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-第一章-スプリングフィールド王国編-

-第一章十七節 大商人のカードと医師ハリットと護衛パーティ解散-

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ハリットがサイクロプスの目玉に泡を吹いて気絶した数時間後…

時間帯的にはお昼過ぎと言った所で目的の町が見えて来て、その貿易都市らしい

活気に溢れる声が町の外に居ながら馬車の中に居るマサツグ達の耳にまで届いて

来る。全員がその声にホッと一安心し、長く感じた護衛クエストが漸く終わりを

迎える事にちょっとした解放感を覚え、そうして馬車が町の中に入って行くと

町の入り口で到着したとばかりに止まる。


__ガラガラガラガラ……コッ!…コッ…


「…皆さん!……お疲れさまでした!!…

何とかクランベルズに着きましたよ!!…」


__はあぁ~……


「…最後は何もなかったようだな…」


クランベルズに辿り着きマルコが警戒を解いて良いと口にすると護衛メンバー全員が

息を吐いて安堵する。何故なら最終的に護衛として動けるメンバーはマサツグと

宗玄の二人だけで後のメンバーは重症が三人に気絶が一人とかなり厳しい状態だった

からである。オマケに寝ていない事も有りうつらうつらと何度も寝落ちしそうに

なるも我慢をし、無事辿り着いた事に安堵したと同時に疲労感がドッと押し寄せて

来る。そんなマサツグ達とは裏腹に他の馬車からは町に辿り着いたと同時にマルコの

部下が下りては荷下ろしをし始め、慌しくなり始めるとマサツグ達もゆっくり

馬車から降り始める。


「ほらアヤ…肩貸すぞ?……」


「あ、ありがと…」


__パチッ!!…バッ!…バッ!……


「はあぁ!!!……え?…えぇ!?…こ、ここは!?…

皆さんは!?…」


マサツグと宗玄が自力で降りる事の出来ないメンバーに肩を貸して馬車を降り始める

のだが、暫く気絶していたハリットが目を覚ます。酷く動揺した様子で辺りを

見渡し、何かトラウマが居ない事を確認するかの様に機敏に動いて見せて、全員が

馬車から降りて行っている事に気が付いた反応を見せる。そんな反応にマサツグと

アヤが苦笑いをしては戸惑うハリットに声を掛ける。


「もうクランベルズに着いたよ。

だからもう安心だよ。」


「ハリットもお疲れ様!…」


「え?…あ、はい……お疲れ様です……

あ…あのぅ…サ…サイクロプスの目玉は?…」


マサツグがハリットにクランベルズへ辿り着いた事を口にしてはもうモンスターに

襲られる心配はないと安心させるよう声を掛け、アヤもハリットを労わる様に

お疲れ様と声を掛けると、二人の言葉にハリットは困惑した様子を見せる。それでも

ハリットはマサツグ達の言葉に返事をし、やはり気になる様子で辺りを見渡しては

マサツグに目玉について尋ね、その問い掛けにマサツグが仕舞ったとハリットに

答えると、見るのか?と意地悪そうに尋ねる。


「え?…俺のポーチの中に納まってるけど…見る?…」


「ッ!?…い、いえ!!…結構です!!!!…」


__タッタッタッタッタッ…バッ!!…


「……逃げてったな?…」


「逃げて行ったわね?…」


そのマサツグの問い掛けにハリットはまた青ざめ始め、全力で首を左右に振っては

見ないと返事をするとハリットはマサツグから逃げる様に馬車を飛び出して行く。

その様子にマサツグとアヤが苦笑いしながら二人も揃って馬車を降りると、

他のメンバー全員がマルコの前に集められては今回の護衛の報酬を受け取っていた。

そんなメンバー一人一人ある者は喜び…またある者は不服と言った表情を

浮かべる中、マルコがマサツグとアヤが馬車から下りて来た事に気が付くと、笑みを

浮かべて二人の前に立ち、他のメンバー同様に報酬を支払い始める。


「いやぁ~今回の護衛任務…本当に有難う御座いました!!…

今回こうして大事な商材をここまで運んで来れたのも貴方方のお陰です!!…

どうぞ!…こちらが報酬です!!」


[マルコからクエスト報酬:300000Gを受け取りました。]


