陥れられ蔑まれた俺は、暴虐な冷酷貴族に拘束された。鎖に繋がれ婚約を迫られたが、断固拒否してやる!

迷路を跳ぶ狐

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6.訳が分からない……

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 周りの貴族たちもびっくりしたみたいで、口々に「無茶だ」と叫ぶ。

 コンフィクルが、顔色を変えて叫んだ。

「ベルブラテス様!! 何をおっしゃいます!!!! そ、そのようなことっ……! できるはずがないではありませんか!!」

 あいつも、まさかベルブラテスが信じるとは思っていなかったらしい。ひどく焦ったような様子だった。

 俺だって焦ってる。まさか、いきなり信じてくれるなんて思わなかったんだ。

 けれど、ベルブラテスはコンフィクルを睨みつけて言った。

「黙れ、コンフィクル。この男の言うことはもっともだ」
「し、しかし……」
「アンガゲルのしていることは、陛下の意に反する。今すぐ使い魔を送れ、コンフィクル。貴様がアンガゲルに手を貸しているのなら、話は別だが」
「な、何をおっしゃいます!! わ、私は何も…………だ、だいたい、その男は罪を犯しています! 城に侵入した罪、会議に侵入した罪、あなたの魔法の道具を破壊した罪もです! そ、それなのに……」
「こいつがここに侵入し会議と俺の魔法の道具を台無しにしたことと、アンガゲルのしていることは関係がない。侵入の罪の方は償ってもらう」

 ベルブラテスは、俺に振り向いた。

「先ほど、俺の魔法を防いだのは、貴様の結界か?」
「……え? ……えっと……はい……俺の結界です……」
「……貴様が、一人でか?」
「はい……」
「そうか……では、貴様がさっき言った通り、結界は貴様に任せよう」
「え?」
「貴様の結界の威力は見せてもらった。貴様が結界を張って街を守ればいい。貴様の犯した罪は、それで精算してやる」
「…………」

 ……本気か?

 俺のしたことが、どれだけのことか、俺にも分かってる。城に侵入して、ベルブラテスの魔法の道具を台無しにしたんだ。それなのに、本当にそれでいいのか?

 戸惑っていると、そいつは首を傾げた。

「どうした? 嫌だというのか?」
「へっ!? …………あっ……えっと……い、いや、ではありません。でも……本当に……それでいいんですか?」
「ああ。俺も、貴様の魔法を見たくなった」
「……俺の?」

 ……なんで俺の魔法なんかを?

 ベルブラテスと言えば、かなりの魔法の使い手として有名だ。そんな人が、俺の魔法になんて、なんで興味を持つんだ?

 戸惑う俺に、そいつは不気味な顔で笑う。

「どうした? 領主の城の会議に侵入したことを、結界だけでチャラにできるんだぞ? それとも、死刑の方がいいのか?」
「わ、わかりました…………俺が、結界を張ります……」
「よく言ったな……明日になったら、その結界の力を見せてみろ。貴様が本当に役に立つなら、その力を使って働く代わりに、侵入と破壊の件は、なかったことにしてやる」
「……」

 なんだか、気前が良すぎて、ますます不気味だ。

 結界を張ってほしいだけなら、俺を痛めつけて服従させることもできるはず。貴族ならそうするはずなのに……

 なんなんだ……一体。

 けれど、コンフィクルが、それを聞いて喚く。

「ベルブラテス様っ……お言葉ですがっ……!! ほ、本気でそれをそばに置くつもりですか!?」
「ああ」
「しかし……城に侵入した罪人を城に置くおつもりですか! し、しかもそれが街を守るなど……そんなこと、誰も納得しませんっっ!!」
「やってみなくてはわからないだろう? この男が、俺の魔法を全て防ぐのを、貴様も見たはずだ」
「しかしっ……そ、その男の無能ぶりは私が一番よく知っています! ベルブラテス様の魔法の道具だって、破壊したのですよ!」
「そんなことくらいなら、俺もよくやる」

 あっさり言われて、コンフィクルはついに黙った。

 よくやるんだ……

「そうなったら、こいつが治せばいい」

 そう言ってベルブラテスは、俺を壁につなぐ鎖を千切る。

「うわ!!」

 倒れそうになる俺を、ベルブラテスは抱き止めた。

「な、なんだよ! 離せっ……!! 俺に触るな!!」
「ついでに俺が壊したものも、貴様が治せ」
「え!?? え……え??!!」
「断らせはしないぞ。修復の魔法は使えるな?」
「……うまくいくか分かりませんが……」
「それでいい」

 いいのか? こんなこと、誰も納得していない。どいつもこいつも大反対なようで、口々に「馬鹿なことはおやめください!」と騒ぎ出す。その勢いは、さすがの俺でも怖いくらい。

