僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐

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32.なんでこんなところに!?

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 見つけた敵の数は五人。どうやら、逃げる途中で揉めているようだ。

 僕らはそばの木の影に隠れて、ここに来るまでにした打ち合わせ通りに、配置につき始めた。

 オフィセイール様が男たちの正面に、仲間の魔法使い二人が、敵たちを見渡せるところまで木々に隠れながら飛んで、僕は、隠れながらもできるだけ残党たちのそばまで進む。

 これから、まずはオフィセイール様が投降を求める。それで大人しく投降してくれればいい。だけど、そんな風にうまくはいかないだろう。そんなに簡単に投降してくれるようには思えない。
 彼らが襲いかかってきたり逃亡を図った時には、魔法使い二人が敵を拘束、僕は人質の保護だ。

 作戦の配置につく間にも、追い詰められた奴らの仲間割れが進んでいく。

「くそっ……!! 早く結界をぶっ壊せ! それともここで殺されたいか!??」

 そう怒鳴る男が、別の男に掴みかかって殴りつけている。
 それを止めようとした小柄な男が、別の体格のいい男に取り押さえつけられて、泣き喚いていた。

「やめてっっ!! お願いっ……もうやめてくださいっっ……!! もうっ……僕たちは協力しませんっっ!!」

 泣いて止めようとする男に向かって、さっき殴られた男が、「黙ってろ!!」と、制止している。

 彼を殴った男と、泣き叫ぶ男を取り押さえている男は、横領事件の残党だ。だって、あいつら、見たことがある。僕の塔にいた奴らに一度だけ会いに来て、馬鹿騒ぎをして、たまたま廊下であった僕を殴り倒して帰って行った奴らだ。逃げ場がなくなっても、ああして人を使って逃げようとしているんだ。

 殴られた男は、自らが殴られるのを制止しようとした小柄な男に「お前は大人しくしてろ!」と制止を繰り返す。彼がこれ以上殴られるのを防ぐためだろう。そして、残党の男に向かって怒鳴る。

「こ、こんなことをしてっ…………どうなっても知らないぞっっ!! どうせもう逃げられないんだ!! け、警備隊だって追ってきている! 全員で武器を捨てて許しを乞えばっ…………助かるかもしれないっ! す、少なくとも、殺されはしないだろっ……!」

 投降を促すその男に、殴りつけた男が掴み掛かって喚く。

「だまれっ……!! ディグガウェル! 言っておくが、俺たちが拘束されれば、お前たちも道連れだぞっっ!! 全員で、地下にある一生出れない檻の中だ!! それでも、俺たちは高貴な貴族だ!! せいぜい幽閉で済むだろうっ……! お前たちのようなクズはどうなると思う!? 人として扱われもしないゴミがっ……お前らは貴族どもの玩具になって拷問された挙句、殺されて焼却されるんだぞ!! そうなりたいのか!!!!」
「……っ!!」

 喚く男の脅し文句に負けたのか、掴み掛かられた男は、結界に向かって魔法をかける。

 山の結界に手を出せば、追っ手が駆けつけるってこと、残党たちだって知っているはずだ。それを知っていて、彼にさせようとしているんだ。奴らは、彼らを連れて逃げる気なんてない。ここで今すぐに捨て駒にする気だ。

 結界を張り終えたディグガウェルを残党の男が殴り出して、それを見た小柄な男は、ますますパニックに陥ったように泣き喚く。

「やめてっ……!! お、お願い!! お願いっっ……!! もうやめてっ……!!」
「うるさいっっ!! ギャーギャー喚くならお前から殺すぞ!!」

 クズどもめ……

 放っておけば、奴らは絶対に泣いている男を殺す。早く取り押さえたい……

 合図を待ちながらも、だんだん焦っていく。

 オフィセイール様の方を向いて、じっと合図を待っていると、彼が僕のそばに飛ばしてくれた使い魔が消えた。開始の合図だ。僕も頷いて、彼に合図を返した。

 気配を隠す魔法を使いながら、いつでも飛び出せるように準備をする。

 オフィセイール様は、僕らに目で合図をして、前に出て行く。

「警備隊だ!! 武器を捨てて投降しろ!!」

 怒鳴られて、オフィセイール様が姿を表しても、残党たちはやはり諦めが悪い。殴られてすでにろくに立てそうにないディグガウェルを無理やり立たせて、その首元に剣を押し当てた。

 人質かよ……無駄な最後の手段だ。

「黙れっっ……! よるな!! くるんじゃないっっ!!」

 男に首元に剣を向けられて、人質になった男は苦しそうに、でもはっきりと叫ぶ。

「もう諦めようっ!! 無駄だ!」
「うるさいっ……黙れっっ!! お前も死にたいのかっっ!!」
「……だ、だって……こ、こんなことしても無駄だっっ…………! 分からないのか!? あ、あの男は、宰相閣下の部隊のっ……お、オフィセイール様だっ……! 逃げられるはずがない!!」
「はあ!?? そ、そんなっ……宰相の!?? な、なんでそんなもんが追ってくるんだよ!! 間抜けな警備隊だけじゃなかったのか!??」

 自分たちが相手にしているのが宰相様の部隊の男と知り、男は真っ青になる。勝てるはずがない。もう逃げられない。そう気づいたらしい男の目から、絶望が溢れていく。

 恐怖と焦りでますます混乱していく犯人に、オフィセイール様は、努めて落ち着いた様子で声をかける。

「投降しろ。武器を捨てて調査に協力するなら、命まで取ることはしない。最後のチャンスだぞ!」
「うるさいっっ……! よるな!!」

 喚く男は、剣をオフィセイール様に向ける。

 だけど、もう遅い。

 オフィセイール様の後ろには、僕らが控えているんだから!

