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月の兎は黄金に
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ラフマリノフがBGMとして流れるエントランスで、ボクはチェックアウトのためにフロントの列に並んでいた。
ロビーは朝から団体客でごった返し、ホテルの客員達は忙しそうに、それでいて笑顔を絶やさずに働いていた。そんな風に働く彼等の姿はボクに少しの罪悪感を芽生えさせた。
仕事を辞めてしまってからというもの、働く人々を見る度にボクの中には申し訳ないというような気持ちが芽生えるようになっていた。
列を待つまでの間の時間ボクが考えていた事はやはり彼女の事だった。
ボクにメッセージを残した、彼女。
彼女はいったいあの後どうなったのだろうか、彼女は道路を飛び越す事ができたのだろうか。
何度も何度も繰り返し考えた事だった。しかし答えが見つかるはずも無く、列は十五分程で捌けてしまいボクの番がやってきた。
十五分を一瞬に感じさせる程、彼女との出会いは強烈なものだったのだ。ボクは改めて、そう思った。
ショートヘアーの、どこか神経質な感じのする女の子が私を応対してくれていた。きっと、朝の受付ラッシュが、彼女をピリピリとさせているのだろう。
名札にはアルファベットでKONNOとあった。
どんな漢字を書くのだろうかとボクは想像した。今野か、紺野だろう。
この二択ならば、答えはきっと前者だろうと根拠はないがボクはそう思った。
ボクは鍵を彼女に返却し(305号室)チェックアウトの行程をすませた。
「またのご宿泊、お待ちしております。」
コンノさんは生まれた時からその顔を崩していない、というような笑顔でボクにそう言った。
「ありがとう。」とボクも同じように笑顔で返した。それは余韻の全くない、あまりにも儀礼的な会話だった。
まるで英語の授業の受け答えのようだ。とボクは思った。
「how are you?」「I'm fine.and you?」
精算時、ボクは財布の中にミールクーポンが一枚残っているのを発見した。
ホテルを発つ前に、朝食にサンドイッチでも食べるのも良いだろうと思った。
そこまで空腹というわけではなかったが、しばらく食事らしい食事は取れないだろうということが分かっていた。
ボクは通路を真っ直ぐに進み、ホテルに隣接するレストランに向かった。タイル張りの廊下はピカピカに磨かれていて、まるでインラインスケートのリンクみたいだった。
床は放っておいて、こんなにもピカピカになるものじゃない。朝からこの通路を清掃した人間のイメージがボクの脳裏に浮かんだ。
その、顔のない清掃員のイメージにボクはやはり言いようのない申し訳なさを感じた。
ボクが働く人々を意識する度に、何か悪い事をしている様な気分になるのは自分が行なっている行動が常識から外れているって事が、つまりはこのままじゃいけないって事が頭では分かっているからだ。
今のボクは働く事すら放棄して、彼女のことを思い続けている。
それはどう考えても間違った行動だった。収穫低減の法則くらい当たり前のことだった。
ボクは彼女のことを忘れて、新しい仕事に就職をし、また退屈な日々に戻るべきなんだ。それこそがボクにとって、一人のいい歳をした大人にとっての正しい道なのだ。
それでも、ボクはまだ彼女のことを思い、彼女の手がかりを探して旅を続けていた。あのメッセージの続きが、ボクの元に届く事をいつまでも待っていた。
ボクには、彼女の事を考え続けなければいけないような、思い続けなければいけない様な気がしていたんだ。
レストランは何の変哲もない、辞書で引いたような外観だった。
それでも、そのレストラン「フエベス」は店外まで腹を空かせた客達が列をなしていた。
その風景は、賑わいを見せる店が必ずしも優良な店というわけではないという事の証左の様に思えた。
少なくとも、外見はただのホテルにあるなんの変哲もないレストランだった。
入り口に立つとボクはウェイトレスによって席に通された。そこは狭い、二人掛けの席だった。店内の余剰部分を無理矢理埋めるために作られたかのような席だ。
店内を見渡す限り、一人で席に座っているのはボクだけのようだった。
笑顔でトーストを齧っている家族連れ、無言でスパゲッティを啜っている男女のカップル、打ち合わせをしているスーツを着た会社員達、手話で会話する聾唖の団体客。
他の客たちは誰もが、誰かとのコミュニケーションの輪の中にいた。
ボクだけが何の輪、何の関係性にも含まれていなかった。
ボクはボクだけが宙に浮いている、孤独なベン図を頭の中に思い描いた。
こんなにも店内は騒がしいっていうのに、ボクの心は静まり返っていた。波ひとつ立たない湖のような孤独感が、ボクを支配していた。
ボクはその孤独から逃れるように必死にメニューを吟味した。
歩いていたウェイトレスを呼び止め、チキンサンドイッチとコーヒーを注文した。
「コーヒーにミルクや砂糖は入れますか?」
ウェイトレスはボクにそう聞いた。
ボクは声も出さずにジェスチャーだけでその提案を辞退した。
ボクはコーヒーにミルクや砂糖を入れる人間を世界に遍在するくだらない戦争や、真夏の夜に耳元で飛び回る蚊と同じくらいに憎んでいた。
注文した商品はすぐにテーブルに届けられた。
コーヒーはドロドロとしていて、ボクには味が濃すぎた。
疲れ切った朝に飲むにはちょうどいい様な味だったが、休職中のボクは疲れてなんていなかったしハッキリ言ってまったく美味しく感じなかった。
ボクはコーヒーを半分だけ飲んでからカップの上に置き、チキンサンドイッチを食べ始めた。
そのチキンサンドイッチはまさに本物のチキンサンドイッチだった。
バターが軽く塗られ、ふんわりとトーストされたパンにこんがりと焼かれたチキン、瑞々しいレタスとスライスされたトマトが一枚ずつ挟まれていた。