「え?……」


マルコがマサツグとアヤに感謝の言葉を口にするとゴールドの袋をそれぞれに

差し出す。そのゴールドの袋はまるでス-パーマーケットの一番大きな買い物袋で

パンパンになるまで水を入れた様に膨らんでおり、中からジャラジャラと

詰まっている音が聞こえて来てはその重さにも驚かされる。そしてその

ゴールドの袋にマサツグが戸惑いつつも受け取り、数秒後にマサツグの目の前に

その報酬金額が表示されるとそこには当初の依頼書に掛かれていた二倍の金額が

表示される。その事に戸惑いマサツグが固まって居ると、マルコはもう一つ

オマケと言った様子で懐から二枚の金色のカードを取り出すとそのカードを

マサツグとアヤに手渡す。


「それとこれも受け取って置いてくだされ!…

これが有れば今後買い物に不自由する事は無いと思います!…

皆様の冒険に如何か役立てて下さい!!!…」


   ----------------------------------------------------------------------

                マルコ商会ゴールドカード

                     レア度 A

         マルコから信頼を勝ち取った者に与えられるカード。

   マルコ商会の道具屋であればどの店舗どの商品でも半額で買い物が

   出来る上に、一般の者には売られていないアイテム等のラインナップ

   が増えるゴールドカード。

   ----------------------------------------------------------------------

「えぇ!?…いやいや!…え!?…本当に良いんですか!?…

これかなり良い奴じゃ!?…」


マサツグがゴールド袋に戸惑いながらも金色のカードをマルコから受け取ると

その効力に更に驚き、アヤも驚いた様子でマサツグに肩を抱えられてはジッと

カードを見詰める。依頼以上にお金を貰い、更にゴールドカードを貰った事に

マサツグがただただ困惑し、マルコに大丈夫!?と問い掛けるよう質問をする

のだが、マルコは優しい表情で笑みを浮かべてはマサツグ達に頷き、その質問に

答え始める。


「えぇ!えぇ!良いんですとも!!…

貴方方はそのカードを持つに相応しいお方達です!…

…サイクロプスが出来てたら自分の命を優先して逃げる者が大半です…

酷い者になると依頼主を囮に逃げ延びようとする者も居る!…ですが…

貴方方は命懸けで戦って下さった!!…その証拠に馬車の中であの目玉…はぁ…

アクシデントで飛び出してきましたが…それでも信用するに値すると判断した為、

そのカードを貴方達に…」


「で、でも…私まで?…私はやられて動けなくなっちゃったし…

サイクロプスを倒したのだってマサツグであって…」


「ほっほっほ!!…貴方のその状態を見れば何をしようとして居たのか…

冒険者では無い私でも良く分かります!…貴方もマサツグ殿同様…

信頼出来るお方だ!……それに私…少し自慢なのですが…

人を見る目が良い方なのですよ…貴方方はそれを使って悪さを

する様な人達では無い…そう確信しているのです…ですので…遠慮なく

お受け取り下さい!…」


「ッ!……ッて…分かりました!…ありがたく受け取っておきます!…」


マルコはマサツグ達の事を甚く気に入った様子でカードを渡した事について

話し出し、サイクロプスと遭遇した場合…他の冒険者達の話をし始めると、

その話を比較例にマサツグ達を評価する。そして信頼出来ると話しては

ゴールドカードを受け取る様に薦めて来るのだが、アヤは自分がそれだけの

仕事をしていないと卑下し、マルコに対して申し訳ないと言った表情を

見せるのだが、マルコはアヤの事も信頼していると言った様子で大丈夫と

声を掛ける。そのマルコの言葉にアヤが戸惑った様子を見せるもここで

