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3.発作
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中学三年生の春。放課後の図書委員会の仕事が終わり、教室へ向かう廊下を歩いていると、ぼくの名前が耳に入ってきた。
どうやらクラスの女子がぼくの噂をしているようだった。そのまま教室に入って気まずい思いをしたくなかったから、教室の前の廊下で立ち止まってどうしようかと思案していた。すると、教室から漏れてくる女子たちの声が自然と耳に入ってくる。
声から察するにどうやらちょっとチャラい感じの女子のグループのようで、恋愛の話の延長でぼくの話になったようだった。
「日向君って可愛いよねー。弟にしたいタイプって感じ」
「そうかな。私はペットにして飼いたい」
「彼女いるのかな?」
「いないでしょ。草食系っぽいし。そもそも女の子に興味がない感じ」
「だとすると、攻め?受け?」
「もちろん受けでしょ。私はサッカー部の新庄君との絡みを妄想してる」
「えー。腐女子おつー」
ハハハと哄笑する女子たち。
「日向君は『可愛い系男子』だからね~。なんか恋愛対象じゃないんだよね~」
「そうそう。やっぱ頼りになる強い男じゃなきゃね~」
「日向君ってやっぱ……だよね。……とかできないっしょ」
「……のババアに好かれるタイプだよね。……とかしてんじゃないの?アハハハ」
その後も彼女たちの奔放なトークは続いた。それはこの年頃の女の子特有の悪ノリなのかもしれないけれど、次第に過激さを増してきた。ぼくは思わずに耳を塞いで走り出す。とにかくその場から逃げ出したかった。目についた階段を駆け上がり、3階と4階の間の踊り場で立ち止まる。息が苦しかった。ドクッドクッドクッと激しい心音が聞こえてくる。
ぼくは童顔で中性的な顔立ちをしているから、こうした下世話な噂話には慣れている。慣れているけど「ああそうか」と納得することはできない。
可愛い系男子ってなんだよ。ぼくはそんなんじゃない。そんなんじゃないんだ。
なんて残酷なんだろう。女って。欲望のために平気で人を傷つける。快楽のためなら男の気持ちを踏みにじってもいいと思ってるんだ……。
クラスの女子たちの無遠慮な言葉に潜む悪意が、お姉ちゃんとの記憶を鮮明に甦らせた。行き場のない悲しみと怒り。それらは奔流となり、やがて理性という堤防を決壊させる。自分を破壊してしまいたいという衝動。血液がマグマのように急激に沸騰していくように感じる。視野が急激に狭窄し、もうなにもかもどうでもよくなる。ガツン、ガツン、ガツン、ガン、ガン、ガン……。衝動的に壁に自分の額を打ち付ける。痛みは感じない。打ち付けるたびになんだか気持ちが軽くなっていくようだった。自然と笑みがこぼれる。キモチイイ。キモチイイ。キモチ……。
突然、グイッと後ろに引っ張られる。誰かがぼくの腰に腕を回して壁から必死に遠ざけようとしている。お前、誰だよ。邪魔すんな。ぼくはイラッとして駄々っ子のように抵抗してみたけど、だんだんどうでもよくなってきて体の力を抜く。熱に浮かされたように頭がボンヤリして全身の感覚が鈍い。ぼくは……ぼくは……壊れてしまったんだろうか……。
視界に体操着を来た女子が忽然とあらわれた。顔を覗き込むようにして必死でなにかを訴えているようだ。丸メガネかけたショートカットの女子。メガネの奥の目は大きく見開かれ、心配そうにぼくの様子をうかがっている。
「美咲ちゃん……ぼく……」
煮えたぎったマグマに突然水をかけられたような気分になり、体がブルッと震える。波が引いていくような気がした。全身から血液が失われていくような虚脱感。視界がぼやけ、空中に浮遊しているかのように全身の感覚が曖昧になっていく。誰かがぼくを受け止める。柑橘系の香りにわずかに混じる汗の匂い。柔らかい感触。自分の存在すべてがまるごと包み込まれるような安心感を感じる。ぼくはそこでふっと気が抜け、意識が遠のいていった……。