味付けはレリッシュマスタードとマヨネーズだけというシンプルなものだった。しかし、そのシンプルな味付けがこれぞ朝食に食べるサンドイッチだ、というような味に仕上げていた。
ボクは久々に本物のサンドイッチというものを食べて大変に感動をした。
本物のサンドイッチを食べることのできるレストランは意外に珍しい。
ボクはこのレストランが単にホテルに備え付けられた、行きずりのレストランである事を少し惜しんだ。
もし、このレストランがボクの行きつけとなるならばどんなに良いか、そして行きつけのレストランにこのチキンサンドイッチがあればどれだけ良いかを想像した。
ボクは来店の挨拶もそこそこに、店に入るなり「いつもの。」とだけウェイトレスに伝えるだろう。
そして厨房はウェイトレスから注文を伝えられるまでもなく、ボクの姿が入り口に見えた時からパンをトーストし始め、チキンをカリカリに焼き始めるのだ。
ボクはそんな最高のサンドイッチを食べながら、残り半分の濃すぎるコーヒーと格闘していた。
その時、一人のボーイがボクの元にやってきた。
「失礼致します。」
清潔な髪型をした、30歳くらいの面長の男だった。少し困惑しているような様子が下がった眉や、緊張しているように少し震える口の端から見てとれた。
彼は唇の形が独特だった。それは俳優の佐々木蔵之介にとてもよく似ていた。
でも彼は、当たり前だが佐々木蔵之介ではなかった。佐々木蔵之介はホテルのレストランでボクに申し訳なさそうに話しかけたりはしないからだ。
「店内が少々混み合っておりまして、相席の方をさせていただきたいのですが宜しいですか?」
ササキ氏(仮称)の声色は、面倒な案件を処理しなくてはいけない人間特有の何とも情けない響きをしていた。
その響きは、ボクから美味しいチキンサンドイッチの余韻をすっかり取り払ってしまった。
何というか、聞いているだけでそういう口調は気が滅入るのだ。
それは別にして、もちろんボクにはその提案を断る気はしなかった。
「大丈夫です。」とだけ、ボクは言った。
世の中の「大丈夫」には主に二つの用法がある。ボクは大抵、OKの意味でしか「大丈夫」という言葉を使わないのだ。
ササキ氏は有難いことにボクの言葉をしっかりOKの意味で捉えた様で、礼を言うとすぐに入り口の方へと早足で引っ込んでいった。
ササキ氏と混み合うレストランの気持ちを最大限に汲み取るのならば、ボクはサンドイッチとコーヒーを急いで食べ終えて、少しでも早く席を立った方がいいだろう。
ボクはそう考えて、急いでチキンサンドイッチを食べようとした。
しかし、そのチキンサンドイッチは急いで食べるには勿体無いほどのチキンサンドイッチだった。
世の中には、味わって食べなければ勿体無いと思わせるような食事がある。特にそれがもう二度と食べる機会がないであろうものであるならばよっぽどだった。
相席をする相手には悪いが、ボクはチキンサンドイッチとコーヒーをゆっくりと味わう事にした。
たまにはそういうのも悪くない。というような気分だった。
暫くすると、一人の女性がササキ氏に連れられてやってきた。つまりは彼女がボクの相席の相手という事だろう。
彼女の姿にボクはとても驚いてしまった。
同時に、チキンサンドイッチを早く食べてしまわなかった事を強く後悔した。
ボクと相席をする為にテーブルにやってきた彼女は、白人女性だったのだ。
「白人女性」。ボクと対極にいるような、いや、まさしく対極の存在だ。
一体何をどう間違ったら全く知らない白人女性と相席で食事をする羽目になってしまうのだろうか。
ボクは神様に試練を与えられているのかもしれない、仕事辞めたってだけで?馬鹿げた話だ。
その時ボクが考えていたのは、もし手元にタイムマシンがあったのなら、3分前のボクを殴り飛ばしてでも早く席を立たせるだろうという事だった。
ボクの脳裏には過去の世界からもう一人のボクが殴り込んでくるイメージが浮かんだ。
炎のラインを引きながら、レストランに突っ込んでくるデロリアン。
乗り込み、運転をしているのはもちろんマーティ・マクフライとドクだ。そしてチキンサンドイッチを片手に持った過去のボクが後部座席にちょこんと座り、現在のボクを殴る為に拳をポキポキと鳴らしている。
そんなイメージだ。
全く、やれやれだった。
その彼女はおそらく身長180cmほどの高身長だった。
しかし、ソールの高い白のブーツを履いていた為に、身長は実際よりも高く感じられた。
どちらにせよ、比べるまでもなくボクよりはるかに背が高く、スラリとしていた。
上はグリーンのニットを着て、純白のスカートを履いていた。モデルのような、と言う形容詞が相応しい容姿だった。
おそらくスラブ系だろうか、小さな顔に薔薇色の頬、強調するかのように束ねたブロンドの髪の毛がとても美しかった。
高い身長、美しい容姿、どれもがボクにコンプレックスを植え付けるようだった。
ボクが無意識のうちに彼女に見惚れてしまっている間に、ササキ氏は彼女をボクの目の前の席に通してしまった。
彼女はボクを一瞥もせずにパラパラとメニューを捲ると、そのまま迷う事なくチーズトーストとコーヒーをササキ氏に頼んだ。
「かしこまりました。」
注文を伝票表にメモするとササキ氏は、厨房の方へ引っ込んでいった。ボクはおもちゃ売り場に取り残された5歳の男の子のような気持ちで、その背中を見つめていた。
彼女はカバンからペーパーバックの本を取り出し、読み始めた。
その一連の動作は洗練された雰囲気を感じさせた。ただ本を読むにも格好がついてしまう人間がこの世界にはいるのだ。
その本の表紙は複雑な文字のデザインで埋め尽くされていたので、彼女が何の本を読んでいるかは分からなかった。
彼女が読書を始めた事で、ボクは何となく救われた気分だった。
