて恐ろしいのでしょう!」
大仰な仕草で叫び出すフィレスレア様に、その場にいた誰もが驚いている。
それもそのはず。ちゃんと見てましたと言っているけれど、フィレスレア様はここにいなかった。そしてそれは、フィレスレア様とずっと一緒にいたトレイトライル様ですら知っている。
トレイトライル様も含め、全員が唖然としているけど、フィレスレア様が常にトレイトライル様の味方であるのはいつものこと。
腹立たしいけれど、私の目的はあくまで地下牢。
うまくいっている。これでいい。これで私の地下牢行きが決まってしまえばよかったのに、なぜか邪魔に入るイールヴィルイ様。
「一部始終なら俺も見ていた。下卑た手でリリヴァリルフィランに触れようとしたのは、ダイティーイの方だ」
「閣下!!!」
危うく、怒鳴ってしまうところだった。
一体この方、どういうつもりなの!? 打ち合わせと違うではありませんか!!
混乱しながらも、自分自身に落ち着くように言い聞かせる。
取り乱すわけにはいかない……私は、地下に竜を探しに行くんだ。そもそも、竜を探しに行くと言ったのも、この作戦を言い出したのも私!
トルティールス様は、これは閣下の作戦だと言っていた。それなら閣下が私を地下牢には行かせないと言っているのも作戦かもしれない。
そうですわ!! きっとこれは、ここで少し反対するフリをして、さらに私が調子に乗った発言をしたところで断罪し、地下牢行きを確実にするための作戦に決まっている!
「まっ……全く! か、閣下のおっしゃる通りですわっ……! 私、なーーんにもしてませんのに! だいたい、その男が気絶していたからなんだと言いますの!?」
さあ、閣下! 今です! 私が高笑いを上げたところで「俺は貴様がダイティーイをはめるために嘘をついていることは分かっている」と言って、私を断罪するのです!! そうすれば、私は地下牢に行けますもの!
「そうだな……では、何があったのか、ダイティーイに聞くことにしよう」
「お待ちください! イールヴィルイ閣下!!!!」
閣下!! 作戦は!? ダイティーイ様を連れて行ってどうしますの!?
これは一体どういう意味!?
「か、閣下!! 私はそれで構いませんわよ!? 私もその意見には賛成ですが…………し、しかし、閣下は、も、もうすこーし慎重に行動なさった方が…………」
言いながら、私は小声で「強引な真似をすれば、デシリー様に王家に抗議する隙を与えてしまうことになりますわ!」と告げるけれど、閣下はひどく辛そうな顔をするだけ。
何なの一体! ちっとも作戦に協力してくれないし、あんまりです! それなのに、なぜそんな顔をするの!?
うろたえる私の頬に、そっと触れそうな距離まで、閣下が手を添える。
触れられてはいないのに、彼のその手に導かれるように、私は顔を上げた。
閣下と目が合うと、なぜかその目を見上げてはいられなくて、顔をそむけてしまう。
離れているのに、閣下に見下ろされただけで何をこんなに緊張しているのか……
落ち着かなくては。動揺を悟られてはいけないのに、見下ろされただけで焦ってどうする。
なんとか落ち着こうとしているのに、閣下は私の心を乱すようなことばかり言う。
「……そんなことのために、こんなことをさせてすまなかった……」
「え………………え……?」
そんなことって……何より大切なことだ。強引な真似をすれば、苦しい立場に立たされるのは使者としていらした方々。今からでも、私がダイティーイ様に手を上げたと言って、トレイトライル様に地下牢に連れて行ってもらわなければ。
それなのに、さっきの言葉ばかりが頭を回ってしまって、何も言えない。あんな風にそっと扱われることも、あんなことを言われたのも初めてで、言葉が出てこない。
困り果てる私の前で、閣下はトレイトライル様に掴みかかる。
「先にリリヴァリルフィランに手を上げたのは、その男の方だ」
「な、何をおっしゃっているのです!!」
「鍵を出せ」
「か、鍵!?」
「ダイティーイを地下牢に連れて行く。その男には、じっくり聞きたいことがある……」
「しかしっ……」
「しかし、なんだ? 俺は一部始終を見ていた。貴様はそうやって、ありもしない罪をリリヴァリルフィランに被せて、彼女に何をした?」
「……は!?? ……な、なんのことでしょう……」
「……鍵を出せ」
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