僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐

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29.共同戦線だ

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 オフィセイール様の話を聞いた、レオトウェルラレット様がたずねる。

「……援軍が欲しいって、随分急だな? しかも、それをここに頼むなんて……街に拠点を置いていた奴らの捕縛は、警備隊の他に、王都から来た部隊も進めていたはずだろ? それなのに、こんなほとんど人がいない砦にまで援軍を要請してくるってことは、何かあったのか?」
「……それが…………」
「……オフィセイール……どうしたんだよ……何かあったなら、教えろよ!」

 レオトウェルラレット様がたずねると、オフィセイール様は、ひどく険しい顔をして、口を開いた。

「突然、王都からこの地へ、討伐隊が来ることになったらしい……王都の転覆を企む敵が現れたんだ……」
「おっ……王都をっ!!??」

 レオトウェルラレット様が驚いている。僕だって、びっくりした。

 王都を破壊しようとしている敵が現れたってことか……?

 …………なんだそれっっ!! 大事じゃないか!!

 王都を破壊なんて、反逆!?? それとも、前代未聞の凶悪な魔物!??

「な、なんで…………そんなものが…………」

 震えながら僕は聞くけど、オフィセイール様は、首を横に振ってしまう。

「俺にも分からない…………昨日まで、そんなものが現れたという話は、聞いたことがない」
「……じゃあ…………昨日急に現れたってことですか?」
「ああ……俺も、詳しいことは分からないんだ。王都でそんなことがあったなんて連絡は、まだ王都からはない。こちらからも連絡しようとしたんだが、答えない。レオトウェルラレットの報告に対する返事もない……今あるのは、街の警備隊からの情報だけだ。それによると、王国を憎む凶悪な敵が現れ、王都では討伐のための部隊が編成されて、すでにこちらに向かっているらしい」
「……そんな…………まさか…………」
「突然のことで、街の警備隊も混乱している。それで、こっちに助けを求めて来たらしい」
「…………それで、警備隊が……」

 この砦は普段、街の警備隊が対応しない事案を請け負っている。だけど、普段から交流があるわけじゃない。警備隊からここに来るのは、次はこれを調査してほしいっていう連絡だけ。援軍要請なんて、そんなものが来たこと、これまで一度もない。それなのに、そんな話をして来たってことは……よほど大変な事態なんだ……

「……そ……そんなに凶悪な魔物が現れたんですか……?」

 僕がたずねると、オフィセイール様は、首を横に振る。

「いや……まだ、魔物と決まったわけじゃない。報告がうまくいっていないようで、王都に激しい憎悪を持った敵、ということしか、警備隊も聞いてないらしい」
「そうですか…………」
「すまない……俺にも、分からないことが多いんだ…………そもそも、本来王都の安全を揺るがすような敵が現れた時は、王家の部隊が動く。このところ、凶悪な魔物が現れた話も聞かないし、魔法使いも兵も、今は十分にいるはずだ。だが、今回は王家の部隊ではないらしい」
「……それって…………もしかして、王家が動けないような敵……なのではないでしょうか」
「……なに…………?」
「例えば、他国で高い身分にある魔法使いや、強力な力を持つ精霊族の領主の一族とか……下手に王家が動けば、新たな争いを生みかねないような方が、良からぬことを考えて、こっちに来ているのかもしれません」

 僕が言うと、オフィセイール様は頷いた。

「なるほど……確かにそれなら、企みを明らかにし、協力体制が構築されるまでは、王家は動かないか……クヴェガフォル殿下も、即位が近いのではないかと言われている時に……こんなことが起こるとは……」

 すると竜が、あくびをしながら言った。

「騒がしいなーー。僕、まだ寝ていたいのにーー……」

 彼が尻尾でしっしっ! と追い出すような仕草をすると、レオトウェルラレット様は、竜を睨んで言う。

「……お前もそんなこと言ってなかったか? 王都の奴ら食い殺すとか言ってただろ」

 レオトウェルラレット様が言うと、竜はムッとした様子で言い返す。

「それはお前たちが道具を持ってると思ったから、試しただけ。僕、王都にも王都の軍にも、何もしてないよ? 友達に探し物がありそうな場所を聞いて、ここに来ただけ! 王都になんか、行ってないだろ?」
「……そうか……」

 言い負かされて、レオトウェルラレット様は黙ってしまう。

 オフィセイール様も、腕を組んで言った。

「…………隣国から竜が来ていることは連絡したが、やはり返事がない……魔法の暴走の件も、警備隊の方に連絡はしたが、王都からは、やはり返事がないな」

 すると、レオトウェルラレット様が肩をすくめる。

「…………普段この砦、戦力として考えられてないからな……俺がここの状況を報告しても、軽んじられることが多かったんだ。宰相様とか、ちゃんと聞いてくれる方もいるんだが……」

 レオトウェルラレット様の言う通り、ここは普段全く重要視されてない。
 砦には僕の護衛の方が数人いてくれるようになったけど、僕は王都では、ほとんど魔力もない、情けない魔法使いだって言われてた。多分、今もそう思われてるんだろう。砦ごと忘れられてそうだな……

 だけど、それだけ凶悪な敵が現れたんだ。僕らも、力を貸さなきゃっ……!

