【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
95 / 96

95.あなたは俺の

しおりを挟む

 広い廊下を抜けると、大きな扉があって、それを閣下が開くと、広い部屋についた。大きな窓は開かれていて、風が吹き込んでカーテンが揺れている。外からは、鳥の声がした。

 閣下は私に振り向いた。

「……リリヴァリルフィラン…………先程は、ホウィンドーグが無礼な真似をして、申し訳なかった」
「へっ……!? あ、ああ……驚ましたが、もう大丈夫ですわ! 閣下が……来てくださいましたから……」
「……ホウィンドーグと一族には、よく言い聞かせておく」
「あ、あの方は、ランフォッド家の執事の方……なのですか?」
「ああ……特にホウィンドーグは、ランフォッド家をずっと支えてくれている執事だ。ただ、少し常識を顧みないところがある。二度とあんな真似はさせないし、一族にも、二度とこんなことを命じることはさせないと誓う」
「か、閣下…………」
「……そんなに不安そうな顔をしなくても、骨の髄まで分からせておく。すまなかった……せっかく再会できる日に、それを台無しにするような真似を許してしまった」
「か、閣下! どうか、お気になさらないでください!!!! 確かに驚きましたが……あの……」
「……リリヴァリルフィラン? どうした?」
「…………ホウィンドーグ様がおっしゃっていたことは、本当でしょうか……ランフォッド家が……私を迎えたいとおっしゃるなんて……」
「もちろんだ。ホウィンドーグは任務のためなら平気で嘘をつくが、俺を騙したりはしない。あなたのことを、ランフォッド家は歓迎する。この上なく」
「……」

 勝手に話を進められそうになっていたことと、ホウィンドーグ様やランフォッド家に対して少し驚くことはありましたが……歓迎? はされているようですし、これは喜んでもいいのでしょうか……

 まだ少し戸惑っていると、閣下は私に微笑んだ。

「二度とあんな真似はさせないし、もちろん、あなたの意思を無視する気もない。だが、あなたが言っていた、ランフォッド家が認めない、という問題は存在しない。それは……分かってもらえるか?」
「え…………? は、はい! もちろんです!!」

 私が微笑むと、閣下も微笑んで、窓に近づいて行く。

「ここは、俺がこの辺りの魔物を殲滅した際に、拠点として使っていた屋敷だ。魔力で作ったものだが、気に入ってもらえただろうか?」
「…………はい。とても美しくて静かで……素敵ですわ……」
「よかった……」

 そう言って、閣下は私に微笑んでくださる。
 先ほどの戦う時の閣下の表情にも胸が高鳴ったけれども、こうして優しく微笑んでくださると、見惚れながらも安心する。

 俯く私のすぐ隣に、閣下が並ぶ。

 少し、近すぎませんか!? 強引に、とはおっしゃっていたけれど、それはずっとこの状態が続くと言うこと!?

 そもそも私には愛された記憶がない。それなのに、こんなふうにそばにいられて、そろそろ緊張しすぎた心臓が限界を迎えそう。

 けれど、そんな私の気持ちを知ってから知らずか、閣下は外の森を見つめたまま続ける。

「しかし、まだここは、魔物を一度追い払ったに過ぎない。いずれまた魔物は迫ってくる。ここはちょうど、魔物の谷と王城を結ぶ一本の道になる場所だ。魔力を蓄えた強力な魔物たちが、何度もここを通り、城を襲おうとしている。これまでは王城のそばで食い止めてきたが、もうそうもいかなくなりそうだ。だから通り道になるここを早めに塞ぎたい。あなたが魔物退治の腕を磨いていること知っている。どうかここで、俺と共に、魔物を討伐してほしい」
「よ、よろしいのですか!??」