断るのはマルコに対しても失礼と考えたのかアヤは渋々ゴールドカードを

受け取る。それを見てマルコはホッとしたのか一息吐くとマサツグ達に

別れの挨拶をする。


「ッ!…ほっ…それはよかった!……

では私はこれで……本当なら皆で商売の成功と護衛の成功を祝っての

祝杯をしたい所なのですが……どうにもサイクロプスがこの近辺でも

出たとなると衛兵達に連絡をしなければなりません!…ですので失礼ですが

この辺で…」


「あっ!…お疲れ様で~す!!…」


「ではまた…何処かでお会いしましょう…

本当に…有難う御座いました!…」


マサツグ達との別れを惜しむ様に酒盛りの話をし始めるとアヤが喉を鳴らす…しかし

そんな時間も無い様子でマルコが慌てた様子で衛兵に今回の護衛の件を報告しないと

いけないと口にしては足早に、荷下ろしをしている部下の所に足を向ける。商売の

事に関しては良く分からないマサツグであるのだが、余程急いでいる事を理解すると

離れて行こうとするマルコに挨拶をし、マルコがマサツグの声に反応して会釈を

すると、また何処かでと挨拶をする。そうしてマサツグがアヤを抱えたまま馬車の

近くで立って居ると、他のメンバーもフラフラしながら歩いて来てはマサツグ達に

挨拶をする。


「…そっちも報酬を貰ったみたいだな?…」


「ッ!…マトック!…デクスター!…それにハリットも!…」


「いや…今回は本当に迷惑を掛けたな?…

本当にすまなかった…」


「いやいや…俺だって一杯一杯だったし!…

別に……って、宗玄は?…」


マトックがマサツグ達に声を掛けてはデクスターとハリットを引き連れ、

マサツグ達の所まで歩いて来る。その呼び掛けにマサツグが一人一人の名前を

呼んで返事をしては、マトックがマサツグに謝り始める。その謝罪にマサツグが

慰めるよう声を掛けるのだが、宗玄一人だけいない事に気が付いてはその事を

マトックに尋ねると、マトックは若干戸惑った反応を見せては質問に答え始める。


「え?…あぁ…宗玄だったら先に何処かへ行っちまったよ…

何か急ぎの用事が有るとかでよ…アイツだってダメージを負ってる筈なのに…」


「ッ!…そうか…」


「…で?お前達は如何するんだ?…

俺達はに厄介になるんだが…」


マトックはマサツグの質問に宗玄は先にパーティを脱退したと答えると、

その脱退した理由について分からないと言った様子で答えては呆れて見せ、

その答えを聞いたマサツグは最後に挨拶だけでもしておきたかったと

少し落ち込んで見せる。そうして先に別れた宗玄にマサツグがショックを

見せて居るとマトックが今後の事をマサツグに尋ね、その際ハリットが

診療所をやって居る事を口にすると、マトックの質問を聞いて悩んで居た

マサツグが遅れて反応して見せてはマトックに聞き返す。


「うぅ~ン……え?…ハリットの診療所?…」


「…そうよ?…え?…知らなかった?…

ハリットはホビット族では有名な医者なのよ?…」


「え?…あれ?…ハリットって…魔法使いじゃ?…

…確かに応急手当とか完璧だったけど…

更に言うとホビット族だけどまだ子供なんじゃ…」


マサツグはハリットが診療所をやっていると聞くと困惑した様子で聞き返し、

その聞き返しにアヤが不思議そうな表情を見せてはハリットが有名人である事を

マサツグに話し始める。その事を聞いてマサツグが更に混乱した様子でハリットの

職業について考え出し、その際応急手当の様子など色々な事を思い出すのだが、

あのハリットの容姿と仕草が邪魔をしてどうにも子供としか思えないマサツグには

ハリットが医者である事が考えられなかった。そうしてマサツグが一人頭を抱えて

悩んで居ると、ハリットが頬を膨らませ少し怒った様子でマサツグ達の会話に

参加して来る。


「あぁ~~~!!酷いじゃないですかぁ~~!

