23 / 25
23.姉妹
しおりを挟む
わたしはボクシングのトレーニングに向かう翔流くんたちを見送り、事務所でお姉ちゃんと二人っきりになった。目の前にいるお姉ちゃんは、うちにメガネを置いてきたはずなのに、なぜか同じような丸メガネをかけている。
「あれ?お姉ちゃん、家にメガネ置いていかなかった?」
「ああ、これね。新しいの買ったんだよ。やっぱりこのほうが私らしいでしょ」
「うん。わたし、丸メガネをかけてるお姉ちゃん好きだよ」
「私、あの頃は無理してたんだって最近わかったんだ。大人っぽく見せるために背伸びしてただけなんだなってね。中身はただの世間知らずの女子高生なのに……」
お姉ちゃんは遠い目をしながらそう言ったあと、苦笑いをする。
「お姉ちゃん……」
小学生だったわたしにとって、高校生のお姉ちゃんは大人に見えていた。でもそうじゃなかったんだ。せいいっぱい背伸びをして大人になろうと頑張ってるお姉ちゃんを想像して、なんだか親近感がわいてくる。
「でも和真さんはね。そんなおバカな女子高生だった私の過去もしっかりと受け止めてくれたし、ありのままの私をいつも見守ってくれる。だからもう背伸びなんかしなくていいの」
和真さんのことを語るお姉ちゃんは、とても嬉しそうだった。いろいろあったみたいだけど、今は幸せなんだなって感じてホッとする。でもやっぱり気になるのはこれまでのいきさつだ。
「お姉ちゃん。どうしてこんなことになっちゃったの?わたし、ずっと心配してたんだから」
ずっと気になっていた疑問を単刀直入に切り出すと、
「美咲は男の子とセックスしたことある?」
メガネの奥の目は細められ、ニヤニヤしている。わたしは突然のオトナの話題に戸惑ってしまう。
「えっ、唐突に何を言い出すの?」
まっすぐに向けられたお姉ちゃんのまなざしは真剣そのものだ。わたしはお姉ちゃんには嘘をつけない。
「うん……したこと、あるよ」
「ふうん。それって翔流くんでしょ?」
「なんで……わかるの」
お姉ちゃんに指摘され、顔が火照ってくる。
「美咲を見てればすぐにわかるよ。彼のこと大好きって気持ちを全身から発散してるから」
「えー。わたしってそんなにわかりやすいかなぁ……」
「うん、すっごくわかりやすいよ。でも、それっていいことだと思う。特に美咲を好きな人にとってはね」
わたしを好きな人……。翔流くんの顔がまず思い浮かぶ。それから祐佳たちの顔も。
「う~ん。お姉ちゃんの言ってること、わたしにはよくわかんないよ」
「大人になると、本心を隠すのがうまくなるんだよ。それが悲惨な結果を招くこともある」
お姉ちゃんはそう言って眉根を寄せ、自分の過去について語り始めた。
「前の彼氏ね。あ、一樹の父親だけど、私と付き合い始めてからも元カノのことを忘れられなかったみたいなんだ。私はそんなこと知らなかったから、彼のことをどんどん好きになっていって……」
わたしはコンタクトに変えてキレイになった高校生のお姉ちゃんを思い浮かべる。
「でも、彼は元カノとよりを戻そうとしてた。表向きは私の年上の優しい彼氏を演じながらね。デートのたびに『愛してる』って何度も言ってくれたのよ。私は彼に愛されてるってことを全然疑わずに、ただ浮かれてたの」
お姉ちゃんはちょっと悔しそうな顔をしていた。昔の自分の未熟さを後悔しているのかもしれない。
「だからバイトの先輩からそのことを聞いても半信半疑だった。その先輩には別れたほうがいいって言われたんだけど、その頃にはもう後戻りができないほど、彼のことで頭がいっぱいになってた……」
そこでお姉ちゃんは息をのんだ。自分の罪を懺悔するみたいに、わたしの目を見る。
「彼は酔うとコンドームをしないでセックスしたがる癖があった。私、絶対妊娠したくなかったからいつも断ってたんだけど、彼の浮気を知ってからはそういうときにあえてセックスするようにしたの」
「え……それって……」
想像もしなかった。あのお姉ちゃんがそんなことするなんて……。
「今考えると彼の子供を妊娠したいって本気で思ってたわけじゃなかったのかもしれない。ただ彼にとって自分が特別な女の子だって思いたかっただけなんだと思う。体内に彼の精子が流れ込んでくるとき、元カノよりも自分のほうが愛されてる気がして安心できたんだ」
わたしはあのときのことを思い出す。翔流くんがわたしの中でビクッビクッって震えて、そのあと体の内側に温かいものがじんわりと広がっていく感じ。彼の動揺ぶりから女の子の中に初めて出したんだって思った。それでわたし、ちょっとホッとしたような、嬉しいような気分になったんだよね……。