 僕の魔法の風が、人質になった男と残党たちの間に吹いて、二人を引き離す。
 二人の魔法使いたちが拘束の魔法をかけると、そこにいた全員が魔法の鎖に縛られて、簡単に捕まった。

 人質をとった男だけが、拘束を振り払い僕らに向かって魔法を放とうとしたけど、その時には、すでに男と間合いを詰めていたオフィセイール様が、男を地面に押し倒して制圧する。

 僕は、人質にされていた男に駆け寄ったけど、彼は、僕の顔を見て、ひどく驚いていた。

「お前っ……!! フィルロファル!??」
「え……?」
「フィルロファルだろう!! は、離せ!!」
「え……ちょっ……あ、暴れないでっ……!」

 なんでそんなに暴れるの!??

 驚く僕だけど、その人は、僕を振り払おうと必死に暴れて喚く。

「あ、あいつらが、今回の黒幕はフィルロファルだって言ってた!! お前がっ……全部させてたって!!」
「………………」

 残党たち……この後に及んで僕に罪をなすりつける気かよ……ふざけやがって。

 けれど、僕が黒幕だと聞かされていた、人質になった男は、僕が恐ろしいようで、僕に向かって魔法を放つ。

「近づくなっ……!!」

 男の魔法で激しい光が生まれる。それは炎になって周囲の土を取り込み、竜のような姿になって、僕に向かってきた。

 うわっ……! 大きい……!! 見上げただけで震え上がりそうな、光と炎と土でできた竜が、僕に襲いかかってくる。けれど、魔法の力はほとんど感じない。魔力がほとんど残っていないまま魔法を使ったからだろう。

 オフィセイール様が僕に向かって叫んだ。

「フィルロファルっ……!」
「大丈夫です! 拘束に集中してください!」

 彼には、拘束した残党たちを逃さないことに集中してもらって、ここは僕の番!!

 これくらいなら、僕でもっ……

 だけど、敵の竜は、僕の目の前で、背後から飛んできた魔法の弾に貫かれ、破裂して消えてしまう。

 え……?

 なに?? 今の。

 山の中から飛んできた魔法の弾が、敵の魔法を一撃で消し去った。

 僕らの仲間の魔法使いのうちの一人が叫んだ。

「オフィセイール様! 誰かっ……強力な魔力を持つ者がこっちに向かってきています!!」
「なに……? 敵か!?」
「分かりませんっ……!!」

 まだ仲間がいたのか!? それとも、例の、王都を破壊しようとしてる凶悪な敵!!??

 みんなが構える。

 僕も、敵の襲撃に備えて、すぐに魔法を放てるように準備した。

 木々の向こうに、激しい光で作られた紋章が見えた。輝かしい魔力で、目が眩むほどに光るそれは、見覚えのある紋章だ。王国の紋章……王都から来た部隊である証だ!!

 そして光を突き破り、一人の男が飛び出してきた。

「フィルロファルっ……!!」

 ……………………え?

 びっくりした。

 だって、駆け寄ってくるのはロステウィス様だ。

 こ、こんなところで何をしてるんだ!?

 なんで、宰相様がこんなところに!!??

 みんなもびっくりしている。だけど、そんな驚きも無視して、宰相様は僕の方に駆け寄り僕の手をぎゅっと握った。

「無事だった!??」
「え?? え?? え?? はい……えっと…………無事、です……??」
「よかった……」

 宰相様は泣き出しそうな勢いだ。

 な、なんで……?

 僕、そんなに心配かけたの??

 あ!! 砦にいなかったからか!!

 …………でも、砦にいないだけで?? ここは幽閉された区域の範囲内だし、僕がここの見回りをしていることも多い。だから僕がここにいるのはそんなにおかしな事じゃないんだけど……

 そもそも、なんでこんなところに宰相様がいるの??

「怪我はない? 竜が襲ってきたりしなかった!? みんなもっ……オフィセイール! レオトウェルラレットは!? 他のみんなはっ……!? 全員無事かっっ!!!??」

 よほど心配していたらしく、宰相様は周りを見渡して喚いている。

 どうしたんだろう……宰相様……こんなに取り乱して。僕らはみんな無事だよ?

 それに、護衛の人も連れてないし、ここにくるまでに数回戦闘があったのか、着ているローブも破れて汚れている。王城では、いつも冷静だった宰相様が、こんなに焦るなんて……

「あ、あの…………宰相様……落ち着いてください。僕らはみんな無事です……」
「本当に…………?」

 彼は、戸惑う僕を見て、オフィセイール様たちもいるのも確認して、少しほっとしてるみたいだった。
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