1 / 25
1.序章
しおりを挟む
「……お姉ちゃん……やめてよ。気持ち悪いよ……うう」
「ほら。ここ、こんなにおっきくなってるでしょ。これは気持ちいいことなのよ」
「な、なんで……こんなこと……するの?」
「翔流がかわいいからかな」
「お姉ちゃんは、汚いって思わないの?おしっこでるとこだよそこ」
「今、洗ったばかりでしょ。それに女の子は好きな人のここは汚くないって思えるのよ」
「はぁ、はぁ、お姉ちゃん……ぼくのこと好き……なの?」
「うん、大好きよ。翔流かわいいから」
「うぁぁ……お姉ちゃん……ぼく、なんか出ちゃいそう……だよ」
「いいよ、そのまま出して……」
「う…ん。うっ……あ……」
「……」
これが当時小学校五年生だったぼくと、当時大学生だった親戚のお姉ちゃんとの歪んだ関係の始まりだった。このあと、抵抗せずにただ受け入れるだけのぼくに、お姉ちゃんの行為はだんだんエスカレートしていき……ぼくはいつのまにか底なし沼のような暗くて深い場所に堕ちていった。
ぼくはまだ子どもだったからその行為の意味を深く考えていなかった。たぶん、深く考えたくなかったんだろう。漠然とした不安があったからだ。わかってしまったら彼女の欺瞞に気づいてしまうって。
ぼくはお姉ちゃんが大好きだった。その行為の最中だけはお姉ちゃんはぼくに何度も「大好き」って言ってくれる。ぼくはそれだけで嬉しかった。だからいつまでもそんな時間が続けばいいって思っていた。
しかし、お姉ちゃんは突然ぼくの家に来なくなった。ぼくが小学6年生の夏のことだ。
お姉ちゃんは近所に住んでいて両親にも信頼されていた。両親が仕事で遅くなるときにはうちで夕食をつくってくれ、あのあとにぼくと……。でも彼女は急に忙しくなったとか理由をつけてぼくの家にこなくなったのだ。
ある日の夜、両親が話しているのを立ち聞きしたぼくは、真相を知った。それは単純軽快な理由。お姉ちゃんに彼氏ができたんだ。
そのときぼくは、捨てられたことを自覚した。ぼくはまるでいらなくなった玩具みたいだって思った。
現在、ぼくは中学三年生。お姉ちゃんはその彼氏と結婚して二歳の男の子の母となっている。旦那さんは普通の大人の男性だし、今は普通の女性の幸せをつかんでいるみたいだった。なんでぼくにあんなことをしたのか。よくわからない。ぼくは大好きだった人に裏切られた。もてあそばれた。玩具にされた。そんな気持ちだけが心の中に残った。
●
●
●
「美咲、ごめん。私、やっぱり出ていくことにしたから。お父さんとお母さんをよろしくね」
そんな書き置きを残して、当時高校二年生だったお姉ちゃんは家を出た。わたしが小学六年生のときだった。
お姉ちゃんが家出した理由は単純明快だ。好きな人ができてその人の子供を産むためだ。
バイト先で知り合った年上の男性と恋に落ちたお姉ちゃんは、しばらくして彼の子を妊娠した。中絶を勧める両親を説得しようと何度も話し合いを重ねたみたいだけど、交渉は決裂した。追いつめられたお姉ちゃんは彼氏とともに行方知れずとなり、今もどこにいるかわからない……。
わたしはお姉ちゃんが大好きだった。両親が共働きの橘家では、5歳年上のお姉ちゃんがわたしの面倒をみてくれた。
料理が上手で勉強もできるお姉ちゃんは、おいしい夕飯をつくってくれたし、勉強も教えてくれた。寂しくて眠れないときには、お姉ちゃんのベッドで一緒に寝ることもあった。優しくてなんでもできるお姉ちゃんはわたしの憧れだったんだ。
だからお姉ちゃんの突然の失踪は、わたしにポッカリと穴をあけた。学校でも突然寂しさがこみ上げてきて、授業中に泣き出してしまうこともあった。仲の良い友達はみんな心配してくれてたみたいだけど、そのときのわたしはただ時間が経過して空いた穴が少しずつ塞がっていくのを待つしかなかったんだ。
ある日、わたしはまだお姉ちゃんの生活の痕跡が残る学習机に座ってみた。
きちんと整理された机の上には、高校の教科書やノートがそのまま残してある。もう学校に戻るつもりはないという意思表示に見えた。お姉ちゃん、小学校の先生になるのが夢だったのに……。
なんとなく引き出しを開けてみると、メガネケースが入っていた。
「お姉ちゃん、メガネも置いていったんだ……」