「それからしばらくして私は妊娠したの。彼は優しい人だから私の意思を尊重して責任をとってくれた。一樹が生まれたあともいいお父さんを演じてくれたんだけど、やっぱり自分の気持ちに嘘はつけなかったみたい。一樹が一歳の誕生日を迎える少し前にね。どこかに行っちゃった。私たちを置いてね」
話し終えたお姉ちゃんは、フーと大きくを息を吐き、すがすがしい表情になる。家族に言えない秘密を抱えて過ごしてきたお姉ちゃん。誰かに話せてちょっとスッキリしたんだろうな。
「確かに、好きな人に本心を隠されるのは悲しいね。でも本心がわかりすぎるっていうのも大変なんだよ」
わたしはそう言って苦笑いしたけど、お姉ちゃんが丸メガネをクイッと動かして、真剣な目で見つめてくる。
「美咲はね。気持ちを伝えるのがとっても上手なのよ。普通に話してても表情や口調で本心が伝わる。言葉に気持ちが乗ってしっかりと相手の心に届く。だから美咲が心の底から『好き』って気持ちを伝えれば、翔流くんはきっと同じ気持ちを返してくれる。心が通じ合ってれば、本当は無理してセックスなんかしなくてもいいの……」
やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだ。わたしの気持ちを理解して元気づけてくれる。そんなお姉ちゃんみたいになりたいって思ってたんだよね。
でもお姉ちゃんは最後にこう付け加えた。
「美咲は私みたいになっちゃダメよ。お姉ちゃんは悪い見本だからね」
「あれ?お姉ちゃん、家にメガネ置いていかなかった?」
「ああ、これね。新しいの買ったんだよ。やっぱりこのほうが私らしいでしょ」
「うん。わたし、丸メガネをかけてるお姉ちゃん好きだよ」
「私、あの頃は無理してたんだって最近わかったんだ。大人っぽく見せるために背伸びしてただけなんだなってね。中身はただの世間知らずの女子高生なのに……」
お姉ちゃんは遠い目をしながらそう言ったあと、苦笑いをする。
「お姉ちゃん……」
小学生だったわたしにとって、高校生のお姉ちゃんは大人に見えていた。でもそうじゃなかったんだ。せいいっぱい背伸びをして大人になろうと頑張ってるお姉ちゃんを想像して、なんだか親近感がわいてくる。
「でも和真さんはね。そんなおバカな女子高生だった私の過去もしっかりと受け止めてくれたし、ありのままの私をいつも見守ってくれる。だからもう背伸びなんかしなくていいの」
和真さんのことを語るお姉ちゃんは、とても嬉しそうだった。いろいろあったみたいだけど、今は幸せなんだなって感じてホッとする。でもやっぱり気になるのはこれまでのいきさつだ。
「お姉ちゃん。どうしてこんなことになっちゃったの?わたし、ずっと心配してたんだから」
ずっと気になっていた疑問を単刀直入に切り出すと、
「美咲は男の子とセックスしたことある?」
メガネの奥の目は細められ、ニヤニヤしている。わたしは突然のオトナの話題に戸惑ってしまう。
「えっ、唐突に何を言い出すの?」
まっすぐに向けられたお姉ちゃんのまなざしは真剣そのものだ。わたしはお姉ちゃんには嘘をつけない。
「うん……したこと、あるよ」
「ふうん。それって翔流くんでしょ?」
「なんで……わかるの」
お姉ちゃんに指摘され、顔が火照ってくる。
「美咲を見てればすぐにわかるよ。彼のこと大好きって気持ちを全身から発散してるから」
「えー。わたしってそんなにわかりやすいかなぁ……」
「うん、すっごくわかりやすいよ。でも、それっていいことだと思う。特に美咲を好きな人にとってはね」
わたしを好きな人……。翔流くんの顔がまず思い浮かぶ。それから祐佳たちの顔も。
「う~ん。お姉ちゃんの言ってること、わたしにはよくわかんないよ」
「大人になると、本心を隠すのがうまくなるんだよ。それが悲惨な結果を招くこともある」
お姉ちゃんはそう言って眉根を寄せ、自分の過去について語り始めた。
「前の彼氏ね。あ、一樹の父親だけど、私と付き合い始めてからも元カノのことを忘れられなかったみたいなんだ。私はそんなこと知らなかったから、彼のことをどんどん好きになっていって……」
わたしはコンタクトに変えてキレイになった高校生のお姉ちゃんを思い浮かべる。
「でも、彼は元カノとよりを戻そうとしてた。表向きは私の年上の優しい彼氏を演じながらね。デートのたびに『愛してる』って何度も言ってくれたのよ。私は彼に愛されてるってことを全然疑わずに、ただ浮かれてたの」
お姉ちゃんはちょっと悔しそうな顔をしていた。昔の自分の未熟さを後悔しているのかもしれない。
