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95.あなたは俺の
しおりを挟む広い廊下を抜けると、大きな扉があって、それを閣下が開くと、広い部屋についた。大きな窓は開かれていて、風が吹き込んでカーテンが揺れている。外からは、鳥の声がした。
閣下は私に振り向いた。
「……リリヴァリルフィラン…………先程は、ホウィンドーグが無礼な真似をして、申し訳なかった」
「へっ……!? あ、ああ……驚ましたが、もう大丈夫ですわ! 閣下が……来てくださいましたから……」
「……ホウィンドーグと一族には、よく言い聞かせておく」
「あ、あの方は、ランフォッド家の執事の方……なのですか?」
「ああ……特にホウィンドーグは、ランフォッド家をずっと支えてくれている執事だ。ただ、少し常識を顧みないところがある。二度とあんな真似はさせないし、一族にも、二度とこんなことを命じることはさせないと誓う」
「か、閣下…………」
「……そんなに不安そうな顔をしなくても、骨の髄まで分からせておく。すまなかった……せっかく再会できる日に、それを台無しにするような真似を許してしまった」
「か、閣下! どうか、お気になさらないでください!!!! 確かに驚きましたが……あの……」
「……リリヴァリルフィラン? どうした?」
「…………ホウィンドーグ様がおっしゃっていたことは、本当でしょうか……ランフォッド家が……私を迎えたいとおっしゃるなんて……」
「もちろんだ。ホウィンドーグは任務のためなら平気で嘘をつくが、俺を騙したりはしない。あなたのことを、ランフォッド家は歓迎する。この上なく」
「……」
勝手に話を進められそうになっていたことと、ホウィンドーグ様やランフォッド家に対して少し驚くことはありましたが……歓迎? はされているようですし、これは喜んでもいいのでしょうか……
まだ少し戸惑っていると、閣下は私に微笑んだ。
「二度とあんな真似はさせないし、もちろん、あなたの意思を無視する気もない。だが、あなたが言っていた、ランフォッド家が認めない、という問題は存在しない。それは……分かってもらえるか?」
「え…………? は、はい! もちろんです!!」
私が微笑むと、閣下も微笑んで、窓に近づいて行く。
「ここは、俺がこの辺りの魔物を殲滅した際に、拠点として使っていた屋敷だ。魔力で作ったものだが、気に入ってもらえただろうか?」
「…………はい。とても美しくて静かで……素敵ですわ……」
「よかった……」
そう言って、閣下は私に微笑んでくださる。
先ほどの戦う時の閣下の表情にも胸が高鳴ったけれども、こうして優しく微笑んでくださると、見惚れながらも安心する。
俯く私のすぐ隣に、閣下が並ぶ。
少し、近すぎませんか!? 強引に、とはおっしゃっていたけれど、それはずっとこの状態が続くと言うこと!?
そもそも私には愛された記憶がない。それなのに、こんなふうにそばにいられて、そろそろ緊張しすぎた心臓が限界を迎えそう。
けれど、そんな私の気持ちを知ってから知らずか、閣下は外の森を見つめたまま続ける。
「しかし、まだここは、魔物を一度追い払ったに過ぎない。いずれまた魔物は迫ってくる。ここはちょうど、魔物の谷と王城を結ぶ一本の道になる場所だ。魔力を蓄えた強力な魔物たちが、何度もここを通り、城を襲おうとしている。これまでは王城のそばで食い止めてきたが、もうそうもいかなくなりそうだ。だから通り道になるここを早めに塞ぎたい。あなたが魔物退治の腕を磨いていること知っている。どうかここで、俺と共に、魔物を討伐してほしい」
「よ、よろしいのですか!??」
驚いて振り向くと、閣下は私を見下ろして、微笑んでくださる。
「……勿論だ。そのために、あなたをここに連れて来た」
「……」
「どうした?」
「…………断られるかと思っておりました……」
「あなたが魔物退治の腕を磨いていることは知っている。先ほども言ったとおり、ここは、王国の守りを固める上で、重要な場所だ。ここでの魔物退治に尽力すれば、あなたが貴族たちや王家に認められる大きな一歩になる。今はまだ、俺が私的に行っていることだが、こうして、森の魔物退治に進行があったことで、いずれ、部隊が組まれることになっている。そうなれば、あなたにも、部隊と共に魔物討伐に出る魔法使いとして、ふさわしい地位が与えられるはずだ」
「……私に、ですか……?」
「もちろんだ。もうあなたは、伯爵家を追い出された奴隷同然の魔力のない魔法使いではなくなる」
「閣下…………」
「これで、伯爵家を追い出された奴隷だから、という理由もなくなったな……」
「え…………?」
「あなたが俺といると苦しむ理由があるのなら、俺はそれを全て潰すと言っただろう?」
「あ…………あのことを……本気で考えていてくださったのですか…………?」
「もちろんだ。とはいえ…………もうとっくに、どれも存在しなくなっている気はするが……」
「……」
「……あなたは、街に出るつもりなのだろう?」
「へっ……!?」
相変わらず、なんでも知っていらっしゃる……私の怯えまで悟られているようで驚いたけど、もう、隠す気にもなれない。だってもう閣下のことを以前のように恐ろしいとは思いませんもの。
「あなたが街に出た日は、全て知っている。あまり夜に暗い道を歩くことはしないでほしいが……」
……やっぱりちょっと怖いかも。
「……だが、あなたのことは俺の使い魔たちが見守っている。暴漢などは、あなたに近づく前に破砕しておこう」
……やっぱりだいぶ怖いかも。
「閣下。そう言ったことは、どうかおやめください」
「ダメか? しかし……」
「おやめください」
「……分かった」
しゅんとなっているけれど、怖いことまで看過できません!
閣下は少し考えて続けた。
「……そうなると、あなたが街に出るのは……かなり心配だが…………しかし、俺はあなたの思いは尊重したい……せめて俺がいない間は信頼できる者を護衛につけたい。それは許してもらえるか?」
「閣下……け、けれど、ご迷惑では……」
私が言うと、閣下は私に近づいてくる。
一歩後ろに下がる余裕もなく、私の頬に、彼の顔が近づいてきた。その柔らかい髪が私の顔にかかり、頬には一瞬だけ柔らかいものが触れた。
い、今の……唇?!!
ほ、頬にキスされた。
「ひゃっ……!」
少し遅れて、私は少しくすぐったかった頬に触れた。見上げた閣下は、どこか得意気に私に微笑んでいる。
「…………ご迷惑……なはずがないだろう。あなたは俺の婚約者になる人だ」
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