どうやらクラスの女子がぼくの噂をしているようだった。そのまま教室に入って気まずい思いをしたくなかったから、教室の前の廊下で立ち止まってどうしようかと思案していた。すると、教室から漏れてくる女子たちの声が自然と耳に入ってくる。
声から察するにどうやらちょっとチャラい感じの女子のグループのようで、恋愛の話の延長でぼくの話になったようだった。
「日向君って可愛いよねー。弟にしたいタイプって感じ」
「そうかな。私はペットにして飼いたい」
「彼女いるのかな?」
「いないでしょ。草食系っぽいし。そもそも女の子に興味がない感じ」
「だとすると、攻め?受け?」
「もちろん受けでしょ。私はサッカー部の新庄君との絡みを妄想してる」
「えー。腐女子おつー」
ハハハと哄笑する女子たち。
「日向君は『可愛い系男子』だからね~。なんか恋愛対象じゃないんだよね~」
「そうそう。やっぱ頼りになる強い男じゃなきゃね~」
「日向君ってやっぱ……だよね。……とかできないっしょ」
「……のババアに好かれるタイプだよね。……とかしてんじゃないの?アハハハ」
その後も彼女たちの奔放なトークは続いた。それはこの年頃の女の子特有の悪ノリなのかもしれないけれど、次第に過激さを増してきた。ぼくは思わずに耳を塞いで走り出す。とにかくその場から逃げ出したかった。目についた階段を駆け上がり、3階と4階の間の踊り場で立ち止まる。息が苦しかった。ドクッドクッドクッと激しい心音が聞こえてくる。
ぼくは童顔で中性的な顔立ちをしているから、こうした下世話な噂話には慣れている。慣れているけど「ああそうか」と納得することはできない。
可愛い系男子ってなんだよ。ぼくはそんなんじゃない。そんなんじゃないんだ。
なんて残酷なんだろう。女って。欲望のために平気で人を傷つける。快楽のためなら男の気持ちを踏みにじってもいいと思ってるんだ……。
クラスの女子たちの無遠慮な言葉に潜む悪意が、お姉ちゃんとの記憶を鮮明に甦らせた。行き場のない悲しみと怒り。それらは奔流となり、やがて理性という堤防を決壊させる。自分を破壊してしまいたいという衝動。血液がマグマのように急激に沸騰していくように感じる。視野が急激に狭窄し、もうなにもかもどうでもよくなる。ガツン、ガツン、ガツン、ガン、ガン、ガン……。衝動的に壁に自分の額を打ち付ける。痛みは感じない。打ち付けるたびになんだか気持ちが軽くなっていくようだった。自然と笑みがこぼれる。キモチイイ。キモチイイ。キモチ……。
突然、グイッと後ろに引っ張られる。誰かがぼくの腰に腕を回して壁から必死に遠ざけようとしている。お前、誰だよ。邪魔すんな。ぼくはイラッとして駄々っ子のように抵抗してみたけど、だんだんどうでもよくなってきて体の力を抜く。熱に浮かされたように頭がボンヤリして全身の感覚が鈍い。ぼくは……ぼくは……壊れてしまったんだろうか……。
視界に体操着を来た女子が忽然とあらわれた。顔を覗き込むようにして必死でなにかを訴えているようだ。丸メガネかけたショートカットの女子。メガネの奥の目は大きく見開かれ、心配そうにぼくの様子をうかがっている。
「美咲ちゃん……ぼく……」
煮えたぎったマグマに突然水をかけられたような気分になり、体がブルッと震える。波が引いていくような気がした。全身から血液が失われていくような虚脱感。視界がぼやけ、空中に浮遊しているかのように全身の感覚が曖昧になっていく。誰かがぼくを受け止める。柑橘系の香りにわずかに混じる汗の匂い。柔らかい感触。自分の存在すべてがまるごと包み込まれるような安心感を感じる。ぼくはそこでふっと気が抜け、意識が遠のいていった……。
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