玩具にされたぼくと、彼女の丸メガネ

清白 芹

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24.翔流の決意

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事務所に美咲ちゃんと美月さんの姉妹を残し、ぼくと和真さんは練習着に着替えるために一階のジムの更衣室に移動した。そこでぼくは気になっていたことを和真さんに質問してみた。
一樹かずき君って前の彼氏の子供なんでしょ。そばにいれば嫌でもその人のこと思い出すよね。和真さんはその人に嫉妬したりしないの?」
和真さんは真剣な表情でぼくを見返し、彼にしては落ち着いた口調で話し出す。
「嫉妬?そういうのは俺にとっては些細なことだ。俺にとって大切なのは今の美月みつきだからな。まあ美月も一樹の父親のことではずいぶん苦しんだよ……。それでも過去を乗り越え、俺と結婚して幸せになりたいって言ってくれた。だから俺はその気持ちを裏切らないために、美月と一樹を全力で愛して幸せにするって誓ったんだよ」
そう言い放ってグッと親指を立てる和真さん。それは度量が広い和真さんらしい考え方だった。ぼくはそんな彼を尊敬しつつも、なんだかに落ちない気分にもなる。
そんなぼくの心情を悟ったのか、和真さんが隣で着替えているぼくの肩をトンっと叩く。
「お前は、自分の過去を重く考えすぎなんじゃないか?それが足かせになってるのは自分でもわかってるだろ」
「え……和真さん、お姉ちゃ……早紀さきさんとのこと、知ってたの?」
「ああ、2年前の6月、早紀の結婚式が終わってから二人で話したんだよ。あいつ、顔を真っ青にして、自分の悪行を懺悔ざんげする罪人のような感じだったな」
「うん……」
父方の伯父の息子である和真さんと父方の伯母の娘である早紀さんはいとこ同士で、歳が近いということもあって、大人になっても交流があったという。
和真さんの話によると、当時、彼女は付き合っていた彼氏の二股交際が原因で別れた直後で、精神的に不安定になっており、男性不信にもおちいりかけていたという。だから早紀さんはまだ女性を知らない純粋な子供だったぼくにあんなことをしてしまった……。要は交際相手に裏切られたショックをまぎらわし、女としての自身を取り戻すためにぼくを利用したんだろう。でもそんな残酷な行為であっても、早紀さんにとっては精神安定剤のように効果てきめんだった。そして、新しい彼氏ができ、それでぼくは用済みとなってポイッと捨てられたわけだ。
「でもな。早紀は付き合っていた彼氏との子供を妊娠し、その子が男の子だとわかったときに、激しい罪の意識に襲われた。自分の子どもが小学生になって同じことをされたらって考えたらゾッとしたってよ。ホントに身勝手なヤツだよな」
「うん……」
「自分は翔流かけるを傷つけてしまった、女性不信の種を植え付けてしまった。あの子が一生女の子を好きになれなかったら全部私の責任だって……泣いてたよ」
そして早紀さんは和真さんに頼んだ。「私は翔流に合わせる顔がないから、代わりに翔流を見守ってあげて欲しい」って。それで和真さんはぼくを辛い過去を乗り越えられる強い男にしようとボクシングジムに誘ったようだ。世話焼きの和真さんらしいなって思った。やっぱり彼は尊敬すべき男なんだ。

「で、お前、美咲ちゃんと今、付き合ってんだろ」
「うん……」
「美咲ちゃんカワイイからなー。毎日、ウハウハだろ」
「何言ってんだよ」
ぼくはなんだか恥ずかしくなって憤慨ふんがいしたそぶりを見せる。和真さんは「ハハハ」と大げさに笑ったけど、すぐに真剣なまなざしで見つめてきた。
「まあ、冗談はさておきだな。とにかくお前はカワイイってだけで女の子を好きにならない。あんなヤツだけど早紀はかなりの美人からな。むしろ見た目がいいだけの女に嫌悪感すら持ってるだろ」
いままで自覚がなかったけど、和真さんの指摘には心当たりがあった。あのとき、ぼくを誘ってきた長谷川さんたちに感じていた気持ちはたぶん、嫌悪感だったのだろう。だからあんなふうに彼女たちと無責任にセックスができたのだ。彼女たちがどんな気持ちだろうと自分にはどうでもいい、壊れてしまっても構わないって思ってたんだ。
「で、お前にとって美咲ちゃんは他の女の子たちとは違ってたってことだろ」
そうだ。ぼくは美咲ちゃんなら自分のすべてを受けれてくれる、ぼくも彼女のすべてを受け入れたいって思ったんだ。そしてぼくは彼女とセックスをした……。それはぼくと美咲ちゃんがお互いに『大好き』って気持ちを伝え合い、心でつながるための秘密の儀式。そんな言葉がしっくりくると思う。それにあのときに感じた美咲ちゃんを絶対に壊したくない、大切な宝物を奪われたくないって気持ち。あれもぼくにとって初めてのものだった。
「うん、美咲ちゃんはぼくにとって大切な人なんだ。この世でたった一人のかけがいのない女の子。絶対に失いたくないって思ってる」
なぜか和真さんに向かって高らかに宣言していた。ぼくってそんなキャラだっけ。
「そうか。翔流もなかなか言うようになったな……」
目を細めて感心したようにうなずく。そのまなざしはなんだか温かくて、まるで弟子の成長を喜ぶ師匠のようだった。でもすぐに彼は真剣な目を向けてくる。
「でもな。男は言葉で気持ちを伝えるだけじゃダメなんだぞ。行動で示さないとな。美咲ちゃんが大切だと思うのなら、もっと強くなれ。そして彼女が悲しいとき、苦しいとき、辛いとき、いつも支えになってやるんだ」
そして和真さんは最後にひとりごとのように遠くを見つめながら言った。
「自分一人では乗り越えられない辛い過去も、それを受け入れて隣を歩いてくれる誰かがいれば、必ず乗り越えられるって俺は信じてる。お前も一人で抱え込むな……」

和真さんの言葉はぼくの心に染みわたり、ちょっとした化学変化を起こしてくれたような気がした。早紀さんのことを乗り越えさせてくれた美咲ちゃん。早紀さんとの関係を彼女に話すのは正直言って怖い。一生秘密にしておこうとも考えていた。
でもそれは、こんなぼくに『大好き』って気持ちを全身全霊ぜんしんぜんれいでぶつけてくれた彼女への背信行為はいしんこういであるかのようにも感じていた。どこかでぼくは、美咲ちゃんの『大好き』って気持ちを疑ってるんじゃないかってね。
できることならこれからもずっと美咲ちゃんの隣を歩いていきたい。だからこそぼくは彼女の気持ちにいつも誠実でいなければって思う。いつか美咲ちゃんに早紀さんとのことを話そう。そしてぼくも和真さんのように大好きな女の子を支えられる強い男になるんだ。
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