「だからバイトの先輩からそのことを聞いても半信半疑だった。その先輩には別れたほうがいいって言われたんだけど、その頃にはもう後戻りができないほど、彼のことで頭がいっぱいになってた……」
そこでお姉ちゃんは息をのんだ。自分の罪を懺悔するみたいに、わたしの目を見る。
「彼は酔うとコンドームをしないでセックスしたがる癖があった。私、絶対妊娠したくなかったからいつも断ってたんだけど、彼の浮気を知ってからはそういうときにあえてセックスするようにしたの」
「え……それって……」
想像もしなかった。あのお姉ちゃんがそんなことするなんて……。
「今考えると彼の子供を妊娠したいって本気で思ってたわけじゃなかったのかもしれない。ただ彼にとって自分が特別な女の子だって思いたかっただけなんだと思う。体内に彼の精子が流れ込んでくるとき、元カノよりも自分のほうが愛されてる気がして安心できたんだ」
わたしはあのときのことを思い出す。翔流くんがわたしの中でビクッビクッって震えて、そのあと体の内側に温かいものがじんわりと広がっていく感じ。彼の動揺ぶりから女の子の中に初めて出したんだって思った。それでわたし、ちょっとホッとしたような、嬉しいような気分になったんだよね……。
「それからしばらくして私は妊娠したの。彼は優しい人だから私の意思を尊重して責任をとってくれた。一樹が生まれたあともいいお父さんを演じてくれたんだけど、やっぱり自分の気持ちに嘘はつけなかったみたい。一樹が一歳の誕生日を迎える少し前にね。どこかに行っちゃった。私たちを置いてね」
話し終えたお姉ちゃんは、フーと大きくを息を吐き、すがすがしい表情になる。家族に言えない秘密を抱えて過ごしてきたお姉ちゃん。誰かに話せてちょっとスッキリしたんだろうな。
「確かに、好きな人に本心を隠されるのは悲しいね。でも本心がわかりすぎるっていうのも大変なんだよ」
わたしはそう言って苦笑いしたけど、お姉ちゃんが丸メガネをクイッと動かして、真剣な目で見つめてくる。
「美咲はね。気持ちを伝えるのがとっても上手なのよ。普通に話してても表情や口調で本心が伝わる。言葉に気持ちが乗ってしっかりと相手の心に届く。だから美咲が心の底から『好き』って気持ちを伝えれば、翔流くんはきっと同じ気持ちを返してくれる。心が通じ合ってれば、本当は無理してセックスなんかしなくてもいいの……」
やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだ。わたしの気持ちを理解して元気づけてくれる。そんなお姉ちゃんみたいになりたいって思ってたんだよね。
でもお姉ちゃんは最後にこう付け加えた。
「美咲は私みたいになっちゃダメよ。お姉ちゃんは悪い見本だからね」
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
俺の可愛い幼馴染
SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。
ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。
連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。
感想もご自由にどうぞ。
ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。
両隣の幼馴染が交代で家に来る
みらいつりびと
恋愛
両親がタイへ行く。
父親が3月上旬に上司から命じられた。4月1日からバンコクで勤務する。
うちの父と母はいわゆるおしどり夫婦というやつで、離れては生きていけない……。
ひとり暮らしの高校2年生森川冬樹の世話をするため、両隣の美しい幼馴染浅香空と天乃灯が1日交代で通ってくる。
冬樹は夢のような春休み期間を過ごし、空と灯は火花を散らす。
幼馴染三角関係ラブストーリー。全47回。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
サクラブストーリー
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。
しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。
桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。
※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる