僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐

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 街中を抜けていくと、静かな通りと水路の向こうに、鉄の柵に囲まれた屋敷が見えてくる。ルイルット家の屋敷だ。

 ヴィクトウェトル様は、まだ事情が分かっていない僕に、ことの経緯を説明してくれる。

「マウィルイセマスと彼の一族、マヴィルデロウォル家ですが、彼らは、クヴェガフォル殿下の側近の立場にあることで、王家の物を自分たちの物と勘違いしていたようです。有力貴族を利用して、王国の魔法と、魔法の道具の管理を牛耳っていこうと考えていたようです」
「……マウィルイセマス様が……そんなことを……?」
「そして、マウィルイセマスの一族の中で、彼の意見には反対し、自分たち以外の有力貴族を排して、王国の魔法の道具の管理を独占したいと考えていたのが、マウィルイセマスの兄であるマヴィルデロウォル家当主で、この二人は、ずっと権力闘争を繰り広げています。ラグドジャスやデペンフィトの一族は、マウィルイセマスに賛同していて、彼に協力していたようです。そうして、王国の貴重な道具をほしいままにしていたのでしょう。あなたを幽閉に追いやったのも、騒ぎが大きくなったことで、魔法の道具を詳しく調べられて、勝手に道具を持ち出していたことがバレることを避けたかったようです。処刑して、さっさと幕を引こうという動きもあったくらいですから。調査の途中、色々と妨害を受けましたが、それも終わりです。幽閉に反対し調査を進めていた我々を敵とみなし、私たちを城から遠ざける気でいたようですが……ついに逃げられないと悟り、ルイルット家という犯人を作って、その隙に国外に逃亡する気です。もちろん、そんなことはさせませんが……そうでしょう? ロステウィス」
「ああ……」

 答える宰相様は、先頭を歩いていく。

 彼らだって、ここまで来るのに、幾つも準備を重ねてきたんだろう。僕がいなくても滞りなく作戦は進んでいたのかもしれないけど……せっかく宰相様たちが、僕も作戦に加えてくれたんだ! 僕にできることをしたい。

 屋敷が見えてくる。明かりがついているようだけど、特に騒ぎが起こっているような気配はない。

 宰相様に、僕は、そっと尋ねた。

「あの……僕の一族は、拘束されるんですか?」
「彼ら次第だ。まずは俺が中に入る。そこで交渉して、連行に応じるならそれでいい。それが出来ないのなら拘束する」

 すると、ヴィクトウェトル様が振り向いて言った。

「……ロステウィス。部隊を突入させた方が早いのでは? もしも逃亡する者がいたらどうするのです? これ以上被害が広まる前に、片をつけるべきです」
「すでに逃げ場はない。これ以上追い詰めれば、やけになった者が、屋敷の中にいる者を傷つけてでも逃げようとするかもしれない。中にはまだ、何も知らない使用人がいるはずだ。魔法の道具の管理に困ったルイルット家が、魔法使いを雇って作業させていると言う話もある。無関係な者が巻き込まれることは避けたい」

 そこで、僕は口を挟んだ。

「あ、あのっ……宰相様! ヴィクトウェトル様!! ぼ、僕も中に行きます! 屋敷の中のことなら詳しいですし、無関係な人も中にいるなら、彼らを逃すことに、きっと役に立って見せます!」

 すると、二人とも僕に振り向いて、少し考えていたようだったけど、分かったと言ってくれた。

 宰相様が、僕を見つめて言う。

「今さら君を止めるのは侮辱になるな……頼む……フィルロファル」
「はい!」
「じゃあ、屋敷の中に入るのは、俺とフィルロファル、それに、オフィセイール、来てくれるか?」
「お任せください」

 オフィセイール様はすぐにそう答えるけど、ヴィクトウェトル様は反対な様子。

「たった三人で行くつもりですか? オフィセイールはともかく、フィルロファルはこのような場には慣れていないでしょう?」
「三人じゃない。おい、出てこい。ヴァルウィトフェル」

 宰相様が呼びかけると、僕の背後から、小さな竜が顔を出した。

「やっと分かってきた? 僕もいるってこと!」
「……お前なら、常にフィルロファルのそばにいて、彼を守ることができるはずだ」
「もちろんだよ!」
「…………いいか? フィルロファルを守るだけじゃだめだ。中にある物を壊さず、中にいる人も傷つけるな。それが、なによりフィルロファルのためだ」
「お前なんかに言われるまでもない! フィルロファルのそばには、僕がいるから、お前はいなくていいよ!」

 また竜が尻尾を振り上げそうで、慌てて抱っこして止める僕。ここまできて、内輪揉めはダメだ。

 宰相様は、門の方に振り向いた。

 門の前には、二人の小柄な男が立っている。
 片方は長い魔法の杖を持って、暇そうにしている魔法使いの男。肩から下げた鞄には、魔法の道具がいっぱい詰まっているようで、重そうに見えるくらいだ。
 もう一人は、門の前に座り込んでいる剣士のような男。頬杖をついて、ぼーっとしていた。

 多分門番だろうけど……まるでやる気がないみたい。門番というより、冒険者か傭兵みたいだな……

 だけど、屋敷の守りだけは、町よりしっかりしている。
 強力な魔法の道具で結界を張り、何か異常があれば中に知らせる魔法がかかっている。
 それに、柵にも門にも玄関にも、ここから見える窓にまで、強い鍵の魔法がかかっているようだ。そのうちいくつかは、破壊しようとすると爆発するような魔法までかかっているみたい。

 強行突破をしようとすれば、中にいる領主は、ここにいる人を見捨てて逃げるんだろう。
 そんなことにならないように、できるだけこっそり敵に近づきたい。

 門以外から入れば、侵入を魔法の道具が中にいる人に知らせるだろうし、かと言って、道具を全部気付かれないように破壊していては、中に入る前に逃げられてしまうかもしれない。

 入るなら、門からがいい。

 それが、できれば……だけど。

「行くよ」

 宰相様に言われて、僕は部隊のみんなと屋敷に向かった。

 門にはまるで興味のない門番二人も、自分たちに近づいてくる足音に気づいて、顔を上げる。

「え……え??」

 驚く門番の前に、ロステウィス様が立つ。そして、ロレストラル家と王家の紋章を見せて言った。

「俺は、ロステウィス・ロレストラル。ルイルット家の当主と、その客に用がある。門を開けてくれ」
「ろ、ロレストラル家っ……!?」

 門番たちの顔色が変わる。

 驚くのも当たり前だ。こんなところに、ある夜突然、公爵家の方が現れたんだから。しかも、背後には僕とオフィセイール様。そして、部隊のみんな。

 屋敷を取り囲むことができそうな人数の部隊が、突然自分たちの前に現れてこんなことを言ったら、腰を抜かす人だっているかもしれない。

 怯えたような彼らに、宰相様が微笑んだ。

「そんなに怯えなくていい……何も、攻め入るために来たんじゃない。ルイルット家の当主と、その客人に王城まできていただきたい。これは、王家の命令だよ」
「おっ……王家!??」
「できるだけ……静かに。騒ぎを起こさずに中に入りたい。どうか……門を開けてくれないか?」

 すると、杖を持った魔法使いが頷いた。

「は、はい……! た、ただいまっ……い、一族の方に伝えて参ります!」
「待って」

 すぐに宰相様に止められて、魔法使いは怯えた顔で振り向く。

「え…………あ、あの……! な、何か……?」
「呼びには行かないで欲しい。中の当主に知られると困る。内緒で門を開けてくれないかな?」
「……え………………」

 魔法使いは、ひどく驚いたようだった。剣士の方が、慌てた様子で言う。

「で、できません!! そ、そんなこと言われても、困りますっ……!! 一族の許可なく門を開けるなって言われてるんですっ……!! お、俺たちが……罰を受けるんです!!」

 二人は真っ青。特に、魔法使いの方は、声も出せなくなっている。

 公爵家の宰相が王家の命令だと言っても開けないんだ。よほど、命令に忠実であるように言いつけられたに違いない。

 何しろここは、屋敷への侵入経路として、最も有力な場所。だったら、ここの対策に一番力を入れるはず。恐怖や苦痛を使ってでもだ。きっと、二人とも脅迫に近い方法で命令されている。

 門に巻きつけられた鎖のようなものは魔法の道具で、ここで異常があれば即座に屋敷の中に伝わる可能性が高い。

 彼ら二人を眠らせる魔法を使うか、道具が動かないように破壊する魔法をかけるか? でも、怯えたままでいる二人は放っておけない。

 魔法を使おうとする宰相様とその隣で杖を握るヴィクトウェトル様。僕は二人に声をかけて、怯える二人の門番の前に出た。

「…………一族以外に扉を開けてはならないって言われて……脅されたんですか?」
「え…………?」

 魔法使いが、驚いて僕を見上げる。

「宰相様も、ヴィクトウェトル様も、門が開けばそれでいいとは考えていません。できるだけ血を流さず、今回の事件の被害に遭った人も助けたいと思って、ここまできたんです。ですから、怯えることなんてありません」
「…………あ……あの……もしかして…………フィルロファル様……」

 魔法使いの方がそういうと、隣にいた剣士も、ひどく驚いた様子で言う。

「は!? えっ……フィルロファルって……屋敷から出て行った…………」
「門を開けてください。フィルロファル・ルイルットが帰りました」
「…………そんな……まさか…………」

 戸惑う剣士だったけど、魔法使いと顔を見合わせている。そして、僕に振り向いた。

「あ、あのっ……ほ、本当に……フィルロファル……さま……ですか? だ、大丈夫なんですか?」
「もちろんです!!」

 答えると、二人は門を開けてくれた。

「開きました……俺たちが開けたって、言わないでください……」

 剣士の方がそう言うけど、多分言わなくてもバレちゃう。バレたら二人が何をされるか分からない。

 僕は、僕に背を向ける剣士の服を掴んだ。

「あなたにこのままここにいてもらうわけにはいきません」
「は!?? なんですか! それっ……! あ、開けろって言ったのにっ……ルイルット家なんですよね!? 俺はあなたがそう言ったから開けたのにっ……! ば、罰を受ける謂れなんかないっ……! もうっ……殴られるのは嫌だっっ……!!」

 泣き出しそうになっていう彼は、僕を振り払おうとするけど、その手を、宰相様が握る。

 僕は彼にできるだけ優しく言った。

「あなたたちのことは、ここにいる部隊のみんなが守ってくれます! だから、安心してください!」
「はあ!? 意味が分からないっ……! は、離せよ!」
「あ、できるだけ静かに……門と、この辺りにかけられた魔法、解くので……」
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