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7.何かされると思っているのか?
しおりを挟む俺が連れて行かれたのは、城の最上階にある部屋の両開きの扉の前。
その扉の前に、ベルブラテスは俺を突き飛ばす。
「入れ」
「……入る前に教えてください……ここ、どこなんですか?」
「俺の部屋だ」
「…………」
ぜってーー入りたくねえ!! 入ったが最後、何されるか分からん!!
急に俺を婚約者とか言い出して、こいつ、わけわかんないし、なんだか怖い……そもそも、なんで初対面の野郎の部屋に入らなきゃならないんだ!!
俺は、そいつから一歩離れた。
「俺はここでいいです……なんなら、さっきの地下牢でも構いません。結界なら、どこにいたって張れます」
「ダメだ。中に入れ。あれだけ下で貴族共を怒らせておいて、暗殺されても知らないぞ」
「あいつらを怒らせたのは、ベルブラテス様じゃないですか!! ベルブラテス様が余計なこと言ったから、あれだけキレてるんです!」
「そうだったか? 忘れたな」
「ほんの数分前のことをかよ!? ……ですか!?」
「さっさと入れ。婚約しただろう?」
「してません!! あなたが勝手に言ってるです!!」
こいつ、わけわかんない。どう対処していいのかも分からない。もうそろそろ、俺の貴族用の対応も限界だ。領主の一族じゃなかったらぶん殴ってる。
敵意を込めて睨む俺を、ベルブラテスはニヤニヤ笑いながら見下ろしていた。
「ここにいて、結界の仕事をこなすのではなかったのか?」
「それはやります。だけど、こんなとこ連れて来られるなんて聞いてません……俺は下の牢屋にいます!」
「そうか。アンガゲルのもとから逃げ出して来て、貴族どもを散々怒らせた貴様が、魔力を抑える鎖に繋がれて、朝まで無事でいられるのか?」
「……魔力を抑えるだけですよね? 俺はあそこでも、結界を張れました」
「そうだな……貴様のあの結界を見た時には驚いた。あれは、なんだ?」
「なんだって言われても……なんで結界張れたのかなんて、俺にも分かんないです」
「魔法にも疎いようだな……とにかく、一人で下にいると、簡単に消されるぞ。大人しく朝までここにいろ。それとも、怖いのか?」
「はあ? そんなんじゃありません。貴族の部屋に入るのが嫌なだけです……」
「貴様も貴族ではないのか?」
「とっくに勘当されてます。知ってますよね?」
「知らん。まるで興味がない」
「…………」
「入れ。不安に思うことはない。結界を張った部屋に見張りを置いて監禁してもいいところを、ここに案内したのは、貴様のその魔法の腕に対する最高の賛辞だ。遠慮せずに受け取れ」
「……いらねーよ……クソがっ……いりません、です……」
くっそ……こいつと話してるとイライラするばかりだ。
何が賛辞だ。馬鹿にしてるだけのくせに。
こいつの魔法を見て、俺はもう、理解している。
俺の魔法は、こいつの足元にも及ばない。一番得意な結界の魔法なら、多少太刀打ちできるかもしれないけど、それも、多少って程度だ。そんな奴が、俺の魔法なんか、本気で褒めるはずがない。
それなのに、ベルブラテスは扉を開いて中に入っていく。
俺、まだ部屋に入るなんて言ってないぞ!!
「来ないのか?」
「……行きたくありません。何されるか分からないので」
「……何かされると思っているのか?」
ベルブラテスは、少し驚いた顔をして、急に笑い出した。
「そんなに怯えた顔をしなくても、俺は貴様のような、色気のない乱暴なチビには全く興味がない」
「ああ!? 誰がっ……つーか、そういうこと言ってんじゃねーよ!! さっき俺を地下牢で殺そうとしたこと、忘れてねーだろーな!!??」
「忘れた。ほら、早く来い。それとも、抱っこして欲しいのか?」
「馬鹿にしてんじゃねーぞ!! …………です……」
ムカつく野郎だな! 入ればいいんだろ! 入れば! 別に怖くねーし!