人を見た目だけで判断してはいけません!!

これでも20才のピチピチの女の子なんですよ!」


__ピシャァァァァァン!!!…


{う…嘘だろ!?…お…俺の五つ下!?…

確かにハリットはホビット族で!……マジか…}


ハリットがマサツグの言葉に怒った様子で自分の年齢を公表すると、マサツグの体に

雷が落ちた様な衝撃が走り、それと同時に年齢不詳のホビット族の容姿にマサツグが

戸惑いを覚えていると、周りのメンバーはマサツグを尻目にさも当然とばかりに驚く

マサツグを不思議そうに見詰める。そんな周りの様子と自身の様子とのギャップに

更にマサツグが戸惑いを持ちそうになる中、ハリットは更にマサツグに話を続ける。


「これでも巷では名医で魔法少女のハリットちゃんとして有名なのです!!……

…ただここ最近、僕が女の子で成人していると分かると、{合法ロリーーー!!}…

…って、叫んで襲って来る人が居るんですよね…」


お巡り運営さん!!…この人を保護して!!!…}


「それで襲われても対処出来る様にと!…魔法を覚えたのです!!」


{あっ…この子意外と逞しい…}


自分が有名人である事を密に自慢しているのかその慎ましやかな胸を突き出し、

ドヤ顔をして見せるハリットにマサツグが微笑ましく感じていると次の言葉で

一気に心配になる。それは冒険者の中にも変わった者が居るのかハリットを

追い掛け回す者が居るらしく、それを聞いて危ないと感じたマサツグが運営に

報告するかどうかで戸惑い悩み始めるのだが、ハリットがそれらを撃退する為に

魔法を覚えたとまた自慢げに胸を張ると、ハリットの逞しさにマサツグが思わず

おぉ!…と違う戸惑いを見せる。だが、こうしてハリットの話を聞いていると

更に耳を疑う内容が飛び出して来てはマサツグを戸惑わせる。


「…後、魔法でも如何にもならない相手が出て来た場合は

ダンナさんにお願いするんです。」


「ッ!?…結婚してたの!?…」×3


「いやぁ~ん♥…ちがいますよぁ~♥…

旦那様じゃなくてダンナさんですぅ~♥……まぁ…私は大好きで…

いつでも良いから結婚したいなぁ~って…思ってたりもするんですけど?♥…」


{ベタ惚れの上に紛らわしい!…}


ハリットが旦那さんが居る様な事を少し照れながら話し始めると、マサツグ・アヤ

そしてマトックの三人がハリットの話に機敏に反応しては既婚者なの!?と言った

表情で驚き戸惑うと、後ろに若干仰け反り視線をハリットに向ける。しかしその

三人の言葉にハリットは両手を頬に当て顔を赤く染めてはモジモジとしながら

違うと答え、詳しく説明をした後自分が一方的に相手の事を好きで有る事を明かし、

それを聞いたマサツグ達はハリットの様子に戸惑いながらも心の中で紛らわしいと

困惑する。そうして暫く話している内にマトックとデクスターの二人が徐々に立って

居るのも辛そうな表情を見せ始めると、そろそろ解散する方向へと話が進み出す。


「……ッ!…なぁ?スマンがそろそろ診療所に案内して貰っても良いか?…

さすがにそろそろ…」


「あッ!…そうですね!…では皆さんこちらです!」


__タッ…タッ…タッ…タッ…


「……ねぇ?…マサツグ…ちょっと良いかしら?…」


マトックがそろそろ休みたいと言った様子で話を切り出してはハリットがハッ!と

マトックとデクスターの容態を思い出し、早くちゃんとした治療をしないとと

思い立つと、マトックの問い掛けに答えて自身が経営する診療所へと案内し始める。

その案内にマサツグも怪我はしていないものの場所だけは覚えておこうと、

ハリット達の後を追い始めるのだがアヤに呼び止められるとその足を止め、

アヤの居る方に振り返る。


