僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐

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44*ロステウィス視点*俺のことを全く意識していない……

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 それから、食堂に呼ばれた俺は、砦にいる皆と楽しそうに食事をするフィルロファルを眺めながら、ぼんやり食事をとって、フィルロファルが客のために用意したという部屋に戻った。

 彼は、去り際に「宰相様、今日はありがとうございました」と言っていた。
 そんな風に言うところは、俺が彼と婚約していた時と変わらない。夜会の日も、夜会が終わった後、彼はそんな風に言って、俺に頭を下げていた。

 だが、今の方が彼は楽しそうだ。

 俺と夜会に出た時の彼はどうだっただろうと思い出しても、彼が頭を下げていたところしか思い出せない。

 そのまま、その日は眠ったが、彼のことばかり考えてしまい、ほとんど眠れなかった。

 そんな状態が、朝になっても続く。

 結局俺は、寝不足のまま朝からこの周辺で起きた事件の報告書を読みながら、魔法の道具のカンテラ片手に砦の中をうろついていた。

 フィルロファルも、この横領の事件を早く解決したいと言っていた。幽閉を終わらせるためにも……いそがなくては……

 だが、さっきから考えるのは、昨日フィルロファルと、砦の一室で魔法の道具の確認をしていた時のことばかりで、彼のことだけで、頭がいっぱいだった。

「……フィルロファル……」
「どうしたんですか?」
「うわっ……!」

 突然、隣にヴィクトウェトルが立っていて、持っていたものを落としそうになる。

 ヴィクトウェトルは、冷たい視線でそれを見下ろしていた。

「何を驚いているんですか……あなたらしくもない……」

 誰でも驚く! 突然隣に立つな!! よりにもよって、彼のことばかり考えていた時に!

 慌てるばかりの俺を尻目に、突然現れた男は、俺が落とした魔法の道具を拾い上げる。

「なんですか? これ……」
「……温かいかと思って…………持って来たんだ」

 それは、周囲を温めることができる魔法の道具の一つ。小さな竜を模したガラスのような姿をしていて、カンテラに乗せて魔力を使えば宙に浮かせて連れて行くこともできるし、武器にもなる。フィルロファルに渡そうかと思っていたんだ。

 ヴィクトウェトルは俺にそれを返すと、少し苛立ったように口を開いた。

「部屋に戻ってください。あなたにうろつかれると、ろくなことがない」
「……フィルロファルに会いに行くだけだ」
「フィルロファルに?」

 すると、彼は魔法で時計を出して、難しい顔をする。

「こんなに朝早くからですか? 常識的に考えて、迷惑です」
「それはっ……分かっている。だけど、この時間、彼はもう起きていると聞いたんだ」
「……なぜそんなことを知っているのですか? 薄気味悪い」
「なんだその顔は! 彼が教えてくれたんだ。明日は、ここに来る人を迎える用意を早くから始めると……部屋に行って、彼が寝ているか迷惑をかけるようなら、俺は部屋に戻る」
「だったら今すぐに戻ってください」
「……少し会いに行くだけだ。今日には部隊もここに着く。不安なこともあるだろう。砦での仕事が始まる前に、少し話をして……俺も部隊を迎える用意をしながらできることがあればさせてもらいたいだけだ」
「だったら使い魔でも送ればいいじゃないですか」
「……同じ砦にいるんだ。会いに行ってもいいだろう」

 そう言いながらも、ヴィクトウェトルの言うことももっともだと思う。

 だが、彼に会いたい。

 ここでのあいつは楽しそうで、忙しそうだ。この砦の管理もあるし、部隊も迎えることになる上に、街の警備隊との連携もある。

 彼は、全く無自覚なようだが、俺を随分助けてくれた。レオトウェルラレットを助けて、部隊も救い、横領の事件が明るみに出るきっかけを作ってくれた。そして今度は、王都を狙う竜の怒りを抑えてくれた。

 俺だって、彼の負担を少しでも減らしたい。彼の役に立ちたい。

「俺だって、せっかくここまで飛んできたんだ。彼の力になりたい」
「それなら、私がそう伝えます。あなたは、部隊を迎える用意をしてください。王城と、公爵家にも報告をお願いします」
「それはもう終わった。お前こそ、デペンフィトの取り調べの件はどうなっているんだ?」
「延期ですよ。あなたがこっちに飛んできたから」
「…………」
「とにかく、部隊が到着して、警備隊から調査に関する報告を受けたら、一度王城に戻ってください。あなたは、そのための準備をどうぞ。彼には私が伝えておきます」
「準備ならすぐに終わる。彼に伝えるのは、俺がする!」
「何をむきになっているのですか?」
「…………別に。俺が伝えたいだけ」

 何しろ、昨日はフィルロファルのことが気になって仕方がなかった。この砦をここまで修復して、残党たちの事件を一人で解決した彼のことが。

 こんなこと、誰にでもできることじゃない。

 俺の前では、いつも俯いて、頭を下げていた彼が……

 立ち止まり、窓から外を眺める。

 今日は雲が多い。外は朝でも暗い。それなのに砦の中は暖かく、明るい。彼がここまでのものにしたんだ。一人で……大変だったに違いない。

 ここはほとんど廃墟だったと聞いた。だから、公爵家からも、彼を支援するためのものを送った。彼が、理不尽に苦しむことがないように。

 それなのに……

 今の彼は、俺と婚約をすることになっていた時の彼より、ずっと力強く笑っている。

 この砦に来て、さらに強く思うようになった。

 彼のことが、ずっと気になる。

 昨日の俺は、ずっとそうだった。
 しかし、彼の方は俺に見向きもしない。

 俺が同じ部屋で作業をしていても、考えているのことは、砦と任務……

 俺のことを微塵も意識していない……

 俺たち、過去に婚約しようとしていたんだよな? 確かにしていたな……気のせいではないよな!??

 一緒に夜会にも出たじゃないか……いや……あれを「一緒に夜会に出た」と言っていいのか? 俺は彼の横を素通りして、「客人に挨拶をする。そこにいろ」と言っただけ…………

 夜会の件を怒っているのか? 怒るか……そうだよな。少しくらい、彼と話せばよかったな……

 だが、それにしても、彼はあの狭い部屋に俺と二人でいても、一度も俺に振り向かないし、作業に夢中だ。俺はずっと彼を気にしていたのに。

 それどころか、話せば話すほど、俺の存在など彼には不要な気がして、「俺は必要ないのか」などと、彼の目の前で口走る始末だ。
 あの時の彼のきょとんとした顔が、胸に突き刺さる……

 婚約なんて話、全くなかったかのような雰囲気じゃないか。俺が何を言っても彼から返ってくる言葉は、事件、横領、任務、砦……

 彼はここの管理を任せて欲しいと言っていたし、今は事件を解決しなくてはならない。彼がそのことに熱心にあたっているからなのかもしれないが……

 あいつは……俺のことを、全く意識していない……
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