クソ貴族に俺がなんか言っても無駄なことはわかってる。仲間のことだって、こいつが約束を守るかなんて分からない。だったら、そばにいて見張った方がいいだろ!
俺は、多少緊張していたけど、それを悟られないように隠しながら、恐る恐る部屋に足を踏み入れた。
ベルブラテスが中に入ると、部屋にぼんやりした明かりが灯る。少し薄暗いけど、思っていたより落ち着いた雰囲気だ。キラキラした調度品ばっかりだったら、ぶっ壊してやろうかと思っていたのに。
まず目に入ったのは大きなバルコニーだった。それに、壁に並んだ本棚にぎっしり詰まった魔法の書籍。
テーブルやベッドみたいな生活に必要な家具もあるけど、部屋には多く、魔法の道具や武器が並んでいた。
バルコニーにも、特殊な結界を張るための魔法の道具が並んでいる。そこすら、魔法の実験用に作られているんだろう。
ここが……魔法の研究で名を馳せた男の部屋か……
俺には珍しいものばかりで、つい部屋にあるものに目を奪われていたら、いつのまにか、ベルブラテスは俺に振り向いていた。
「気に入ったか?」
「は!!?? そ、そんなんじゃありません! なんか珍しいもんばっかあるから……み、見てただけです!」
「そうか?」
「そうです!! い、いてやりますからっ……代わりに、俺の周りに結界張らせてください! 貴族なんか、信用できません!」
そう言って俺はそいつを睨むのに、そいつは愉快そうに笑いだした。
「何がおかしいんですか!?」
「いや……信用できないという割に、結界を張る許可をとるのだな」
「……そっ……それはっ……!! かっ、勝手に魔法使ってまた罪追加されんのが嫌なだけです!!」
「そうか? 多少は感謝して信用されたのかと思った」
「んなわけねーだろ!! 誰がてめえなんかにっ……!!」
なんなんだよっ……こいつ!! さっきから人のこと馬鹿にしやがって!!
怒鳴ると、そいつは愉快そうに笑い出して、余計にムカつく。
くそ……落ち着け。
こいつに対してキレても、俺が不利になるだけ。貴族に対する対応の仕方なら、ずっと学んできたじゃないか。
貴族相手にキレても、こいつらを喜ばせるだけ。こいつに、俺を糾弾する格好の材料を分け与えるだけなんだ。
だったら従順なフリだけしていればいい。
「……感謝しろっていうならします……それなら、結界張ってもいいですか? 俺だって、突然こんなとこ連れて来られて怖いんで!」
「感謝はしろ。結界の件の返答は、ダメだ」
「なんでですか!」
「魔法の失敗で突っ込んできた貴様が、勝手に魔法を使うな。次に何かしたら、俺でも庇いきれないぞ」
「それはっ……か、庇って欲しくなんかありません!」
と言いつつ、こいつの言うことも、もっともだと思ってしまう。あれだけやったからな……そう言われるのも、無理ないのかもしれない……
「…………命を助けてくれたことだけは……感謝します……ありがとうございます…………」
ぼそっとそれだけ言って頭を下げる。
それだけは感謝してるけど……それは分かっているけど! やっぱりムカつく!!
苛立つ俺に、そいつは振り向いて言う。
「素直だな」
「うるせーーっ……です……」
「貴様はここで、俺のいう通りに結界の魔法を使っていろ。近々、ここで大きな魔物との対決がある筈だ」
「魔物? この辺りじゃ聞きませんが……」
「ここは、それに対する警戒を強めている。争いが終わるまでここにいて、街の結界を張れ」
「……構いませんが……」
魔物なんて、この辺りじゃ聞かない。どこか別の領地と争いを始めるような気配もない。魔獣たちも町の外にはいるけど、そんなに凶暴化している話は聞かない。それなのに、戦い?
「……もしかして、それ……後継者争いが関係してたりするんですか?」
「……さあな」
返事が曖昧だな……ってことは、多分そうなんだろう。
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