 僕は、オフィセイール様に向き直った。

「王都から討伐隊が来るなら、彼らの援護や、結界の強化、周辺の魔物退治の強化なども必要なのではありませんか?」
「それが、こちらに向かっている王都からの部隊からは、凶悪な敵が現れたという報告とともに、護衛はいらないと言われているらしい。部隊はかなり少数で構成されているが、その分、強力な魔法を使う精鋭を集めたから、必要ないと……街の結界の方は、普段通り街の警備隊がする。そもそも、この周辺の魔物の数は、この砦で普段見回りをしているだけあって、減って来ているんだ。今から急いで討伐に向かう必要はないだろう。王都の討伐隊も、こちらには構わず、そのままこの地の守護についてほしいと言っているらしい」
「そうですか……」
「だが、警備隊は王都の敵が現れた時のことを考え、街とその周辺の街道の警備に人手を回すつもりだ。加えて、街に逃げた横領をしていた連中の捕縛もまだ残っている。それで、山に逃げた奴らのことは、こちらに任せたいらしい」
「なるほど……わかりました!」
「……警備隊とともに街で横領をしていた奴らを拘束するため王都から派遣されて来たのは、俺の部隊の隊長なんだ。だからこれは、隊長からの頼みでもある。頼めるか……? フィルロファル」
「もちろんですっっ!! 必ずっ……捕縛を成功させましょう!!」

 僕がそう言うと、オフィセイール様は少し黙って、つぶやく。

「…………すまない……」
「え?? な、なんで謝るんですか??」
「こんな時に、お前にこんなことを頼むことがだ。そもそもこれは、お前の仕事じゃない。警備隊と、王都から任務を受けて派遣されてきた部隊の仕事だ。お前は、砦の結界の維持や、報告書のこともあるだろう」
「そんなっ……い、今はそんなこと言ってる場合じゃありませんっ……それにっ、僕はっ……」
「……それに…………俺たちは…………」
「……オフィセイール様……?」
「……俺たちはっ……お前を幽閉している張本人だぞっっ……!!」
「…………っ!!」

 ぎくりとした。現状でそこにある事実を突きつけられたようで。手と足の枷が、やけに冷たく感じた。

 オフィセイール様は、俯いてしまった。レオトウェルラレット様も、顔を背けている。竜だけが、彼らのことをじっと睨んでいた。

 幽閉は、確かに王国の貴族たちが決めたこと。僕にだって夢があるし、いつかこの砦から出たい。

 だけど、僕だって、残党たちが捕まって欲しいし、彼らに捕えられた人がいるなら尚更で、なにより、彼らの力になりたい。僕だけ蚊帳の外、なんてことになったら、その方が嫌なんだ。

「……あ、あのっ……そ、そんなふうに言わないでください!! み、皆さんが、僕の、このっ……幽閉を終わらせるために頑張ってくれていること、知っています!! それに僕は、この地を守るようにと、任務を受けているはずです!! あ、あの時っ……幽閉が決まった時、僕は辛かったけど…………これから、な、なんとかするんです!! 僕だって、昨日色々してもらったことのお礼をしたいし、砦の管理も山の見回りも手伝ってもらってるんだからっ……! だから、いいんです!!」

 まだ、しどろもどろのまま話す。

 すると、隣でレオトウェルラレット様が言った。

「………………お前だって昨日、わけわかんないこと、気にしてただろ」
「え…………? そ、そうでしたか?」
「ああ。そうだよ。もっと好きなようにやっていいんだよ。その方が、酒も飲めるし菓子も食えるし、仕事も終わるからな!」

 彼が胸を張ってそういうと、オフィセイール様が呆れたように言う。

「それはお前がそうしたいだけだろう! 酒も飯も、結局お前が一番飲んで食って、結界の番をすると言って酔い潰れたお前を、ベッドまで運んだのは俺なんだぞ!」
「うるせー!! 腹が減るんだよ!! 仕方ないだろ!!」

 言い合いになってしまいそうだったけど、僕はなんだか、ほっとしていた。したいこと、していいんだって思えたから。

 そんなふうに思っていたら、それが表情に出ていたのか、オフィセイール様が僕に振り向いた。彼は、さっきまでの思い詰めた顔より、少しだけ、表情を綻ばせていた。

「もちろん、俺たちも任務につく。今回は、俺たちとお前との共同戦線だ」
「は、はいっ……! よろしくお願いします!!」
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