ペーパーバックの本がまるで仕切り扉のようにボクと彼女のパーソナルスペースを完全に区分していた。ボクの感じていた緊張は、お陰で幾分か軽減されたように感じた。
勿論、ボクは他人に気を遣って話しかけるような気概を最初から持ち合わせていなかった。元々あまり人と話すのは得意ではなかったし、それが白人の女性ともなればよっぽどだった。
淡水魚が100m走に挑むようなものだ。
なので、コミュニケーションの心配を最初から全くしなくて済むのであればそれが一番良かった。
この間に素早く食事を済ませて席を立たなければならないとボクは考えた。
ボクは黙々と、しかしきちんと味わいながらチキンサンドイッチを口に運んでいた。
「失礼致します。」
五分もするとササキ氏がテーブルに彼女のチーズトーストとコーヒーを持ってきた。
そのコーヒーはやはりドロドロの濃すぎるものだった。
一方で、そのチーズトーストはカリカリに焼き上げられたパンの上にとろりととろけるチーズが乗せられていた。食べやすいように、一枚のトーストを半分に切られていて、パンの上には点描画のようにパセリが軽く振り掛けられていた。
チーズトーストの教本に写真付きで掲載されているような、完璧な見た目のチーズトーストだ。
そのチーズトーストはボクのチキンサンドイッチ同様に本物のチーズトーストであるかのように見えた。
彼女はササキ氏に軽く会釈をし、料理がテーブルに置かれたのを確認すると、本を鞄にしまった。
そして、彼女はチーズトーストとコーヒーに向き合い食べ始めた。
彼女は半分に切られたチーズトーストの片方を摘むように両手で持ち、口に運んだ。
熱々のチーズトーストは何よりもチーズトーストらしいカリッという快い音を出して、彼女に食べられていった。
その様子はまるで、楽器の独奏を聴いているかのような心地よさだった。
彼女はただ食事をしているだけなのに演奏会を他人に想起させるような、そんな美しさだった。
彼女はチーズトーストのハーフを食べ終えると紙ナプキンで手を拭き、コーヒーに手を伸ばした。
彼女はコーヒーソーサーごとカップを持ち上げた。そしてカップの持ち手をちょこんと指で摘み、ゆっくりと飲み下した。
彼女のコーヒーを飲む姿勢は、やはり優雅だった。真っ直ぐと伸びた背筋はそれでいて緊張を感じさせずに自然体であり、育ちの良さと気品を伝えていた。
こんなにも美しく飲まれるのならばプランテーションで働く人々や、コーヒーを淹れたバリスタも働いた甲斐があるだろうとボクは思った。
気づくとボクは彼女の食事に見惚れてしまっていた。
この世界には食事をしているだけで視線を惹きつけてしまう人間がいるのだ。
誰かの食事をここまでまじまじと観察したのは初めてのことだった。
それがどれだけ無礼な事か、ボクにはわかっていた。しかし、ボクの眼と耳は自分の意思を離れまるでカルガモの子供が親に続いて歩くように彼女を意識し、追い続けていた。
ボクはボクが彼女に見惚れてしまっていることを、彼女に気づかれていないか心配になった。ジロジロと自分を見てくる、白人コンプレックス丸出しの男、それは何より食事の邪魔になる存在だろう。
ボクはそんなボクを恥じた。
出来るならば、今すぐこの場を立ち去りたいと考えて始めていた。
ボクはチキンサンドイッチを胃の中に押し込むように食べた。濃すぎるコーヒーも息を止めて、味合うことなく流し込んだ。本物のチキンサンドイッチに対して、申し訳なく思う気持ちも少しはあったが一刻も早くテーブルを離れ、この店を出て行きたかったのだ。
ボクは席を立つために準備を始めた。荷物を整理して、伝票表に間違いがないか確認をした。
ボクは鞄と伝票表を手に持った。
いつでも席を立つことが出来るという段になって、ボクの中に一つの考えが浮かんだ。それはまだ食事を続ける彼女に対して、一つ会釈くらいはすべきだ、という考えだった。
一応は同じテーブルを囲んでいたのだ。無言で立ち去るのは失礼だと考えた。先ほどまでジロジロと観察してしまった無礼を取り戻す訳ではないが、一言挨拶とまでは言わないまでも会釈くらいはすべきだと考えた。
まるで親の機嫌を伺うために手伝いをしようとする子供みたいだ。
そんなわけでボクは立ち上がる途中、椅子から尻を数センチ浮かせた状態で会釈のために彼女をチラリとみた。
その時、彼女もまたボクを見ていた。
ボクの視線と彼女の視線がテープの上でぶつかった。
そしてボクたちは視線を合わせたまま0.数秒見つめあった。
ボクにはその一瞬が永遠にも感じられた、ただ目線があったというだけで、それほどのショックを受けた。
ボクはその姿勢のままテーブルを離れる事ができなかった。まるで縫い付けられたようだった。脳が自分の仕事を放棄したみたいに、思考と行動が出来なかったのだ。
一瞬であり、永遠の沈黙。
それを破ったのは彼女だった。
「マグヌス効果を知ってる?」
ボクはその発言を聞いてテーブルに彼女がやってきた時と同様に、いやそれ以上に驚いてしまった。
彼女が流暢な日本語を話した事、急にボクに話しかけてきた事、そして意味不明な発言の内容、どれもがボクに驚きと混乱を与えていた。
「その様子だと、マグヌス効果が何なのか知らないようね。」
驚きに打ちのめされているボクを無視するように彼女は言葉を続けていた。
彼女はコーヒーを一口飲むと、矢継ぎ早に話し始めた。
「マグヌス効果はね、物体が回転しながら空中を進むと進行方向に対して垂直に力が発生する現象の事なの。野球選手がボールに回転をかけて変化球を投げるのはマグヌス効果を利用しているのよ、わかる?」
彼女は淡々と、まるで辞書でも音読しているかのようにマグヌス効果についての説明を行なった。
それはボクには全く聞き覚えのない物理現象だった。
しかし、例えがある事によって何となくどういう類の現象であるかかろうじて理解できた。つまりマグヌス効果とは空中を移動する物体の運動に関する現象なのだ。
何となく予習をせずに受けた学校の授業を思い出した。
