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7.面倒くさいなぁ……
しおりを挟む任せてって、どうするつもりなんだろう。僕は、会長には迷惑かけたくないのに。
心配になりながらも、演習場に着いたら、遅れてきたことで、先生に睨まれてしまった。
ついでに、フォーラウセとその周りにいた生徒達からも冷たい視線が向けられる。
先にここについていたフォーラウセがニヤニヤしているのを見ると、あいつ、多分何か言ったな……
フォーラウセと一緒にいた男が、僕を冷たく睨んで言った。
「ディトルスティ……平民の分際で、よく遅れてこれたな……呆れるぞ」
「……」
うわ……最悪だ。イヴィーリだ。精霊族の貴族の彼は、自分より身分が低い人に対してだけ、態度が違う。それはそんなに珍しいことではないけど、彼はそれがひどくあからさま。寮に入ったその日に、いきなり僕に絡んできたから、よく覚えている。
「お前のような者の、下手くそな魔法で、陛下のお役に立てるはずがない。やる気がないならちょうどいい。さっさとやめろ」
「遅れてきたことは申し訳ございません。だけど、やめろなんて、あなたに言われたくありません。僕の魔法を、あなたは知らないはずです。下手くそかどうかなんて、見てみないとわからないのではないでしょうか?」
「なんだと…………」
あ、しまった。つい、言い返しちゃった。こんなことするつもりなかったのに。
今度はフォーラウセが言った。
「遅れてきたくせに、貴族に敬意も払えないのか……?」
「それは、あなたが僕を足止めしたからでしょう? いい加減、僕に絡むの、やめてくれませんか?」
「絡むだと? 何を馬鹿らしい! 俺は少し、忠告しただけだ。それを……被害妄想も甚だしい!」
「……」
面倒くさいなぁ……僕を呼び止めたのはこの人なのに。
そんな話をしていたら、先生に、授業中だぞって、また注意されてしまった。
「無駄口は減点の対象になるぞ」
「すみません! 気をつけます!!」
慌てて謝って、頭を下げる。すると先生はため息をついて、演習の説明を続けていた。
授業はちゃんと受けなきゃ……退学だけは避けなきゃならない。
フォーラウセやイヴィーリのことも、気にしないようにしなきゃ……さっきだって、それで会長に迷惑をかけてしまったんだ。
会長……もう少し、そばにいたかったです。
授業があるのは分かる。だけど、だからって、もう行っちゃうなんて……
また夜になったら、生徒会室で会えるみたいだけど、それって夜にならないと会えないってこと?
そんなの……待ち切れない。
僕は、ずっと一緒にいたい。なんなら、会長のそばに繋がれていたい。それなのに、会長は放課後まで待てるんですか?
そんなんじゃ、僕は全然足りない。
そんなことを考えていたら、唐突に、先生に呼ばれた。
「ディトルスティ」
「は、はい!」
「聞いていたのか?」
「はい! 今日の演習は、周りに痕跡を残さずに、魔法を使うことです!」
「……やってみろ」
「はい!」
僕は、前に出た。こうした演習の際、魔法はできること前提で話が進む。先生から学ぶのは、それをいかに磨き上げ、自分なりのものにしていけるかだ。
今日の授業のために、得意の水の魔法で、水溜りを作らずに雨を降らせる練習、してきたんだ。
だけど、横から早速、フォーラウセの邪魔が入る。
「先生。俺たち、ろくに話も聞けない平民の魔法なんて、見ていられません。ここにいる方々に危害が及んだら、先生はどうなさるおつもりなんですか?」
すると、その周りにいた人たちまで声を上げる。
「セルラテオ様を付け回して、その上、手を上げるなんて……どうかしています!!」
「セルラテオ様のご迷惑も考えろ!」
口々に上がる僕への非難の声。僕は手をあげたことはないんだけど……なんて、多分言ったところで無駄なんだろう。
すっかりフォーラウセのことを信じちゃってる。
僕が平民とか、そんなこと、今関係ないような気がするんだけどな。話は確かに聞いていなかったけど。
意外だったのは、さっき僕を呼び止めたヴィユザが、何も言わずに顔を背けていること。事態を見物して、楽しんでいる様子もない。会長に言われて、大人しくなったのかな……?
それにしても、僕はセルラテオのことなんて、なんとも思ってないのに、いつのまにか僕がセルラテオを好きで付き纏っている、みたいな話になっているのは心外。
ふざけるな。僕は、会長以外、なんとも思ってない。
それなのに、味方が増えて調子に乗ったのか、フォーラウセは声を張り上げた。
「セルラテオ様は、お前など、相手になさらない!! セルラテオ様にお詫びしろ!!」
「……」
お詫び? 僕にわざわざ詫びに行けってことか? そんなことしていたら、会長に会える時間が減るのに?
ああ、面倒だ。先に対処しておくか……
僕は、先生に向き直った。
「先生。僕、やります!!」
「しかし……」
先生は、周りの様子を見て、少し返事をためらっていた。トラブルを避けたい気持ちはわかる。だけど、僕はもう、これ以上我慢なんて、できそうにない。
「痕跡を全く残さなければいいんですよね? 簡単です!」
僕は、魔法で小さな水の玉を呼び出した。本当はこれで、小雨でも降らすつもりだったんだけど、今は小さな雷撃の光を纏わせている。まるで小さな雷雲だ。
それを見て、フォーラウセは馬鹿にするように笑った。
「なんだそれは……ろくに魔法も使えないのか……」
「そんなことないです! ほら、見てください」
わざと笑顔で言って、僕らは彼らに近づいた。
そして一思いに、それを握り潰す。
すると途端に、演習場が雷撃の渦に包まれた。
雷光は一瞬で消えて、あとには水溜りも雷撃の跡もない。代わりに演習場の周りにあった照明だけが、明かりをつけていた。
フォーラウセは、不思議そうに自分の体を触ったりしている。よほど怖かったのか、震えていた。
「な、なんだ今のはっ……い、いたっ……! ……くない?」
「大丈夫ですよ」
答えて、僕が彼に近付くと、フォーラウセは悲鳴を上げて、僕から離れた。
「お、お前っ……!」
「怪我をするわけないです。みんな、どこにも、傷ひとつないでしょう?」
「だ、だからって……!」
「危害なんて加えてません。少し、それっぽい光を生み出しただけです。錯覚ですよ」
「さ、錯覚だと……!? だが、今確かにっ……! お、お前が俺たちに魔法をっ……!」
「さっきの雷は、そう見えるだけのただの光です。気のせい、なんですよ。それなのに大騒ぎしないでください。被害妄想じゃないんですか?」
「なんだとっ……!!!」
フォーラウセは今にも僕に殴りかかってきそう。
だけど、僕の言ってることは本当で、雷っぽい光をみんなに見せただけ。
その中でフォーラウセたちにだけ、少し頭の中をいじって、本当に雷が落ちたように錯覚させる魔法をかけた。
雷が落ちたんだから、それなりの衝撃があったような気がしたかもしれないけど、体にはなんのダメージもない。痛いような気がしただけだ。
フォーラウセは、そんな魔法にかかったことには、気付いていないみたいだけど。
すると、先生が頷いて言った。
「……いい出来だ。だが、二度と使わないように」
「はい! 気をつけます!」
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