お姉ちゃんは子供のころから視力が悪くてメガネをかけていた。でも、高校生になってバイトを始めてからコンタクトレンズをつけるようになった。メガネをかけるのをやめてから急にキレイになった気がしてたけど、たぶん、その頃に彼氏と出会ったんだと思う。
わたしは子どもの頃から視力がよかったからメガネをかけたことがなかった。
なんとなくかけてみる。お姉ちゃんのメガネ。丸っこくて細い銀のフレームのかわいらしいメガネ。度が入っているから視界が少しぼんやりしたけど、なんだかお姉ちゃんのような素敵な女性になった気がした。
そのあと、わたしはこっそりメガネ屋さんに行ってレンズを度が入ってないものに変えてもらい、日常的にそのメガネをかけて過ごすようになった。メガネをかけると不思議と穏やかな気分になり、ぽっかりと空いた穴が塞がったような気がした。友達は突然のわたしのイメチェンに戸惑っていたけど、気にしない。これが新しいわたしなんだから。
でも両親の前では必ず外すことにしている。お姉ちゃんを思い出させてしまうから。だからわたしが普段メガネをかけて生活していることを両親は知らない。でもこれくらいいいよね。お父さんやお母さんに心配かけるようなことはしないんだからね。わたしは。
「ほら。ここ、こんなにおっきくなってるでしょ。これは気持ちいいことなのよ」
「な、なんで……こんなこと……するの?」
「翔流がかわいいからかな」
「お姉ちゃんは、汚いって思わないの?おしっこでるとこだよそこ」
「今、洗ったばかりでしょ。それに女の子は好きな人のここは汚くないって思えるのよ」
「はぁ、はぁ、お姉ちゃん……ぼくのこと好き……なの?」
「うん、大好きよ。翔流かわいいから」
「うぁぁ……お姉ちゃん……ぼく、なんか出ちゃいそう……だよ」
「いいよ、そのまま出して……」
「う…ん。うっ……あ……」
「……」
これが当時小学校五年生だったぼくと、当時大学生だった親戚のお姉ちゃんとの歪んだ関係の始まりだった。このあと、抵抗せずにただ受け入れるだけのぼくに、お姉ちゃんの行為はだんだんエスカレートしていき……ぼくはいつのまにか底なし沼のような暗くて深い場所に堕ちていった。
ぼくはまだ子どもだったからその行為の意味を深く考えていなかった。たぶん、深く考えたくなかったんだろう。漠然とした不安があったからだ。わかってしまったら彼女の欺瞞に気づいてしまうって。
ぼくはお姉ちゃんが大好きだった。その行為の最中だけはお姉ちゃんはぼくに何度も「大好き」って言ってくれる。ぼくはそれだけで嬉しかった。だからいつまでもそんな時間が続けばいいって思っていた。
しかし、お姉ちゃんは突然ぼくの家に来なくなった。ぼくが小学6年生の夏のことだ。
お姉ちゃんは近所に住んでいて両親にも信頼されていた。両親が仕事で遅くなるときにはうちで夕食をつくってくれ、あのあとにぼくと……。でも彼女は急に忙しくなったとか理由をつけてぼくの家にこなくなったのだ。
ある日の夜、両親が話しているのを立ち聞きしたぼくは、真相を知った。それは単純軽快な理由。お姉ちゃんに彼氏ができたんだ。
そのときぼくは、捨てられたことを自覚した。ぼくはまるでいらなくなった玩具みたいだって思った。
現在、ぼくは中学三年生。お姉ちゃんはその彼氏と結婚して二歳の男の子の母となっている。旦那さんは普通の大人の男性だし、今は普通の女性の幸せをつかんでいるみたいだった。なんでぼくにあんなことをしたのか。よくわからない。ぼくは大好きだった人に裏切られた。もてあそばれた。玩具にされた。そんな気持ちだけが心の中に残った。
●
●
●
「美咲、ごめん。私、やっぱり出ていくことにしたから。お父さんとお母さんをよろしくね」
そんな書き置きを残して、当時高校二年生だったお姉ちゃんは家を出た。わたしが小学六年生のときだった。
お姉ちゃんが家出した理由は単純明快だ。好きな人ができてその人の子供を産むためだ。
バイト先で知り合った年上の男性と恋に落ちたお姉ちゃんは、しばらくして彼の子を妊娠した。中絶を勧める両親を説得しようと何度も話し合いを重ねたみたいだけど、交渉は決裂した。追いつめられたお姉ちゃんは彼氏とともに行方知れずとなり、今もどこにいるかわからない……。