「マグヌス効果、それが貴方の探している答えよ。」
彼女はそう言うとこちらをじっと見つめ押し黙った。その視線はボクを通して後ろの壁を見ているかのように鋭かった。
当然、ボクの頭の中にはいくつかの疑問が浮かび上がっていた。彼女の発言の内容、そしてその意図が全く理解できなかったからだ。
なんとか推測しようにも、彼女は既に話すべき事は全て話したというかのように黙ってしまった。
今以上の情報は臨めなかった。これ以上ボクが黙っていても理解が進まない事ははっきりとしていた。
「えっと、その現象…マグヌス効果?それが、ボクの探している答えってのは一体どういう意味なんだい?」
ボクは彼女に質問をした。とにかく彼女の発言の意図を知りたかった。
間抜けな質問になってしまったかもしれない。頓馬なやつだと思われるのはごめんだった。しかし、これ以上混乱が長引くのは嫌だったのだ。
「貴方は何かを探しているでしょ?分かるのよそういうのは、顔を見ればね。」
彼女は呆れたようにため息をつきながら言った。
「そしてその答えこそがマグヌス効果なの、それが私には、分かりきった事だからわざわざ教えてあげたのよ。そんなに困った顔されたらこっちも気分が悪いわ。」
やれやれ。と彼女は言った。
はっきり言って、やれやれとそう言いたいのはこちらの方だった。
彼女の話す内容はまるで靄がかかったように不明瞭に感じられた。
いや、意味は分かる。言葉の意味は分かるのだ。つまり彼女が言いたいのはこうだ。
彼女にはボクが「何かを探している」という事がわかった。そして、その答えが「マグヌス効果」である事もわかったのだ。だから彼女は"親切に"それをボクに教えてくれたと言う事だろう。
内容は理解できる。しかし、何度反芻しても彼女の言いたいことはさっぱり理解できなかった。
ボクが何かを探している?
そしてその答えが、ナントカ効果とかいう空中を移動する物体に関する現象だというのだ。
「ピンとこないの?自分が何を探しているのかが分からない?」彼女は眉を顰めてボクに聞いてきた。
「うん、さっぱり分からない。」
ボクは素直にその質問に答えた。「本当に心当たりがないんだ。」
彼女は再びため息をつくと、コーヒーを飲み干した。めんどくさそうな様子だったが、それでもやはりコーヒーを飲む姿は優雅だった。
彼女はまたボクをまっすぐに見据えて、一呼吸置いてから話し始めた。
「貴方はね、話のオチを探していたのよ。」
「オチ?」
「そう、オチよ。つまり貴方が作ったお話の、綺麗な締め方。貴方はそれを探していたの。」
彼女はどうやらボクを混乱させるのが余程好きらしい。
ボクが黙っている間に彼女は話を続けた。彼女はただ淡々と、まるで面接でも受けているかのように、機械的にボクに話しかけていた。
「貴方は退屈な毎日を過ごす中で、現実逃避のために頭の中にストーリーを描いたの。」
「まるで、そう映画みたいなね。」
「私にはそのお話がどういった内容なのかまでは分からない。けれど貴方にはピンとくるものがあるはずよ。そうでしょ?」
「そして、貴方はそのストーリーを本物だと思い込んだ。本当に心の底からね。その意味が貴方に分かる?」
「心の底からストーリーを思い込むってことは自分がそのストーリーを創作した事実を忘れるって事なのよ。」
「二重人格みたいなものね。そういう物語ってよくあるでしょ?もう一人の自分が出てきたり、偽りの記憶を捏造したり。」
「それこそ映画みたいな話ね。」
「そうして、退屈な日常を忘れるためのストーリーを頭の中に作り上げ、作った事を忘れてしまった貴方はそれに入り込んだの。まぁどういう形で入り込んだのかは私には分からないけど、登場人物になりきったり、幻を見たり、幻聴を聞いたりね。とにかく貴方には心当たりがあるはずよ。」
「貴方大丈夫?すごい顔だけど、余程ショックを受けたのね。」
「『何でそんなことが君にわかるのか?』って?」
「…私にはね力があるの。この世界の大体のことは一目見ればわかってしまうのよ。まぁ、ディテールは分からない事が多いけど、とにかくそんな力があるのよ。」
「ま、私に関する詳しい話は一旦置いときましょう。長くなるのは嫌だし、今は貴方の疑問に答える時間なのよ。」
「貴方が脳内で作ったストーリーは貴方にとって本物だったの。本物の世界、本物の人間、本物の事件。」
「だからこそ、貴方はその世界がある意味で許せなかったのね。」
「ご都合主義とか、ちゃぶ台返しとか、そういう制作者の都合を感じさせるものを貴方は許せなかったのよ。だって、貴方にとってその世界は本物なんだから。本物の世界には都合が良すぎることなんて起きないものね。」
「貴方は夢想家じゃなく、リアリストだったのよ。残念ながらね。」
「だから貴方はストーリーの最後、つまりオチが近づくにつれて、そのお話をどう収集をつけていいか悩んだのよ。全くの無意識のうちにね。」
「これで私の話していたことが理解できたでしょ?貴方は探し続けていたの。そのストーリーのオチを。そしてそのキーとなる何かを。」
「貴方、色々考えてたみたいだけど何を考えていたのか自分でもよくわかってなかったっていうんだから、笑えないわ。」
「そして貴方が探していたその答えが、つまりオチこそが『マグヌス効果』なのよ。私にはそれが、わかるの。」
「よかったわね。スッキリしたんじゃない?」
彼女はそう言い終わると、チーズトーストのハーフを齧った。
チーズトーストは既に冷えていて、チーズトーストらしい音を鳴らさなかった。
ボクは彼女がチーズトーストを食べ終えるまでずっと黙っていた。いや、本当は黙っていたんじゃない喋る事ができなかったのだ。
何を言えばいいのか、自分でも全く分からなかった。様々な考えが浮かび、また沈んでいった。
月世界都市、コミュニスト、流刑地。
そしてルナ・デリバリー。
それらはボクの創作だったのか?
