冷遇された僕、思いが募るばかりなので遠ざかったら嫉妬心を見せつけた隊長が襲いかかってくる。僕じゃなくても良い、邪魔するなって言ってたのに……

迷路を跳ぶ狐

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39.もうすぐだから

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 どうしようか迷っていると、王子殿下が魔法で飛んできた。

「やめなよー。ヴァンフィルイト」
「……また出たな…………何か用か? さっさとご自分の部隊にお戻りください」

 冷たくヴァンフィルイト様に言われて、王子殿下はすぐに言い返す。

「そんなに鬱陶しそうに睨まないでよ。デフィトリュウィクだって、怯えているじゃないか」

 殿下にそう言われて、ヴァンフィルイト様は僕に振り向いた。

「…………怯えて……? そうなのか?」
「……ぁ…………えっ……と…………」

 …………怯えてるって言うのとは……少し、違うかもしれない。

 確かに、少し怖かった。だけど、それ以上に…………少し、嬉しいように感じたんだ。だって、ヴァンフィルイト様が強く僕にそう言ってくれて……僕に受け取れと繰り返してくれる事が、嬉しかった。彼に、強く……求められた気がして…………

「えっ……と…………お、怯えていた……わけではありません。た、隊長が、僕に渡したいとおっしゃってくださったことは、とても光栄で……う、嬉しいんです! だけど、その……お、怯えてるというより、なぜ僕に、こんな貴重なものを渡してくださるのですか? 僕は、ただの部隊の下っ端の魔法使いです。ヴァンフィルイト様は隊長で……隊長から、ただの下っ端の僕が、そんなことをしていただくわけには参りません」
「…………隊長か……」
「は、はいっ……! そうでなくとも、隊長にはとてもよくしていただいているので…………」

 隊長には、感謝している。今だって。こうしてまた部隊に戻ってこれたことも、そばで座っていられることも光栄だ。

 だから、杖だって渡してくれて嬉しかった。気遣われたようで。僕がここにいることを認めてくれて、僕にまだ、ここにいて欲しいと思ってくれたようで。

 ……隊長は、僕にとって……そんな人だ……隊長が素っ気なくて、冷たくて、いつも僕のことなんか見てくれなかった時から、ずっと。
 褒めてくれたのだって、僕を部隊に誘ったあの日だけ。
 周辺を回って魔物の状況を探っても、隊長からもらえる言葉はいつだって、遅い、やっと終わったのか、そんな言葉だけ。
 ずっと僕のことなんて、まるで見てくれなかった。

 それでもヴァンフィルイト様が、僕が渡した情報を蔑ろにしたことは、一度もない。

 これまで、僕が渡すものは、全部、目の前で踏みつけられて来た。
 兄弟を守りたくて魔法を学べば、兄弟を殺す気だと疑われたし、部隊に入って、そこでなら役に立てると頑張れば、伯爵に目をつけられて、この役立たずと罵られるばかり。

 そんな中、僕が渡したものを受け取ってくれた隊長の手は、僕にとって信じられないくらい貴重なものだった。それこそ、国中の宝と比べたってこれほど珍しいものはないくらいに。

 僕には、それだけで、あんなに嬉しくてたまらないものだったのに、別れ際に褒めたりなんかするから、強烈な媚薬みたいで、そのまま陶酔しそうだった。

 …………あの時、隊長の手を取らなくて、よかった…………
 とっていたら、溺れすぎて、僕はもう戻ってこれなかったかもしれない。ヴァンフィルイト様の護衛になって、彼の隣にいて、そのために頑張ることもできなかった。

 だから…………
 これで、よかったんです……

「………お返しします。気遣っていただき…………本当に、ありがとうっ……!!」

 彼の手が、僕から杖を受け取る。

 突然強く握るから、少し驚いた。

「あ、ありがとう……ございました…………」
「……」

 杖を握ったヴァンフィルイト様は、僕をじっと見つめていた。

 どうしたんだろう…………

 ……ちゃんと返す。杖だって、恩だって。だから……返したものは、受け取ってくれるよな……

 それなのに、なんでこんなに緊張してるだよ? だって僕、杖を返しただけ……だよ?

「…………隊長か……」
「え…………?」
「……なんでもない。お前はいつも俺のことを隊長と呼んで、俺に報告を持って来ていたな」
「あ…………」

 ヴァンフィルイト様が笑ってくれて、僕はホッとした。
 ……隊長も、あの時のこと、思い出していたんだ。

「えっと……はい……」
「隊長の前でよく緊張していたからな。お前は」
「や、やめてください!! あの時のこと、覚えてるんですからっ……は、恥ずかしいじゃないですか……」

 僕が顔を背けても、彼は僕を見つめたまま。

「……あの時、もっと……ちゃんと受け取ればよかったな」
「え……」
「報告を」
「あっ……報告、なら……ちゃんと受け取ってくれましたよ! はい……あ、ありがとう…………ございました」

 なんだか、ヴァンフィルイト様に見つめられていると、だんだん落ち着かなくなってきた。

 逃げるように彼から顔を背けていたら、頬に何か、触れた。振り向こうとしたのに、すでに彼に頬に手を置かれていて、微動だにできない。

「え……? あっ…………!」

 気づいた時には、もう遅かった。だって僕はもう、捕まってしまっている。隣に座っているヴァンフィルイト様に、腰に手を回されて、頬を捕まえられて引き寄せられて、逃げることもできない。

 突然のことに驚く余裕もなく、迫って来た彼の唇が、僕の頬に触れた。

「へっ……!!?? あっ……あのっ…………ヴァンフィルイト様っ……!?? ……っっ!!」

 抵抗しようとしているのに、ヴァンフィルイト様の体はびくともしない。捕まったまま、ほんの少しも動けずに、そこを舐めるようにされて、ゾクゾクした。

「んっ…………ぁ、あのっ……っっ!!」

 逃げようとするたびに、強く抱き寄せられる。敵わないままもがこうとしても、彼の力で抱き寄せられたら、全く動けない。僕の頬を舐める音が耳元でして、体が震えた。

「なっ……何をっ…………! ヴァンフィルイト様っ……!!??」
「……俺もそろそろ、我慢の限界だぞ…………」
「はっ……!?? が、我慢って…………何っ……!? なんのことっ…………」

 我慢って、僕、何か我慢させた!??

 もう何を聞かれているのかも分からなくて、暴れるのに、彼は僕を離してくれる気がないみたい。
 頬を弄ぶように吸われて、逃げようとしていたはずなのに、体の中がじわじわ熱くなる。熱が快楽に変わる頃には、体からだんだん抗う力が抜けて、逃げたくなくなって来た。なんでこんなことされてるんだっ……!

「んっ…………ぁっ……ヴァンフィルイトさまっ……!?」
「……大人しく受け取らないからだ…………隊長である俺の言う事が聞けないのか?」
「え…………ぁっ……! ま、待って…………」
「さっさと受け取ると言わないと、もっと恐ろしい目に遭うぞ」
「へっ……!?? わ、わかりました!! う、受け取る!! 受け取ります!!」

 簡単に負けて、慌てて言うのに、ヴァンフィルイト様は僕を離してくれない。

「もうすぐ、俺の城につく…………」
「……え??」
「楽しみだな」

 そう言って笑うと彼は、やっと僕を離してくれた。
 恐る恐る、見上げる。
 まだ、何をされたのか分からない。

 呆然とする僕に、「覚えていろと言っただろう?」と言って、彼は微笑んだ。
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