 驚いて振り向くと、閣下は私を見下ろして、微笑んでくださる。

「……勿論だ。そのために、あなたをここに連れて来た」
「……」
「どうした?」
「…………断られるかと思っておりました……」
「あなたが魔物退治の腕を磨いていることは知っている。先ほども言ったとおり、ここは、王国の守りを固める上で、重要な場所だ。ここでの魔物退治に尽力すれば、あなたが貴族たちや王家に認められる大きな一歩になる。今はまだ、俺が私的に行っていることだが、こうして、森の魔物退治に進行があったことで、いずれ、部隊が組まれることになっている。そうなれば、あなたにも、部隊と共に魔物討伐に出る魔法使いとして、ふさわしい地位が与えられるはずだ」
「……私に、ですか……?」
「もちろんだ。もうあなたは、伯爵家を追い出された奴隷同然の魔力のない魔法使いではなくなる」
「閣下…………」
「これで、伯爵家を追い出された奴隷だから、という理由もなくなったな……」
「え…………?」
「あなたが俺といると苦しむ理由があるのなら、俺はそれを全て潰すと言っただろう?」
「あ…………あのことを……本気で考えていてくださったのですか…………?」
「もちろんだ。とはいえ…………もうとっくに、どれも存在しなくなっている気はするが……」
「……」
「……あなたは、街に出るつもりなのだろう?」
「へっ……!?」

 相変わらず、なんでも知っていらっしゃる……私の怯えまで悟られているようで驚いたけど、もう、隠す気にもなれない。だってもう閣下のことを以前のように恐ろしいとは思いませんもの。

「あなたが街に出た日は、全て知っている。あまり夜に暗い道を歩くことはしないでほしいが……」

 ……やっぱりちょっと怖いかも。

「……だが、あなたのことは俺の使い魔たちが見守っている。暴漢などは、あなたに近づく前に破砕しておこう」

 ……やっぱりだいぶ怖いかも。

「閣下。そう言ったことは、どうかおやめください」
「ダメか? しかし……」
「おやめください」
「……分かった」

 しゅんとなっているけれど、怖いことまで看過できません!
 閣下は少し考えて続けた。

「……そうなると、あなたが街に出るのは……かなり心配だが…………しかし、俺はあなたの思いは尊重したい……せめて俺がいない間は信頼できる者を護衛につけたい。それは許してもらえるか?」
「閣下……け、けれど、ご迷惑では……」

 私が言うと、閣下は私に近づいてくる。

 一歩後ろに下がる余裕もなく、私の頬に、彼の顔が近づいてきた。その柔らかい髪が私の顔にかかり、頬には一瞬だけ柔らかいものが触れた。

 い、今の……唇?!!

 ほ、頬にキスされた。

「ひゃっ……!」

 少し遅れて、私は少しくすぐったかった頬に触れた。見上げた閣下は、どこか得意気に私に微笑んでいる。

「…………ご迷惑……なはずがないだろう。あなたは俺の婚約者になる人だ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

さようなら、私の愛したあなた。

希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。 ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。 「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」 ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。 ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。 「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」 凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。 なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。 「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」 こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang
恋愛
皇女シエラ・ヒペリュアンと皇太子ジェレミア・ヒペリュアンは血が繋がっていない。 シエラは前皇后の不貞によって出来た庶子であったが皇族の醜聞を隠すためにその事実は伏せられた。 元々身体が弱かった前皇后は、名目上の療養中に亡くなる。 現皇后と皇帝の間に生まれたのがジェレミアであった。 "容姿しか取り柄の無い頭の悪い皇女"だと言われ、皇后からは邪険にされる。 皇帝である父に頼んで婚約者となった初恋のリヒト・マッケンゼン公爵には相手にもされない日々。 そして日々違和感を感じるデジャブのような感覚…するとある時…… 「私…知っているわ。これが前世というものかしら…、」 突然思い出した自らの未来の展開。 このままではジェレミアに利用され、彼が皇帝となった後、汚れた部分の全ての罪を着せられ処刑される。 「それまでに…家出資金を貯めるのよ!」 全てを思い出したシエラは死亡フラグを回避できるのか!? 「リヒト、婚約を解消しましょう。」         「姉様は僕から逃げられない。」 (お願いだから皆もう放っておいて!)

処理中です...