ある日、事件に巻き込まれた彼女。努力と勤勉で困難を乗り越える彼女。いつか、地球に旅立つことを夢見て毎日働く彼女。
ボクが思い、考え続けた彼女は本当にボクの想像の産物だったのだろうか。
ボクは深呼吸をして、真っ直ぐ前を向いた。
ボクを真剣な、そして心配そうな眼差しで見つめている名前も知らない不思議な力を持った彼女に、言いたいことが幾つか浮かんだのだ。
その中で、ボクはたった一つのセリフを厳選した。
「つまりマグヌス効果を使って、彼女は道路を飛び越えたんだね。」
ボクは目の前で、チーズトーストを食べ終えすっかり手持ち無沙汰になってしまった"彼女"にそう言った。
言うべきことは沢山あるような気がしたが、言いたいことはそれだけだった。
彼女はボクの言葉を聞いて、何か言いたげな様子だった。そして、それを言うことを悩んでいる様子でもあった。
最終的に、彼女は言葉を飲み込んで「そうね。」とだけボクに言った。
その言葉を受けてボクは、月で働くルナ・デリバリーの彼女を思った。
彼女が送ったメッセージ、その最後のシーンを頭に思い浮かべていた。
完成途中の高速道路、その途切れた道に向かって勇猛果敢に飛び出していく彼女の姿を。
工事途中で途切れた道は一種の崖のようなものだ。その断崖絶壁に向かって彼女はスピードを全く緩めず、寧ろどんどん加速しながらバイクを疾走させる。
そしていよいよ崖の端が差し迫った時、彼女のバイクは空に飛び出すのだ。
「揚力を生み出すためにバイクを回転させるなら、バックスピンで空中に飛び出したはずよ。」
彼女はボクの想像の補足をするように、言った。
その一言でボクのイメージは更に補強された。
咄嗟の状況でマグヌス効果を思いついた彼女の努力と勤勉、そして美しくバックスピンで宙を舞うバイク。
その情景は美しかった。例えそれがボクの頭が生み出したものであっても。
何よりも尊く、本物であるように思えた。
これが本物でないのならば、いったい何が本物なんだ?
「ありがとう。」
ボクは目の前の彼女に礼を言った。そして心の中で、月で働き地球を夢見る彼女にも礼を言った。「ありがとう。」と。
「楽しかったわ。」
彼女は荷物を持って立ち上がった。
ボクは店を去っていく彼女を、ただ黙って座って見ていた。
結局最後まで名前すら聞かなかったことに、彼女が会計を終えてレストランを完全に退店してしまってから気がついた。
でも、それでよかった。確かに彼女は不思議で魅力的だった。
でもボクが思い続ける女の子は一人でいいのだ。
まずは働き始めることから始めなければいけない、とボクは考えた。
会計を済ませ、レストランを後にする。
またパンを焼き続ける人生が始まる。
ロビーは朝から団体客でごった返し、ホテルの客員達は忙しそうに、それでいて笑顔を絶やさずに働いていた。そんな風に働く彼等の姿はボクに少しの罪悪感を芽生えさせた。
仕事を辞めてしまってからというもの、働く人々を見る度にボクの中には申し訳ないというような気持ちが芽生えるようになっていた。
列を待つまでの間の時間ボクが考えていた事はやはり彼女の事だった。
ボクにメッセージを残した、彼女。
彼女はいったいあの後どうなったのだろうか、彼女は道路を飛び越す事ができたのだろうか。
何度も何度も繰り返し考えた事だった。しかし答えが見つかるはずも無く、列は十五分程で捌けてしまいボクの番がやってきた。
十五分を一瞬に感じさせる程、彼女との出会いは強烈なものだったのだ。ボクは改めて、そう思った。
ショートヘアーの、どこか神経質な感じのする女の子が私を応対してくれていた。きっと、朝の受付ラッシュが、彼女をピリピリとさせているのだろう。
名札にはアルファベットでKONNOとあった。
どんな漢字を書くのだろうかとボクは想像した。今野か、紺野だろう。
この二択ならば、答えはきっと前者だろうと根拠はないがボクはそう思った。
ボクは鍵を彼女に返却し(305号室)チェックアウトの行程をすませた。
「またのご宿泊、お待ちしております。」
コンノさんは生まれた時からその顔を崩していない、というような笑顔でボクにそう言った。
「ありがとう。」とボクも同じように笑顔で返した。それは余韻の全くない、あまりにも儀礼的な会話だった。
まるで英語の授業の受け答えのようだ。とボクは思った。
「how are you?」「I'm fine.and you?」
精算時、ボクは財布の中にミールクーポンが一枚残っているのを発見した。
ホテルを発つ前に、朝食にサンドイッチでも食べるのも良いだろうと思った。
そこまで空腹というわけではなかったが、しばらく食事らしい食事は取れないだろうということが分かっていた。
ボクは通路を真っ直ぐに進み、ホテルに隣接するレストランに向かった。タイル張りの廊下はピカピカに磨かれていて、まるでインラインスケートのリンクみたいだった。
床は放っておいて、こんなにもピカピカになるものじゃない。朝からこの通路を清掃した人間のイメージがボクの脳裏に浮かんだ。
その、顔のない清掃員のイメージにボクはやはり言いようのない申し訳なさを感じた。
ボクが働く人々を意識する度に、何か悪い事をしている様な気分になるのは自分が行なっている行動が常識から外れているって事が、つまりはこのままじゃいけないって事が頭では分かっているからだ。