わたしはお姉ちゃんが大好きだった。両親が共働きの橘家では、5歳年上のお姉ちゃんがわたしの面倒をみてくれた。
料理が上手で勉強もできるお姉ちゃんは、おいしい夕飯をつくってくれたし、勉強も教えてくれた。寂しくて眠れないときには、お姉ちゃんのベッドで一緒に寝ることもあった。優しくてなんでもできるお姉ちゃんはわたしの憧れだったんだ。
だからお姉ちゃんの突然の失踪は、わたしにポッカリと穴をあけた。学校でも突然寂しさがこみ上げてきて、授業中に泣き出してしまうこともあった。仲の良い友達はみんな心配してくれてたみたいだけど、そのときのわたしはただ時間が経過して空いた穴が少しずつ塞がっていくのを待つしかなかったんだ。
ある日、わたしはまだお姉ちゃんの生活の痕跡が残る学習机に座ってみた。
きちんと整理された机の上には、高校の教科書やノートがそのまま残してある。もう学校に戻るつもりはないという意思表示に見えた。お姉ちゃん、小学校の先生になるのが夢だったのに……。
なんとなく引き出しを開けてみると、メガネケースが入っていた。
「お姉ちゃん、メガネも置いていったんだ……」
お姉ちゃんは子供のころから視力が悪くてメガネをかけていた。でも、高校生になってバイトを始めてからコンタクトレンズをつけるようになった。メガネをかけるのをやめてから急にキレイになった気がしてたけど、たぶん、その頃に彼氏と出会ったんだと思う。
わたしは子どもの頃から視力がよかったからメガネをかけたことがなかった。
なんとなくかけてみる。お姉ちゃんのメガネ。丸っこくて細い銀のフレームのかわいらしいメガネ。度が入っているから視界が少しぼんやりしたけど、なんだかお姉ちゃんのような素敵な女性になった気がした。
そのあと、わたしはこっそりメガネ屋さんに行ってレンズを度が入ってないものに変えてもらい、日常的にそのメガネをかけて過ごすようになった。メガネをかけると不思議と穏やかな気分になり、ぽっかりと空いた穴が塞がったような気がした。友達は突然のわたしのイメチェンに戸惑っていたけど、気にしない。これが新しいわたしなんだから。
でも両親の前では必ず外すことにしている。お姉ちゃんを思い出させてしまうから。だからわたしが普段メガネをかけて生活していることを両親は知らない。でもこれくらいいいよね。お父さんやお母さんに心配かけるようなことはしないんだからね。わたしは。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。
14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。
やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。
女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー
★短編ですが長編に変更可能です。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました
ほーみ
恋愛
春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。
制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。
「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」
送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。
――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。
不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。
和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。
政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる