玩具にされたぼくと、彼女の丸メガネ

清白 芹

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1.序章

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「……お姉ちゃん……やめてよ。気持ち悪いよ……うう」
「ほら。ここ、こんなにおっきくなってるでしょ。これは気持ちいいことなのよ」
「な、なんで……こんなこと……するの?」
翔流かけるがかわいいからかな」
「お姉ちゃんは、汚いって思わないの?おしっこでるとこだよそこ」
「今、洗ったばかりでしょ。それに女の子は好きな人のここは汚くないって思えるのよ」
「はぁ、はぁ、お姉ちゃん……ぼくのこと好き……なの?」
「うん、大好きよ。翔流かけるかわいいから」
「うぁぁ……お姉ちゃん……ぼく、なんか出ちゃいそう……だよ」
「いいよ、そのまま出して……」
「う…ん。うっ……あ……」
「……」
これが当時小学校五年生だったぼくと、当時大学生だった親戚のお姉ちゃんとの歪んだ関係の始まりだった。このあと、抵抗せずにただ受け入れるだけのぼくに、お姉ちゃんの行為はだんだんエスカレートしていき……ぼくはいつのまにか底なし沼のような暗くて深い場所に堕ちていった。
ぼくはまだ子どもだったからその行為の意味を深く考えていなかった。たぶん、深く考えたくなかったんだろう。漠然とした不安があったからだ。わかってしまったら彼女の欺瞞ぎまんに気づいてしまうって。
ぼくはお姉ちゃんが大好きだった。その行為の最中だけはお姉ちゃんはぼくに何度も「大好き」って言ってくれる。ぼくはそれだけで嬉しかった。だからいつまでもそんな時間が続けばいいって思っていた。

しかし、お姉ちゃんは突然ぼくの家に来なくなった。ぼくが小学6年生の夏のことだ。
お姉ちゃんは近所に住んでいて両親にも信頼されていた。両親が仕事で遅くなるときにはうちで夕食をつくってくれ、あのあとにぼくと……。でも彼女は急に忙しくなったとか理由をつけてぼくの家にこなくなったのだ。
ある日の夜、両親が話しているのを立ち聞きしたぼくは、真相を知った。それは単純軽快な理由。お姉ちゃんに彼氏ができたんだ。
そのときぼくは、捨てられたことを自覚した。ぼくはまるでいらなくなった玩具おもちゃみたいだって思った。
現在、ぼくは中学三年生。お姉ちゃんはその彼氏と結婚して二歳の男の子の母となっている。旦那さんは普通の大人の男性だし、今は普通の女性の幸せをつかんでいるみたいだった。なんでぼくにあんなことをしたのか。よくわからない。ぼくは大好きだった人に裏切られた。もてあそばれた。玩具おもちゃにされた。そんな気持ちだけが心の中に残った。



美咲みさき、ごめん。私、やっぱり出ていくことにしたから。お父さんとお母さんをよろしくね」
そんな書き置きを残して、当時高校二年生だったお姉ちゃんは家を出た。わたしが小学六年生のときだった。
お姉ちゃんが家出した理由は単純明快だ。好きな人ができてその人の子供を産むためだ。
バイト先で知り合った年上の男性と恋に落ちたお姉ちゃんは、しばらくして彼の子を妊娠した。中絶を勧める両親を説得しようと何度も話し合いを重ねたみたいだけど、交渉は決裂した。追いつめられたお姉ちゃんは彼氏とともに行方知れずとなり、今もどこにいるかわからない……。

わたしはお姉ちゃんが大好きだった。両親が共働きのたちばな家では、5歳年上のお姉ちゃんがわたしの面倒をみてくれた。
料理が上手で勉強もできるお姉ちゃんは、おいしい夕飯をつくってくれたし、勉強も教えてくれた。寂しくて眠れないときには、お姉ちゃんのベッドで一緒に寝ることもあった。優しくてなんでもできるお姉ちゃんはわたしの憧れだったんだ。
だからお姉ちゃんの突然の失踪は、わたしにポッカリと穴をあけた。学校でも突然寂しさがこみ上げてきて、授業中に泣き出してしまうこともあった。仲の良い友達はみんな心配してくれてたみたいだけど、そのときのわたしはただ時間が経過して空いた穴が少しずつ塞がっていくのを待つしかなかったんだ。

ある日、わたしはまだお姉ちゃんの生活の痕跡が残る学習机に座ってみた。
きちんと整理された机の上には、高校の教科書やノートがそのまま残してある。もう学校に戻るつもりはないという意思表示に見えた。お姉ちゃん、小学校の先生になるのが夢だったのに……。
なんとなく引き出しを開けてみると、メガネケースが入っていた。
「お姉ちゃん、メガネも置いていったんだ……」
お姉ちゃんは子供のころから視力が悪くてメガネをかけていた。でも、高校生になってバイトを始めてからコンタクトレンズをつけるようになった。メガネをかけるのをやめてから急にキレイになった気がしてたけど、たぶん、その頃に彼氏と出会ったんだと思う。

わたしは子どもの頃から視力がよかったからメガネをかけたことがなかった。
なんとなくかけてみる。お姉ちゃんのメガネ。丸っこくて細い銀のフレームのかわいらしいメガネ。度が入っているから視界が少しぼんやりしたけど、なんだかお姉ちゃんのような素敵な女性になった気がした。
そのあと、わたしはこっそりメガネ屋さんに行ってレンズを度が入ってないものに変えてもらい、日常的にそのメガネをかけて過ごすようになった。メガネをかけると不思議と穏やかな気分になり、ぽっかりと空いた穴が塞がったような気がした。友達は突然のわたしのイメチェンに戸惑っていたけど、気にしない。これが新しいわたしなんだから。

でも両親の前では必ず外すことにしている。お姉ちゃんを思い出させてしまうから。だからわたしが普段メガネをかけて生活していることを両親は知らない。でもこれくらいいいよね。お父さんやお母さんに心配かけるようなことはしないんだからね。わたしは。
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