今のボクは働く事すら放棄して、彼女のことを思い続けている。
それはどう考えても間違った行動だった。収穫低減の法則くらい当たり前のことだった。
ボクは彼女のことを忘れて、新しい仕事に就職をし、また退屈な日々に戻るべきなんだ。それこそがボクにとって、一人のいい歳をした大人にとっての正しい道なのだ。
それでも、ボクはまだ彼女のことを思い、彼女の手がかりを探して旅を続けていた。あのメッセージの続きが、ボクの元に届く事をいつまでも待っていた。
ボクには、彼女の事を考え続けなければいけないような、思い続けなければいけない様な気がしていたんだ。
レストランは何の変哲もない、辞書で引いたような外観だった。
それでも、そのレストラン「フエベス」は店外まで腹を空かせた客達が列をなしていた。
その風景は、賑わいを見せる店が必ずしも優良な店というわけではないという事の証左の様に思えた。
少なくとも、外見はただのホテルにあるなんの変哲もないレストランだった。
入り口に立つとボクはウェイトレスによって席に通された。そこは狭い、二人掛けの席だった。店内の余剰部分を無理矢理埋めるために作られたかのような席だ。
店内を見渡す限り、一人で席に座っているのはボクだけのようだった。
笑顔でトーストを齧っている家族連れ、無言でスパゲッティを啜っている男女のカップル、打ち合わせをしているスーツを着た会社員達、手話で会話する聾唖の団体客。
他の客たちは誰もが、誰かとのコミュニケーションの輪の中にいた。
ボクだけが何の輪、何の関係性にも含まれていなかった。
ボクはボクだけが宙に浮いている、孤独なベン図を頭の中に思い描いた。
こんなにも店内は騒がしいっていうのに、ボクの心は静まり返っていた。波ひとつ立たない湖のような孤独感が、ボクを支配していた。
ボクはその孤独から逃れるように必死にメニューを吟味した。
歩いていたウェイトレスを呼び止め、チキンサンドイッチとコーヒーを注文した。
「コーヒーにミルクや砂糖は入れますか?」
ウェイトレスはボクにそう聞いた。
ボクは声も出さずにジェスチャーだけでその提案を辞退した。
ボクはコーヒーにミルクや砂糖を入れる人間を世界に遍在するくだらない戦争や、真夏の夜に耳元で飛び回る蚊と同じくらいに憎んでいた。
注文した商品はすぐにテーブルに届けられた。
コーヒーはドロドロとしていて、ボクには味が濃すぎた。
疲れ切った朝に飲むにはちょうどいい様な味だったが、休職中のボクは疲れてなんていなかったしハッキリ言ってまったく美味しく感じなかった。
ボクはコーヒーを半分だけ飲んでからカップの上に置き、チキンサンドイッチを食べ始めた。
そのチキンサンドイッチはまさに本物のチキンサンドイッチだった。
バターが軽く塗られ、ふんわりとトーストされたパンにこんがりと焼かれたチキン、瑞々しいレタスとスライスされたトマトが一枚ずつ挟まれていた。
味付けはレリッシュマスタードとマヨネーズだけというシンプルなものだった。しかし、そのシンプルな味付けがこれぞ朝食に食べるサンドイッチだ、というような味に仕上げていた。
ボクは久々に本物のサンドイッチというものを食べて大変に感動をした。
本物のサンドイッチを食べることのできるレストランは意外に珍しい。
ボクはこのレストランが単にホテルに備え付けられた、行きずりのレストランである事を少し惜しんだ。
もし、このレストランがボクの行きつけとなるならばどんなに良いか、そして行きつけのレストランにこのチキンサンドイッチがあればどれだけ良いかを想像した。
ボクは来店の挨拶もそこそこに、店に入るなり「いつもの。」とだけウェイトレスに伝えるだろう。
そして厨房はウェイトレスから注文を伝えられるまでもなく、ボクの姿が入り口に見えた時からパンをトーストし始め、チキンをカリカリに焼き始めるのだ。
ボクはそんな最高のサンドイッチを食べながら、残り半分の濃すぎるコーヒーと格闘していた。
その時、一人のボーイがボクの元にやってきた。
「失礼致します。」
清潔な髪型をした、30歳くらいの面長の男だった。少し困惑しているような様子が下がった眉や、緊張しているように少し震える口の端から見てとれた。
彼は唇の形が独特だった。それは俳優の佐々木蔵之介にとてもよく似ていた。
でも彼は、当たり前だが佐々木蔵之介ではなかった。佐々木蔵之介はホテルのレストランでボクに申し訳なさそうに話しかけたりはしないからだ。
「店内が少々混み合っておりまして、相席の方をさせていただきたいのですが宜しいですか?」
ササキ氏(仮称)の声色は、面倒な案件を処理しなくてはいけない人間特有の何とも情けない響きをしていた。
その響きは、ボクから美味しいチキンサンドイッチの余韻をすっかり取り払ってしまった。
何というか、聞いているだけでそういう口調は気が滅入るのだ。
それは別にして、もちろんボクにはその提案を断る気はしなかった。
「大丈夫です。」とだけ、ボクは言った。
世の中の「大丈夫」には主に二つの用法がある。ボクは大抵、OKの意味でしか「大丈夫」という言葉を使わないのだ。
ササキ氏は有難いことにボクの言葉をしっかりOKの意味で捉えた様で、礼を言うとすぐに入り口の方へと早足で引っ込んでいった。
