上 下
10 / 12

10.できない

しおりを挟む

 なんなんだ、あの野郎は……

 俺は、ソファに座ったまま、ハントが金を持ってくるのを待った。

 そして、金を待っていたら、ますます居心地が悪くなる。時間が経てば経つほど、理性が戻ってきて、考える時間も長くなる。

 やっぱり、送っただけで金が出てくるのはおかしい。遺産って言ってたが、それならそれで、あいつが持っていた方がいい。
 それに、あいつが世間知らずの馬鹿じゃないなら、何か企んでいるのかもしれない。

 あいつが戻ってきたら、やっぱりいらないって言うか?

 悩んだ。

 あいつなら、いらないと言ったところで、そんなこと言わずに受け取ってくださいと、そう言うだろう。

 だったらもう、何も言わずに帰るか?

 そうだ。立ち上がって、帰ればいい。帰って、ハントには二度と会わない。それが、俺のためだ。

 それなのに。

 あいつに背を向けて逃げ去ることができない。

 しばらく待つと、ガンガンと、ドアを叩く音がした。

 ハント、戻ってきたのか?

「うるっせーよ。叩くなって……」

 ぶつぶつ言いながら、ドアを開ける。すると、そこに立っていたのはあの兄貴だった。

「てめえっ……!」

 出かけてたんじゃなかったのか!??

 そいつは、切羽詰まった顔で俺の胸ぐらに掴みかかってくる。

「ハントがっ……! あいつがっ……! 帰ってきたのかっ……!?」
「てめえっ……! まだあいつのことをっ……!」
「あいつはっ……!? あいつはどこだっ……!? どこにいる!?」
「……言うわけねえだろっ!!」

 こんなやつに、ハントのことを話せるものか。

 俺はその手を振り払って突き飛ばし、部屋を飛び出した。
しおりを挟む

処理中です...