僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐

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33.嘘だろ……いつの間に……

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 宰相様は、僕らが無事だったことを知って、安心したように顔を綻ばせた。

「フィルロファル……みんなも…………よかった、無事で……砦にいないから……何かあったのかと思ったよ……」
「え、えっと…………」

 宰相様が心配していたって言うのは分かるけど、なんでここに?

 僕が戸惑っていると、オフィセイール様が少し困った様子で尋ねた。

「宰相閣下、一体、何があったのですか?? な、なぜ……ここに……?」
「それが、この辺りに……王都陥落を企む、凶悪な敵が現れたんだ。今すぐに……」

 宰相様は、僕に振り向いて目を見開く。

 ちょうどその時、僕に向かって、小さな竜が飛んできたところだった。

「フィルロファルーー。周辺には、凶悪な敵みたいなものはいないよ? だいたい、僕に比べたら、どんな奴らも弱いだけの敵だし、気にすることないよ!」

 その竜の姿を見て、宰相様の顔色が変わる。

「なっ……なぜ、ここにっ……!!」

 宰相様、竜を知っているのかな?? かなり驚いているみたいだけど……どうしたんだろう。

「……フィルロファル…………その竜っ……!」
「え……? えっと……彼は、僕らに力を貸してくれていた竜です」
「力を貸したっっ!!??」
「は……はい…………今も、残党の拘束の間に、王都を狙う凶悪な敵がこの辺りにいないか、見回っていてもらったんです……」
「……王都を狙う凶悪な敵がいないか……その竜に……見てもらっていたの?」
「はい!!」

 おかげで、今回の作戦も成功したし、残党たちも拘束できた。

 驚いた様子の宰相様を見上げていたら、背後で、苦しそうな声がした。

「うっ……離して……お願い…………」

 振り向けば、ずっと泣き喚いていた小柄な男が、苦しそうに呻いて、目を覚ましていた。今まで気絶していたようだ。まだ意識が朦朧としているらしい。僕らの方に向かって、手を伸ばしている。その周りに、蒸発する水のような姿の魔力が湧いて、どす黒く染まっていく。

 あれって……攻撃の魔法? 僕らが彼らに危害を加えるつもりはないって、分かってないんだ!!

 泣いているその人を見ると、胸が痛む。彼らだって、横領の犯人たちに苦しめられてきたんだ。

「お、落ち着いてくださいっ……!! あのっ……大丈夫です……!! 投降してくれれば、これ以上、手荒な真似はしません!」
「嘘だ!! 僕らは、みんなっ……罪を被って殺されるんだ!! みんなっ……! だって、あいつらには、貴族の偉い人がついてるんだ!!!! 僕らのことだけ殺して、クズの貴族だけ助ける気なんだ!!」

 喚いた彼は、僕らに向かって魔法を撃ってくる。

 暴走した魔力は膨れ上がり、周りにいくつも炎の玉を作り出した。制御もできていないそれは、敵味方構わず飛び回り暴れ出す。恐怖で魔力が暴走しているんだ。

「なんだこれはっっ……!」

 叫びながらも、部隊のみんなが、暴走する魔法を防ぎながら、拘束した人たちを逃さないように捕まえている。

 早くっ……魔法の暴走を抑えなきゃっ……!! このままじゃ、残党の捕縛どころじゃなくなる!

 こんなものっ……! 僕が全部修復してやる!!

 僕は、魔法の杖を構えた。

 杖から魔法の光が溢れる。僕の修復の魔法なら抑えられるはずだ!!

 だけど、やっぱり僕では力が足りない。

 抑えきれない魔力の弾が僕に向かってくる。

 けれどそれは、一発も僕に届かなかった。

 僕の周りを、強い魔力の壁が取り囲んでいる。振り向けば宰相様が、僕と部隊のみんなに、防御の魔法をかけてくれていた。

「残党の拘束は俺がするっ……! 保護した者たちを守ることを優先するんだっ……! 決して傷つけるな!!」

 叫ぶ彼は、倒れた人に駆け寄り、暴走した魔法に応戦している。

 早く……暴走を止めなきゃっ……!

 焦る気持ちで集中が乱れていく。ただでさえ力のない僕の魔法が揺らぐ。

 くそっ……! 今、こんなことをしてる場合じゃないのにっ……!

 宰相様が、僕に振り向いて叫ぶのが見えた。

「逃げろっっ……! フィルロファルっっ……!!」

 叫ぶ声と一緒に、僕を守る魔法が強くなる。

 その時、僕の背後で竜が顔を出した。

「君は、本当に魔力がないねー」
「へ!? だ、だって……これは仕方ないんです!! 今はそんなこと言ってる場合じゃ……!」
「僕が助けてあげる!!」
「へっ……!? うわっ……!!」

 急に体が激しく熱い。焼けそうだっ……

 恐ろしいくらいの量の魔力が、僕の体の中に押し込まれてくる。

 なんて膨大な魔力だ…………!!

 僕、竜じゃないんだよっっ……!!? こんな魔力には耐えられない。

 彼の魔力を受けて、僕の魔法は一気に杖の先から溢れる。力が強すぎて、杖が勝手にガタガタ震えていた。

 杖から溢れ出した光が、暴走した魔法を全て消滅させていく。

 一瞬に思えた。

 強力な修復の魔法は、その場で暴れていた全てを宥めて、その場は静けさを取り戻した。木々が揺れて、葉が擦れる音がして、風が吹いていく。

 みんな無事だ。残党も、残党に怒鳴られて泣いていた人も。

 よ……

 よかったあああ………………

 ほっとしたら、力が抜けて、杖を離してしまいそう。

 抑えきれなかったら、どうしようかと思った。多分、僕だけなら、絶対に抑えられなかっただろう。竜のおかげだ。

 気を抜いたらへたり込んでしまいそうな僕に、竜が笑いながら声をかける。

「ふらふらになってるじゃん。大丈夫ーー?」
「は、はい……なんとか…………」
「僕の魔力を貸してあげたのに、魔力切れ??」
「違います……その逆で…………魔力が一気にいっぱい入ってきて、くらくらしてるんです!!」
「えっっ!!?? あの程度の魔力で?」
「あっ……あの程度っ……!? 僕はもともと魔力ないんです!! ま、魔力は、できれば手加減してください……!」

 話していると、宰相様が駆け寄ってきた。

「フィルロファルっ……! 怪我はない!??」
「え……!?? あ……はい!! もちろんです!!」
「……よかった………………それと……」
「はい?」
「あ……あの…………」

 宰相様は、僕の隣でパタパタ飛んでいる竜に、ゆっくりと、向き直る。

「…………その竜は……? なんでここにいるの?」
「え? あ! この竜さんですか?!」
「……竜さん…………」
「彼は、僕らに手を貸してくれたんです! 今も、魔力は彼が貸してくれて……彼の魔力のおかげで、暴走した魔法を抑えることができました!!」
「う、うん………………それは……俺も見てたけど…………えーっと、その……なんで、ここにいるの??」
「それは……先日、山の中で彼に会ったんです。彼は魔力が暴走することに困っていたみたいで、それを抑える魔法の道具を探していたようで……だから、僕の魔法で抑えて、暴走を抑える魔法の道具を貸したりするために砦に連れて帰ったんです。そしたら、仲良くなって……」
「なっ……仲良く……!? 仲良く!!?? そ、その…………その竜とっっ!!??」
「はいっっ!! とっても優しい竜さんなんです!!」
「とっても優しい竜さん…………その……竜が?」
「はい!! そうです!! 昨日は砦の外で、みんなで甘いお菓子とお肉と野菜をたくさん焼いて食べて、お酒も飲んで…………あ!! きのこのスープも!! きのこも焼いて食べたんです!! 宰相様の分もありますよ! きのこ!!」
「…………いや……きのこの話はまた後で聞くよ……」
「そ、そうですか? 刻まれちゃったけど、まだあるのに…………ゆ、夕飯作り以外にも、今回の作戦にも、手を貸してくれたんです!! あ!!!! ……か、勝手に……道具を竜に貸してしまったことは、本当に、申し訳ございません!!」

 僕は、深々と頭を下げた。

 処分があるかもって思っていたけど、宰相様は困ったように言う。

「えーっと……それはいいよ…………」
「え!? い、いいんですか?」
「うん……」
「よ、よかった……彼も、横領で魔法の道具を手に入れられなかったみたいで……」

 話していると、拘束した賊のうちの一人が、僕らに向かって叫んだ。

「お、お前っ……王都を破壊しに来た竜だろ!!」
「は??」

 男は、僕の肩に留まる小さな竜を指さしている。

 王都を? 破壊??

 ………………何を言っているんだ??

 この竜は、さっきの暴走も収めて、僕らを助けてくれたのに。確かに道具のことで腹を立てていたけど、そんなことしないのに。

 それなのに、男は僕らに向かってしつこく叫ぶ。

「王都を破壊しようとしている竜が来てるんだろ!! その竜じゃないか!! そ、そんなものを連れて、どう言うつもりだ!! 宰相閣下っっ!! あなただって……そこにいる凶悪な敵への対処で忙しいはずではなかったのですか!??」

 男に言われて、宰相様は肩をすくめて言った。

「あーー……うん…………そのはずだったんだけど…………」

 困ったように言いながら、宰相様は、僕の肩の竜に振り向いて、苦笑した。

「……すでに……陥落していたみたいだね…………」
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