ササキ氏と混み合うレストランの気持ちを最大限に汲み取るのならば、ボクはサンドイッチとコーヒーを急いで食べ終えて、少しでも早く席を立った方がいいだろう。
ボクはそう考えて、急いでチキンサンドイッチを食べようとした。
しかし、そのチキンサンドイッチは急いで食べるには勿体無いほどのチキンサンドイッチだった。
世の中には、味わって食べなければ勿体無いと思わせるような食事がある。特にそれがもう二度と食べる機会がないであろうものであるならばよっぽどだった。
相席をする相手には悪いが、ボクはチキンサンドイッチとコーヒーをゆっくりと味わう事にした。
たまにはそういうのも悪くない。というような気分だった。
暫くすると、一人の女性がササキ氏に連れられてやってきた。つまりは彼女がボクの相席の相手という事だろう。
彼女の姿にボクはとても驚いてしまった。
同時に、チキンサンドイッチを早く食べてしまわなかった事を強く後悔した。
ボクと相席をする為にテーブルにやってきた彼女は、白人女性だったのだ。
「白人女性」。ボクと対極にいるような、いや、まさしく対極の存在だ。
一体何をどう間違ったら全く知らない白人女性と相席で食事をする羽目になってしまうのだろうか。
ボクは神様に試練を与えられているのかもしれない、仕事辞めたってだけで?馬鹿げた話だ。
その時ボクが考えていたのは、もし手元にタイムマシンがあったのなら、3分前のボクを殴り飛ばしてでも早く席を立たせるだろうという事だった。
ボクの脳裏には過去の世界からもう一人のボクが殴り込んでくるイメージが浮かんだ。
炎のラインを引きながら、レストランに突っ込んでくるデロリアン。
乗り込み、運転をしているのはもちろんマーティ・マクフライとドクだ。そしてチキンサンドイッチを片手に持った過去のボクが後部座席にちょこんと座り、現在のボクを殴る為に拳をポキポキと鳴らしている。
そんなイメージだ。
全く、やれやれだった。
その彼女はおそらく身長180cmほどの高身長だった。
しかし、ソールの高い白のブーツを履いていた為に、身長は実際よりも高く感じられた。
どちらにせよ、比べるまでもなくボクよりはるかに背が高く、スラリとしていた。
上はグリーンのニットを着て、純白のスカートを履いていた。モデルのような、と言う形容詞が相応しい容姿だった。
おそらくスラブ系だろうか、小さな顔に薔薇色の頬、強調するかのように束ねたブロンドの髪の毛がとても美しかった。
高い身長、美しい容姿、どれもがボクにコンプレックスを植え付けるようだった。
ボクが無意識のうちに彼女に見惚れてしまっている間に、ササキ氏は彼女をボクの目の前の席に通してしまった。
彼女はボクを一瞥もせずにパラパラとメニューを捲ると、そのまま迷う事なくチーズトーストとコーヒーをササキ氏に頼んだ。
「かしこまりました。」
注文を伝票表にメモするとササキ氏は、厨房の方へ引っ込んでいった。ボクはおもちゃ売り場に取り残された5歳の男の子のような気持ちで、その背中を見つめていた。
彼女はカバンからペーパーバックの本を取り出し、読み始めた。
その一連の動作は洗練された雰囲気を感じさせた。ただ本を読むにも格好がついてしまう人間がこの世界にはいるのだ。
その本の表紙は複雑な文字のデザインで埋め尽くされていたので、彼女が何の本を読んでいるかは分からなかった。
彼女が読書を始めた事で、ボクは何となく救われた気分だった。
ペーパーバックの本がまるで仕切り扉のようにボクと彼女のパーソナルスペースを完全に区分していた。ボクの感じていた緊張は、お陰で幾分か軽減されたように感じた。
勿論、ボクは他人に気を遣って話しかけるような気概を最初から持ち合わせていなかった。元々あまり人と話すのは得意ではなかったし、それが白人の女性ともなればよっぽどだった。
淡水魚が100m走に挑むようなものだ。
なので、コミュニケーションの心配を最初から全くしなくて済むのであればそれが一番良かった。
この間に素早く食事を済ませて席を立たなければならないとボクは考えた。
ボクは黙々と、しかしきちんと味わいながらチキンサンドイッチを口に運んでいた。
「失礼致します。」
五分もするとササキ氏がテーブルに彼女のチーズトーストとコーヒーを持ってきた。
そのコーヒーはやはりドロドロの濃すぎるものだった。
一方で、そのチーズトーストはカリカリに焼き上げられたパンの上にとろりととろけるチーズが乗せられていた。食べやすいように、一枚のトーストを半分に切られていて、パンの上には点描画のようにパセリが軽く振り掛けられていた。
チーズトーストの教本に写真付きで掲載されているような、完璧な見た目のチーズトーストだ。
そのチーズトーストはボクのチキンサンドイッチ同様に本物のチーズトーストであるかのように見えた。
彼女はササキ氏に軽く会釈をし、料理がテーブルに置かれたのを確認すると、本を鞄にしまった。
そして、彼女はチーズトーストとコーヒーに向き合い食べ始めた。
彼女は半分に切られたチーズトーストの片方を摘むように両手で持ち、口に運んだ。
熱々のチーズトーストは何よりもチーズトーストらしいカリッという快い音を出して、彼女に食べられていった。
その様子はまるで、楽器の独奏を聴いているかのような心地よさだった。