「……?…如何したんだ?アヤ……?…」


「昨日…話してた修行の話なんだけど…」


「え?……あぁ…アレね?…でもその様子だと…」


マサツグが振り返るとそこには少し俯いた様子でモジモジとするアヤが立っており、

その様子にマサツグが不思議そうな表情を見せてはジッとアヤの様子を見詰めて

いると、アヤは昨日の野宿で話していた修行の話をマサツグに話し始める。その話に

マサツグも思い出した様子で返事をしては直ぐに心配の表情でアヤの負傷した腕や

足に目をやり、アヤもマサツグの視線を感じて腕や足に視線が行かないよう

抱えたり、もう片方の脚の後ろにスッと隠したりと心配を掛けない様に気遣って

見せる。そしてマサツグに申し訳なさそうな表情をして見せると、昨日の修行の件に

ついて更に話を続け始める。


「そう…だから今の内に返事をしておかないとと思ってね?…

…ごめんなさい!…私から誘ったのにこんな事になっちゃって…

じゃ足手纏いになっちゃう!…

少しの間休養するから…マサツグがこれからも…頑張ってね?…」


「あぁ…うん…別にそんな事位なんて事無いけど……アヤは大丈夫なのか?…

何ならリハビリに付き合うけど…」


アヤがマサツグに修行の件を無かった事にしてくれと頭を下げてお願いすると、

今の自分では修行どころか足を引っ張るとマサツグの身を案じた様子で話し出し、

治療に専念するとマサツグに伝える。それを聞いてマサツグが特段何も考えずに

当然と言った様子で修行の件を了承するとそれよりもアヤの事が心配と口にし、

アヤがちゃんと動ける様になるまで付き合おうかと買って出ると、アヤは慌てた

様子でマサツグの申し出を断る。


「ッ!!…いいの!!!…大丈夫!!……

これ以上マサツグに迷惑は掛けられないわよ!…」


「ッ!…そ、そうか…」


「……お~い!!!如何したのですかぁ~!?」


「ッ!…ハリットが読んでるわね?…行きましょうか?」


アヤに申し出を断られたマサツグが一人ホッとした様なガッカリした様な微妙な

気分になっていると、マサツグ達より先に行っていた筈のハリットが一人…

マサツグ達を迎えに来た様子で手を振っては息を切らして走って来る。その際

ハリットの手には自身が背負っていた杖が握られており、その様子にアヤが気付くと

ハリットに向かい手を振り返し、足を引き摺るよう歩き出し始めてはマサツグが

慌ててフォローに入る。マサツグ達と杖を持ったハリットが合流するのに時間は

掛からず、三人が合流するとハリットは息を切らした様子で膝に手を着くと、

アヤに自分の杖を手渡す。


「はぁ!…はぁ!……すみません!…勝手に…先に…行っちゃって!…

こ…これを!…」


「あ…ありがとう……

私はマサツグと一緒に向かうつもりだったから大丈夫だったのに…」


「いえいえ…そうは…行きません!…はぁ!…はぁ!…」


アヤが息を切らすハリットに戸惑いながらも杖を受け取り、走って来たハリットに

慌てなくてもと声を掛けるのだが、ハリットは心配したと言った様子で息を

切らしては呼吸を整えようとする。そんなハリットに二人が逆に心配をした様子で

見詰める中、三人がハリットの診療所に向かい歩き出し始めるとマトックと

デクスターは如何したのかをマサツグが尋ね始める。


「……そう言えばマトックとデクスターは?…

置いて来たと言った感じじゃないし…」


「あぁ!…マトックさんとデクスターさんなら診療所に向かう途中で

ダンナさんと偶然合流しちゃって…

さすがにお二人を抱えて歩くほどの力は私には無いのでダンナさんにお願いを…

その時にお二人の姿が無かったので…アヤさんの事を思い出して杖を…」


