玩具にされたぼくと、彼女の丸メガネ

清白 芹

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17.二人の秘密の儀式(1)

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美咲ちゃんの言葉は真っ直ぐにぼくの心に届き、厚い雲のようにたちこめていた不安は、たちどころに雲散霧消うさんむしょうした。
「うん、しよう……ぼく、美咲ちゃんとつながりたい……」
ぼくは彼女の目を真っ直ぐに見つめ返し、うなずく。
「ありがと……。わたしの気持ち、いっぱい、いっぱい翔流くんに伝えるね」
なかなか返答しないぼくを不安そうに見守っていた美咲ちゃんは、すぐに晴れやかな表情になり、にこやかな笑みを返した。
「よし、そうと決まれば早くしよ。もうこんな時間だし……」
彼女はベッドからスクッと立ち上がると、ぼくの手を取って立ち上がらせる。そしてそのまま部屋の中央のスペースまで手を引いて移動した後、手を離してくるりと振り返った。

部屋の中央で向かい合うぼくと美咲ちゃん。彼女は上目遣うわめづかいでぼくをじっと見つめ、ニコッと笑って一言。
「じゃあ翔流くん、服、脱ごっか。全部ね」
「え……」
服を脱ぐだけならべつに部屋の真ん中でこんなふうに向かい合う必要はないんじゃないか。そんな疑問を抱きつつも、ぼくはあえて何も聞かずにうなずく。なんとなく、これには彼女にとってぼくとのセックスの前に行うべき「儀式」のような意味合いがあるように思えたから。
「あ……」
窓から差し込んでくる陽射しに気づき、ぼくは慌ててカーテンを閉める。
この部屋には、家の前を通る道路側に窓が付いていて、道路を挟んだ向かいの家の二階にも同じように窓がついていた。ふぅ……危なかった。
「これで大丈夫……だね」
「ありがと。このままだと見られちゃってたかも……じゃあ今度こそ……」
そう言うと美咲ちゃんは、ぼくを少し潤んだ瞳で見据えたままセーラー服のスカートの金具のところをカチャカチャと外しにかかる。
しかしすぐに手が止まる。そして恥ずかしそうにちょっとうつむいたあと、
「やっぱり、向かい合って脱ぐのは恥ずかしいよね……」
と言って、クルッと背を向けてしまう。ぼくは「じゃ、ぼくも後ろ向くね」と彼女の背に声をかけてすぐに振り返る。
正直言うと、着ている服を脱いで裸になっていく美咲ちゃんを見ていたい気持ちもあった。でもそんな浮ついた気分は恥ずかしそうに肩を震わす彼女の後ろ姿を見たら、あっという間に吹き飛んでしまった。それにぼくはこのときなんだかホッとしたんだ。やっぱり美咲ちゃんはこういうときに普通に恥ずかしがったり、照れたりする女の子だったって。


でも見えないとかえって想像力が刺激されてしまうものだ。背後で頬を染めて恥ずかしそうに服を脱いでいる美咲ちゃんが頭にチラチラと浮かぶ。
突然、制服のプリーツスカートがパサッと床に落ちる音が耳に届く。心臓が跳ねる。すぐにセーラー服のスカーフをシュルシュルっと抜く音がかすかに聞こえ、続いて上着を脱いでいるような衣擦きぬずれの音。美咲ちゃんが本当に服を脱いでいるというリアルな空気がピリピリと感じられた。そこでぼくはようやく我に返り、パジャマを慌てて脱いでパンツ一枚になる。脱いだパジャマは適当にたたんでベッドの下に置き、一息つく。
「……」
あれ、やけに静かだな。さっきとは打って変わって静寂せいじゃくが支配している。背後には人の気配があり、確かにそこにいるのは感じられるんだけど、いったいどうしたんだろう。もう脱いじゃったのかな……。でもそれなら向こうから声をかけてくるはずだよね。気になるけど急に振り返って驚かせたくないしなぁ。そんな感じで悶々としていると、背後からかすかに女の子の声が聞こえてくる。
「うわぁ……恥ずかしいよぉ……でも……わたし……」
美咲ちゃんが葛藤かっとうするようすが伝わってくる。ぼくはなんだかかわいそうになって、助け舟を出す。
「いきなり裸にならなくてもいいんじゃない?ぼくも今パンツ履いてるし、お互い下着同士ってことでおあいこだよね」
その提案は実は自分のためでもあった。いきなり美咲ちゃんのすべてを見てしまうのがもったいない気がしたって理由もあるんだけど、もっと切実な理由があったのだ。恥ずかしいことに下半身が元気になりかけていたのだ。これを恥ずかしがっている女の子の前にさらす男は、ちょっと空気が読めないヤツだ。せっかくのいいムードも木っ端微塵だ。それだけは避けたかった。
ぼくがあれこれ考えている間も、美咲ちゃんは葛藤を続けていたようだけど、
「うん……そうしよっか……翔流かけるくんも恥ずかしいよね」
そう言ってぼくの提案に同意してくれた。
「じゃあ……そっち向いてもいい?」
「うん……せーの、で振り向こっか」
そう言ってあと、彼女は遠慮がちな小さな声で「せーの」って声をかけた。二人で同時に振り向く。眼前がんぜんに下着姿の美咲ちゃんの姿が飛び込んでくる。

