好きな人の「好き」を信じられない僕には、会長の束縛じゃ物足りません

迷路を跳ぶ狐

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30.見物

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 すっかり会長に夢中になっていたけど、これは授業。
 演習場で僕らを集めた先生が、授業内容を説明してくれる。

「今日はこれから、ここで使い魔を作る演習があります! 普段なら、整備担当のものがここをきれいにするのですが、今回は、別の授業と重なり、人員が足りません。そこで、皆さんには草原の整備をお願いします。この道具を使って、凸凹になった土を平らにしてください! 演習直後、使い魔になった直後の土は、魔力を含んでいます。くれぐれも気をつけるように!」

 みんなが返事をする。

 僕も返事をして、先生に渡されたものを受け取った。整備専用のほうきだ。

 それで草原をはくと、少しはいただけで、芝生の上の枯れ葉なんかが消えていく。これなら大した労力はいらないみたい。

 ほうきの使い心地を確かめていたら、ヴィユザが、演習場をちょうど見下ろせる位置に立った物見櫓を指して言った。

「おい……見ろよ」

 そこにはすでに貴族たちが集まっていて、こちらを見下ろしている。

 力のある魔法使いは誰だって欲しい。学生の中には、まだ荒削りな人も多いけど、力のある魔法使いとして名が知れてしまう頃には、すでに他の貴族が護衛として雇っていたりする。今のうちに有望な人を探しておきたいんだろう。

 国王に仕える魔法使いと、王の側近たちもいて、ヴィユザがその中心にいる魔法使いを睨んで言った。

「見ろよ……セランゼ公爵閣下だ」
「……誰?」
「セルラテオの父親だよ。あの人がいるなら、後で陛下もいらっしゃるかもしれないぞ」
「え……」

 あれが、公爵閣下……

 痩せ気味に見えるけど、ローブの上からでも分かる、魔法を使いながら接近戦でも戦えるように鍛えられた体と、美しい魔石を組み込んだ杖を持っている。

 そしてじっと会長を見つめていた。

 公爵は、セルラテオの件を聞いた時、穏便に済ませて欲しいと言ったらしい。
 だけど、実際に僕と一緒に問題を起こしたのは、ヴィユザや取り巻きたち。そっちを切り捨てればよかったのに、それもしなかった。権力で脅して罪を着せ、黙らせるタイプじゃないんだろう。

 だけど、それだけじゃないよな……

 僕だけが全部悪いことにして、僕だけを追い出すこともできたはずだ。
 僕をわざわざ学園に残して、会長に預けて、何考えてるんだ。

 ちょっと不気味な顔をして、公爵は僕を見下ろしてる。そして背後に気づいて、道を開けていた。

 塔の上の他の貴族たちも道を開け、そこを悠々と歩いてくる人がいる。水色の、少し透けた絹糸のような長い髪の、華奢な人だ。たおやかな様子で前に出て、学生たちを見下ろしてる。薄い水色の目は、優しくも見えるけど、底知れないものを感じさせる不思議な雰囲気があった。あの人は、僕でも知っている。国王陛下だ。

 人手が足りないわけだ……陛下がいるなら、学園の魔法使いたちは警備や案内に回るはずだから。

 ここで下手な真似したら、その場で斬首もありそう。

 僕らが芝生の上をほうきできれいにはいて、整備された芝生の上で演習が始まる。

 会長が地面に魔法をかけると、そこが光で包まれ地面から土が吹き上がり、竜になって空に飛んでいく。

 ああ……美しい。会長の竜、最高です。

 ひときわ美しいものを見せつけられて、他の学生たちが尻込みしてる。会長のあれを見たら、それも仕方ない。その上、地面の芝生は何事もなかったようにそのまま。

 美しいです! 会長!! 最高です!! あんな美しいもの、初めて見ました……

 だけど、何だか違和感。会長の足元の芝生、少し不自然に揺れている。そして微かだけど、魔力の光みたいなものが見える。あの辺りは、僕らがすでにほうきではいている。芝生に魔力が残っているはずないのに。

「ヴィユザ、見て」

 僕が、揺れる芝生のあたりを指して言うと、ヴィユザは首を傾げた。

「どうした? あー……また会長か? 本当にお前、会長大好きだな」
「うんすごく。じゃなくて、会長の足元! 芝生に魔力の光が見える」
「は? 何言ってるんだ? 何も見えないぞ」
「え……う、うそ!! 微かに光ってるだろ!」
「気のせいじゃないか? 先生だって気付いてないみたいだし……先生が気づいていたら、整備を命じるはずだろ?」
「……そうだけど……」

 確かに、先生は会長の方を向いているけど、気づいていないみたい。

 公爵や国王がいる前で事故が起これば、学園側の処分は免れない。相当気を張っているはずなのに。
 見えないように隠すための魔法をかけているんだ。かなり高度な魔法だ。フォーラウセたちのはずがない。

 まさか、セルラテオ……!? これほどの使い手なのか!?

 それとも……

 僕は、公爵を見上げた。

 僕を退学にするんじゃなくて、僕も会長も、息子の邪魔をした奴ら全て、ここで消す気か?

 考えすぎかな……? 会長の足元の魔力は微かなものだ。誰かを害せるようなものには見えない。

 だけど……放っておくことはできない。

「せ、先生!!」

 僕は手を上げた。

「あ、あの……整備っ……! みんな使い魔を作って、少し芝生が沈んでます! 整備したほうがいいと思います!」
「……今か? しかし、今はまだ演習中だ」
「そのまま演習していてくれて構いません!! 僕に任せてください!」
「……やってみろ」

 思ったよりあっさり、先生は頷いてくれた。許可してもらえるなんて思わなかったのに。

 ちょっとびっくりする僕に、先生は急かすように言った。

「どうした? できないのか?」
「い! いいえ! やります! やらせてください!」
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