「持って走って来たと……因みにここからその診療所までは?…」


「はい!徒歩で大体十分位の場所に構えています!…

この町の周りには王都の周りに居るモンスターより若干強いモンスターが居る為…

モンスター退治に慣れて来た駆け出しの冒険者が良く分からずに戦いを挑んで…

返り討ちに遭って戻って来る事が大半なので…」


「そ…そうなのか…あははは…」


マサツグの質問にハリットは案内の途中での出来事を話してはアヤを心配した様子で

話しを続け、マサツグがハリットの話を理解した所で診療所までの距離を尋ねると、

ハリットは元気に返事をしては時間に置き換えて答える。その際何故その距離に

診療所を構えた等の理由をマサツグに話し始めると、その理由にマサツグとアヤは

戸惑いながらも返事をしては苦笑いをし、ゆっくりながらも歩いてハリットの

診療所に辿り着く。


__コッ…コッ…コッ…コッ…


「…着きました!ここが私のお城!!…その名もハリット診療所です!!!…」


「……そのまんまなんだな?…

それに意外としっかりしてると言うかなんというか…

ドアノブの位置が低い様な?…」


マサツグ達がハリットの診療所に辿り着くとそこはハリットの言う通り…

町の玄関口から然程離れていない距離に診療所…と言うよりは病院が一軒建って

おり、マサツグのイメージした診療所とは違う建物の様子に戸惑いを覚える。

更にその診療所の扉は一応人間サイズの物が付けられているのだがドアノブの

位置が低く、マサツグやアヤがその扉を開けようとすると中腰にならないと

いけなかった。それを見てマサツグが思わず呟いてしまうと、ハリットは

そのドアノブの位置が低い理由を語り始める。


「あぁ、それはですね?…私みたいに背が小さい種族…ホビットやコボルドと

言った人達でも簡単に入れる様にと設計しました!…因みにこの診療所は私の他に

ダンナさんやレウナンさんと言った先生が二人…薬剤師にコモリさんが居て…

どの人も優秀で如何なる状態の患者さんが来ても直ぐに対処出来る様になって

いますので!…何か悪い病気に掛かりましたら遠慮無く来てくださいね?」


「……最後宣伝の様に聞こえたのだが…まぁ…分かった…ありがとう!…」


ハリットが診療所の玄関ドアのドアノブの説明をすると同時に、診療所に勤める

医師と薬剤師の紹介をすると自分の診療所を自慢する様にマサツグへ宣伝し、

その宣伝にマサツグが小さくツッコミを入れては戸惑いながらも紹介をして

くれた事にお礼を言う。そうしてマサツグとハリットが話し合って居ると、アヤが

二人の様子に苦笑いをしながらマサツグに次の行き先を聞き始める。


「…あははは……そう言えばマサツグは次何処行くの?…

あの時確かギルドに行くって言ってたけど…」


「え?…あぁ…そうだな……多分言う通りにギルドかな?…

レベル…じゃなかった!経験を積みたいし、お金も稼ぎたいし…」


「そっか!…まぁとにかくここでお別れだね?…」


「ッ!………そう…なる…な…」


アヤの問い掛けにマサツグが悩んだ様子でギルドに行くと返事をし、その返答に

アヤが力無く返事をしては少し悲しそうな表情で俯き、マサツグに別れを告げる。

その別れの言葉にマサツグもハッとした様子で改めてアヤとこれでお別れに

なる事を自覚すると、同じ様に表情を暗くしては俯き言葉が途切れ途切れに

肯定する。そうして二人の間に何とも言えない気まずい空気が流れ始めると、

ハリットはその二人の様子をまるでドラマを見る様に目をウルウルさせながら

見詰め、そして進展が無い二人の様子に一人勝手にやきもきし始めると先に

話を切り出したのはアヤの方であった。