美咲ちゃんは清楚な感じがする純白の下着を身につけていた。ブラジャーは上品なレースで縁取りされていて中央には小さな水色のリボン。ショーツにも真ん中のところに同色のリボンがついている。女の子っぽくてかわいらしいけれど、爽やかで飾らない感じ。彼女らしい下着だと思った。
美咲ちゃんは恥ずかしそうに左腕を右手でさするようにしながら、パンツ一枚のぼくをボンヤリと眺めていた。でもすぐに嬉しそうに瞳を輝かせ、ちょっと前かがみでぼくの体に視線を走らせ始めた。その視線は柔らかくて、なんとなく目でスキンシップをとっているように見えた。
だからぼくも遠慮なく彼女の肢体したいに視線を走らせる。長めのショートヘアの髪がかかるほっそりとした首筋。なで肩気味の肩。細くて柔らかそうな二の腕。キレイに浮き出た鎖骨。ブラに包まれたバスト……ちょっと小ぶりだけどふわふわしてそう。白くて滑らかな腹部。それにおへそがかわいい。
純白のショーツからのびる下肢かしは意外と筋肉質で引き締まっている。脇腹から腰に向かって緩やかな曲線が描かれ、ショーツに包まれたお尻へとつながっている。そういえば美咲ちゃんってダンス部に所属してたんだっけ。この健康的で女の子らしい肢体したいはダンスによってつちかわれてるのも……。

そんな感じでぼくは視線を走られていたんだけど、美咲ちゃんがぼくの顔を上目遣うわめづいで見つめていることにふと気づく。その頬はほんのり赤くて、瞳は濡れている。
突然、彼女がぼくの胸にガバッと飛び込んでくる。背中に両腕が回され、強い力で抱きしめられる。見た目よりもボリュームがあるバストがぼくの胸板に押し当てられる。柔らかい。下着を付けていないところでは皮膚と皮膚がぴったりと密着し、心地よい肌触りを絶えず感じさせてくれる。
シャンプーの香りが鼻孔びこうをくすぐる。その香りはまるで媚薬びやくのように理性を奪っていくような気がした。ぼくはそんな自分に激しく動揺し、慌てて離れようとした。でも彼女は背中に回した腕にさらに強い力を込める。
「うわっ……ち、ちょっと、美咲ちゃん……」
「……翔流くん……わたし、ずっと、ずっとこうしたかったんだ……だからもうしばらくこうしてたいよ……」
ぼくの肩にひたいをこすりつけるようにしていた美咲ちゃんは、少しだけ顔を上げて静かにつぶやく。
なんのためらいもなく真っ直ぐ向けられてくる好意は暴力的でもあった。胸が締めつけられるような切なさに襲われたぼくは、小柄な彼女の背中に腕を回して強く抱きしめる。
「わたし、ドキドキしてる。翔流くんも、ドキドキしてる。二人の鼓動が重なってる。こうしてるとわたし、翔流くんに恋する気持ちが膨れ上がってくるのを感じるんだ……」
「うん……」
「わたし……もっと、もっと、翔流くんに『大好き』って伝えたい……」
そう言うと、彼女は背中に回していた腕を緩めてぼくから離れ、無言でぼくの手を引いてベッドに移動する。
「翔流くん……そこに……」
小さな声でそう言うと、美咲ちゃんはぼくを振り返ってニッと歯を見せて笑う。そしてベッドのほうを向いているぼくの背中を両手で強く押した。そのままベッドにダイブしたぼくに、彼女は「へへへ」って笑って舌をペロっと出す。このいたずらっ子め。ぼくはベッドの上からいたずらっ子の手を引っ張り、こちらにグイッと引き寄せる。バランスを崩してベッドにダイブしてくる彼女に、ぼくは「ハハハ」と笑って舌をペロッと出す。「やったなー」と言って飛びついてくる美咲ちゃん。ぼくはベッドに仰向けに倒されながら受け止める。彼女はすぐに立ち上がり、ぼくを見下ろしながら「アイム、ウイナー」と一言。そして満面の笑みを浮かべ、右手を高らかにあげる。
下着姿で勝ち誇っている女の子に、ぼくは仰向けに横たわったまま、「ブラの肩ひもずれ落ちちゃってるよ」って指摘してみた。「キャッ」って女の子らしい声を上げてしゃがみ込んだ美咲ちゃんに「勝負はドローだね」って言ってみる。「まいっか、目的は達成したし」って明るい声が返ってくる。そうか、彼女はぼくを仰向けにしたかったわけか。参ったな、完全に一本負けだよ。
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