 そんな中、唯一冷静だった一人の貴族が、口を開いた。

「ベルブラテス様。あまり無茶ばかり言うのはおやめください」

 その男が冷たく言うと、周りの貴族たちも、口を閉じてそいつに振り向く。それは、深い緑色の長い髪の男で、物腰は柔らかいようだけど、俺を睨む目はひどく冷たい。
 誰か一人が、そいつのことを「ブローデス様」って呼んでいた。それがこの男の名前らしい。

 ブローデスは、ベルブラテスに向かって冷淡に言った。

「街では魔物に傷つけられるものが増えているのです。そんな時に、明日から回復と結界は城に侵入してベルブラテス様の魔法の道具を破壊した罪人が一人でやります、などと発表すれば、民たちがどれだけ不安に思うか、想像ができますか?」

 ベルブラテスは、しばらくその男を睨んで、俺を抱き寄せた。

「これの腕を、貴様も見ただろう?」
「見ましたが、そう言う問題ではありません。領主様も、こんなことをお許しにはなりません。そもそも領主様は、結界の魔法使いとして有名な王都の魔法使いに会うために出かけておられるのです。なぜだか分かりますか? あなたが婚約の話を台無しにしたせいで、先方から来るはずだった結界を操る魔法使いたちが、誰も来なくなってしまったからです」
「……相変わらずお前は口うるさいな……」
「得体の知れない侵入者が、自由に城を歩き回ることを黙認することはできないと申し上げているのです」
「そうか……」

 肩をすくめたベルブラテスに、今度はコンフィクルが言う。

「ブローデス様のおっしゃる通りです! そんな得体の知れないものを、ベルブラテス様のおそばに侍らせるわけには参りません! そもそも、領主様にはどう説明されるのです? そんな得体の知れないものをそばに置くなんて!!」

 するとベルブラテスは、俺の肩を抱いて言った。

「だったらこうしよう。婚約なら、した。今。この男と」
「は…………?」

 コンフィクルは、目を丸くしている。だって、ベルブラテスが指差しているのは、俺だ。

「これで、こいつに城を歩かせても構わないな?」
「か、構います!! そんな馬鹿な話がありますか!!」

 コンフィクルは、ひどく焦っているようだった。

 俺も同じだ。

 こいつは一体、何を言ってるんだ?

 訳がわからない……

 ブローデスが「いつも申し上げていることですが、思いつきでアホなことを始めるのはおやめください」と言って、ベルブラテスを睨む。次の領主になるかも知れない人に向かって「アホ」って、かなりひどい言い方だが、ベルブラテスはあまりに気にしていないみたい。
 ガレイウディスも舌打ちをして「またわけわかんないこと言い出した……」って呟いていた。

 呆れた目でベルブラテスを睨む二人とは違い、周りの貴族たちは、次々に喚くように反論し始めた。

「お待ちください! ベルブラテス様!! そ、そのようなこと……無茶苦茶です!! り、領主様がなんとおっしゃるか!!」
「あの変人なら笑うだけだ」
「しかしっ……!」
「しつこいぞ」

 そう言ったベルブラテスが、貴族たちに振り向くと、彼らはまた黙ってしまう。

 すると今度は、コンフィクルが喚いた。

「べ、ベルブラテス様! このようなことっ……領主様もお許しになるはずがありません!! よろしいのですか!? 今、領主様のご機嫌を損ねれば、領主の座は、キユルト様に任せるとおっしゃられるかもしれません!」

 そう言われてベルブラテスはひどく鋭い目でコンフィクルに振り向いた。

「……それは、貴様らだろう。キユルトがそれを望んでいると、本当にそう思うのか?」
「それはっ……」
「そういえば、貴様……先ほど俺の許可なくこいつを撃ったな?」
「は? そ、そのようなこと、どうでもいいではありませんか!!」
「黙れ」

 そう言ったベルブラテスの魔法で、コンフィクルは吹き飛んで、壁に叩きつけられ、動かなくなる。

 周りが、しんと静まり返った。

 マジで何考えてんだ……こいつ。

 相手は一応貴族の魔法使いだろ……そんな奴にこんなことして、ただで済むと思っているのか?

 マジでこいつ、訳分からん……

 周囲が呆然としている。
 コンフィクルはまだ気絶していて、それを見たガレイウディスが頭を抱えている。
 さっきベルブラテスを冷徹に諌めたブローデスは、ため息をついていた。

 俺は何がなんだか分からない。

 そんな中、ベルブラテスは俺の手を握って、一人だけ上機嫌で牢から出ていった。
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