「……じゃあ、私も行くね?…

ここに少しの間厄介になるし?…」


「ッ!……あ…あぁ!…そうか!…そりゃそうだよな!?…

仕方ない…仕方ない…あははは…」


「…ッ!…ふふふ!…じゃあ……ね?…」


__ガチャッ!…コッ…コッ…コッ…コッ…


アヤが気まずさに負けてか診療所の扉に手を掛け…マサツグに本当の別れの言葉を

掛けると、そのアヤの言葉にマサツグが戸惑いながらも返事をし、仕方が無いと

口にする。その別れの言葉にやはり物寂しさを感じた様子でマサツグが顔を上げて

苦笑いをして見せると、アヤも釣られて苦笑いをしては診療所の扉を開いて中に

入って行こうとする。その際「じゃあね」と少し戸惑った様子で別れてはアヤは

診療所の中へと姿を隠して行き、マサツグも診療所に入って行くアヤに正真正銘の

別れの言葉を掛けると再会を約束する。


「ッ!…あぁ!…また何処かで会おうぜ!…」


__パタパタッ!…ギイィィィィィ…バタンッ!…


「………ッ!!!…

よし!…行くか!!」


マサツグの言葉にアヤは完全に扉が閉まる前にマサツグへ無言で手を振って返事を

すると扉は締まり、マサツグは診療所に入って行ったアヤの後ろ姿に心配した様子で

数秒間診療所の扉を見詰め、そしてその不安を断ち切る様に一度ギュッと瞼を閉じ

開き直しては一言呟き、メインストリートの方をクルっと振り向くとギルドの有る

場所を目指して歩き出し、その歩いて行く際ハリットにも別れの言葉を掛ける。


「ハリットもありがとうな!!…また何処かで会う事が有ったら頼むぜ?…」


「あっ!…はい!任せて下さい!!…

…えっと…良いのですか?…」


__コッ…コッ…ピタッ!…


「え?…何が?…」


マサツグがアヤだけでなく他のメンバーも気にした様子でハリットに頼んだと笑顔で

話し掛けてメインストリートに向けて歩いて行こうとする。そんなマサツグの

言葉にハリットは戸惑いながらも返事をし、自信満々に答えて見せるのだがそれとは

別に何かを気にした様子でマサツグに呼び掛けては、マサツグの足を止めさせる。

ハリットの問い掛けにマサツグがへ?…っと言った表情で足を止めてはハリットの

方に振り返り、それを見たハリットが数秒間マサツグの事を見詰めるのだが、フッと

突如諦めた様子で明るい笑みを浮かべては何でもないと答え、マサツグの無事を

祈るよう言葉を口にする。


「……フッ!…いえ、何でもありません!…

ご武運長久を!…」


「……?…あぁ!」


ハリットに突如呼び止められては数秒見詰められ、次に何事なかったよう笑いながら

手を振り送り出した事にマサツグが戸惑いを覚えるのだが、気にしない様子で返事を

してはまた歩き出す。徐々に小さくなって行くマサツグの背中にハリットはずっと

手を振り続け見送るのだが、マサツグが見えなくなった所で診療所の扉の方に向かい

歩いて行くと、ハリットは何故か独りでに扉へノックしては話し掛け始める。


__パタッパタッパタッパタッ……トトト…コンコン!…


「アヤさん?…本当に良かったのですか?…」


「………何が?」


ハリットが扉に向かいノックをしてアヤの名前を口に話し掛けると、扉の向こうから

遅れながらもアヤがそこに居るのか返事が聞こえて来る。その返事を聞いて

ハリットがふぅ…と一息吐き、眼鏡をクイッと一度上げるとある事を扉越しにアヤへ

話し掛け始める。


__カチャッ!…


「……私の目が正しければ恐らくですが…

アヤさんの体はもうな位に回復していると見受けられます…

確かにエルフの人達の回復力は凄いものと聞いていますが…

アヤさんの場合は異常です!…おかしいです!…ですが!…

