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29.演習
しおりを挟む会長とは食堂で別れて、僕は一応、授業のある教室に向かった。演習の手伝いの件は、マモネークが秘密裏に調べてくれたことだから、まだ秘密なんだ。
会長は、校舎からは少し離れた演習場に向かっているはず。
昨日は僕が迷惑をかけてしまったけど、演習の準備、できてるかな……会長が誰にも後れを取らない使い手だって知ってるけど、心配です。
この校舎にも会長がいないし……会長がいない校舎なんて、寂しいです。
僕らはこれから、氷の魔法の授業があることになっている。
教室で先生を待っていると、隣でヴィユザが「めんどくせー」なんて言いながら、一限の教科書をカバンから出していた。
しばらくすると教室に先生が入ってきて、講義台の前でみんなに声をかける。
「今日は予定を変更して、草原の演習場で演習の手伝いなります。すぐに演習場に集まるように」
……本当にそうなった……マモネークの言っていたとおりだ。
「なんだよ、急に演習の手伝いなんて……めんどくせー」
ぶつぶつ言いながら、ヴィユザが立ち上がる。
「授業よりましか……行こうぜー。ディトルスティ」
「あ……うん……うん!! 行こう!! ヴィユザ!」
「……どうした? そんなに張り切って……」
「だって、僕はこのために学園に来たんだ!!」
教科書をしまって、僕は立ち上がった。
指定された演習場は、芝生が広がる、草原みたいなところ。ここで土から使い魔を作るのが、今日の会長たちの演習内容だ。
広い演習場に出ると、そこにはすでに十数人ほどの学生が立っている。
ちゃんと会長もいる……授業中にも会えるなんて、幸せだ。
その上、僕に気付いたのか、振り向いて手を振ってくれた。
僕の会長だ……
強い風が吹いて金色の髪が靡いて、すごく綺麗。ローブ、よく似合ってます。演習用のものですよね? 今日は土の使い魔だから、汚れたりしないか心配です。もちろん僕が綺麗にしますけど。
草原の中で立つ姿が眩しい。生きててよかった……
すっかり見惚れてしまっていたら、ヴィユザが僕のことを心配そうに見ていた。
「お前……どうした? なあ、大丈夫か?」
「美しすぎて死にそう」
「はあ? な、何言ってんだ? なあ……おい!」
動かなくなった僕の体を、ヴィユザが揺さぶっている。
こういう時の僕は、放置しておいてくれていい。だって、自分の大好きな人が自分の目の前にいたら、誰だって惚けちゃう。
だけど、僕も会長のそばにいるなら、気をつけなきゃ。生徒会に預けられた僕が勝手な真似をしたら、会長にまで迷惑がかかるんだから。
もちろん会長を悪く言う奴は口ごと凍らせるけど。……いや、違う違う違う。何考えてんだ! こういうところを気をつけなきゃダメなんだ!
僕に気付いて数人が振り向いてる。会長のそばでフラントが僕に手を振って、会長に何か言ってる。
近いなあ……僕の恋人なんだけどなあ。自重してくれないかな?
違うーーー! こういうところがダメなんだ!
だけど嫉妬なんて抑えられない。
僕より会長の近くにいるフラントが羨ましい。会長の周りに人が集まって、その中で、会長が照れた顔をしていた。
何の話だろう……いいなあ。僕もそばに行きたい。
けれど会長の周りにいるのは、会長に好感を持つ人ばかりじゃない。
少し離れたところに、セルラテオとその取り巻きたちがいる。そしてセルラテオが会長に近づいて、声をかけた。
何してんだよ……お前は近づくな!!! ご友人は我慢するけどお前は別だ!! 僕の目の黒いうちは、会長に手を出せると思うなよ!!
じっと睨んでいたら、会長と話したセルラテオは、今日は何もせずに離れていく。
よかった……でも、会長に何を言ったんだろう……また、会長を傷つけるようなことじゃないだろうな……
出て行って怒鳴りつけてやりたいけど、今は授業中。僕が勝手な真似をするわけにはいかない。騒ぎを起こして、会長のそばにいられなくなるのは嫌だ。
これからセルラテオが何をしてくるか分からないんだし、僕らと一緒にフォーラウセたちもいるんだ。気を引き締めて、授業を受けなきゃ。
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