医者として止める出来立場に在りますが…今からでも遅くは!!…」


「…いいの、ハリット…」


「ッ!?…でも!?…」


ハリットが話し始めたのはアヤの今の容態…ハリットは視診だけでそのアヤの状態を

読み取るとアヤの回復速度に驚愕した様子で話し始め、普通に冒険するだけなら

問題ないと答えてはマサツグと一緒に行かなくて良かったのか?とアヤを急かす様に

言葉を掛ける。そのハリットの呼び掛けにアヤは声を小さく「いい」と答えると、

ハリットがアヤを焚き付け様と食い下がる。しかしアヤはそのハリットの言葉に

答えるようハリットにある事を話し出しては考えを変える気は無いと答える。


「いいのよ…付いて行った所でさっき言った様に私が足手纏いになる…

マサツグは恐らく…あのパーティの中だと一番強かったわよ?…」


「ッ!……確かにそれは私も分かりました!…

あの酒場で一緒にお酒を飲んで居る時…

マサツグさんの事が気になって思わずのですから…

…あの人はハッキリ言って未知数です!…今までいろんな人を見て来ましたが

あのマサツグさんは将来…とんでもない事を起こす!……

そんな気がする人でした!…」


アヤが護衛メンバーの中でマサツグが一番強いとハリットに話し始めると、

ハリットもそれに同意するようマサツグの事を話し始める。パーティメンバー全員で

酒場に出掛けた時、ハリットはマサツグの事が気になったのかマサツグの持っている

スキル同様の「鑑定アプレェィザァル」で見たと話し、マサツグより鮮明に何かを見たのか

マサツグを未知数と言っては今後が気になると話し始める。そんなハリットの様子に

アヤがフフっと笑った様な声を漏らすと、ハリットへ更に話を続ける。


「フフッ!…だからよ!…」


「え?…」


「一緒に修行しても強くなるのは恐らく私だけ…

マサツグは多分強くなると言うよりは…順応するって言った方が正しいかも…

だから次に会うまでにもっと強くなるの!…先輩として!…

マサツグを引っ張って行ける様に!…」


アヤが笑いながらハリットの話を肯定するとその反応にハリットが扉越しのアヤに

対して戸惑いの反応を見せ、アヤがそのハリットの反応を察すると今の状態で

マサツグと修行をしてもマサツグには何の得も無い…ただの自分の自己満足に

終わってしまうとマサツグの事を考えた様子で話をし始める。そしてそれを聞いた

ハリットがハッと考えを理解したのか、誰も居ない扉を見詰めては一人驚いた様子で

立ち尽くし、全てを理解し飲み込んだ様子でアヤに話し掛け始める。


「ッ!……なるほど…そうですか……

貴方がそれで良いなら私はもう何も言いません…

ではアヤさんは今後どうするのですか?…」


「……とにかく今日は休むわ…

ハリット先生が言うには治って来ているらしいけど…

安静にした方が良いみたいだし?…」


「ッ!……ふふふ♪…そうですか!…」


ハリットは静かに理解した様子でアヤに話し掛け、もう何もマサツグの事に関して

言わないと告げると同時に、今後の予定をどうするのかとアヤに尋ね始める。

その問い掛けに対してアヤはハリットの事を先生と呼んでは休むと笑い声交じりに

答え、その答えを聞いたハリットは先ほどから独りで話し掛けていた扉の

ドアノブに手を掛けると返事をして、自身の診療所へと戻って行くのであった。

こうして長く感じた護衛任務も終わりマサツグ達は休息を得る事になるのだが、

その休息も長く続くものでは無く、突如として次のハチャメチャは押し寄せて

来るのであった。

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