彼女はただ食事をしているだけなのに演奏会を他人に想起させるような、そんな美しさだった。
彼女はチーズトーストのハーフを食べ終えると紙ナプキンで手を拭き、コーヒーに手を伸ばした。
彼女はコーヒーソーサーごとカップを持ち上げた。そしてカップの持ち手をちょこんと指で摘み、ゆっくりと飲み下した。
彼女のコーヒーを飲む姿勢は、やはり優雅だった。真っ直ぐと伸びた背筋はそれでいて緊張を感じさせずに自然体であり、育ちの良さと気品を伝えていた。
こんなにも美しく飲まれるのならばプランテーションで働く人々や、コーヒーを淹れたバリスタも働いた甲斐があるだろうとボクは思った。
気づくとボクは彼女の食事に見惚れてしまっていた。
この世界には食事をしているだけで視線を惹きつけてしまう人間がいるのだ。
誰かの食事をここまでまじまじと観察したのは初めてのことだった。
それがどれだけ無礼な事か、ボクにはわかっていた。しかし、ボクの眼と耳は自分の意思を離れまるでカルガモの子供が親に続いて歩くように彼女を意識し、追い続けていた。
ボクはボクが彼女に見惚れてしまっていることを、彼女に気づかれていないか心配になった。ジロジロと自分を見てくる、白人コンプレックス丸出しの男、それは何より食事の邪魔になる存在だろう。
ボクはそんなボクを恥じた。
出来るならば、今すぐこの場を立ち去りたいと考えて始めていた。
ボクはチキンサンドイッチを胃の中に押し込むように食べた。濃すぎるコーヒーも息を止めて、味合うことなく流し込んだ。本物のチキンサンドイッチに対して、申し訳なく思う気持ちも少しはあったが一刻も早くテーブルを離れ、この店を出て行きたかったのだ。
ボクは席を立つために準備を始めた。荷物を整理して、伝票表に間違いがないか確認をした。
ボクは鞄と伝票表を手に持った。
いつでも席を立つことが出来るという段になって、ボクの中に一つの考えが浮かんだ。それはまだ食事を続ける彼女に対して、一つ会釈くらいはすべきだ、という考えだった。
一応は同じテーブルを囲んでいたのだ。無言で立ち去るのは失礼だと考えた。先ほどまでジロジロと観察してしまった無礼を取り戻す訳ではないが、一言挨拶とまでは言わないまでも会釈くらいはすべきだと考えた。
まるで親の機嫌を伺うために手伝いをしようとする子供みたいだ。
そんなわけでボクは立ち上がる途中、椅子から尻を数センチ浮かせた状態で会釈のために彼女をチラリとみた。
その時、彼女もまたボクを見ていた。
ボクの視線と彼女の視線がテープの上でぶつかった。
そしてボクたちは視線を合わせたまま0.数秒見つめあった。
ボクにはその一瞬が永遠にも感じられた、ただ目線があったというだけで、それほどのショックを受けた。
ボクはその姿勢のままテーブルを離れる事ができなかった。まるで縫い付けられたようだった。脳が自分の仕事を放棄したみたいに、思考と行動が出来なかったのだ。
一瞬であり、永遠の沈黙。
それを破ったのは彼女だった。
「マグヌス効果を知ってる?」
ボクはその発言を聞いてテーブルに彼女がやってきた時と同様に、いやそれ以上に驚いてしまった。
彼女が流暢な日本語を話した事、急にボクに話しかけてきた事、そして意味不明な発言の内容、どれもがボクに驚きと混乱を与えていた。
「その様子だと、マグヌス効果が何なのか知らないようね。」
驚きに打ちのめされているボクを無視するように彼女は言葉を続けていた。
彼女はコーヒーを一口飲むと、矢継ぎ早に話し始めた。
「マグヌス効果はね、物体が回転しながら空中を進むと進行方向に対して垂直に力が発生する現象の事なの。野球選手がボールに回転をかけて変化球を投げるのはマグヌス効果を利用しているのよ、わかる?」
彼女は淡々と、まるで辞書でも音読しているかのようにマグヌス効果についての説明を行なった。
それはボクには全く聞き覚えのない物理現象だった。
しかし、例えがある事によって何となくどういう類の現象であるかかろうじて理解できた。つまりマグヌス効果とは空中を移動する物体の運動に関する現象なのだ。
何となく予習をせずに受けた学校の授業を思い出した。
「マグヌス効果、それが貴方の探している答えよ。」
彼女はそう言うとこちらをじっと見つめ押し黙った。その視線はボクを通して後ろの壁を見ているかのように鋭かった。
当然、ボクの頭の中にはいくつかの疑問が浮かび上がっていた。彼女の発言の内容、そしてその意図が全く理解できなかったからだ。
なんとか推測しようにも、彼女は既に話すべき事は全て話したというかのように黙ってしまった。
今以上の情報は臨めなかった。これ以上ボクが黙っていても理解が進まない事ははっきりとしていた。
「えっと、その現象…マグヌス効果?それが、ボクの探している答えってのは一体どういう意味なんだい?」
ボクは彼女に質問をした。とにかく彼女の発言の意図を知りたかった。
間抜けな質問になってしまったかもしれない。頓馬なやつだと思われるのはごめんだった。しかし、これ以上混乱が長引くのは嫌だったのだ。
「貴方は何かを探しているでしょ?分かるのよそういうのは、顔を見ればね。」
彼女は呆れたようにため息をつきながら言った。
「そしてその答えこそがマグヌス効果なの、それが私には、分かりきった事だからわざわざ教えてあげたのよ。そんなに困った顔されたらこっちも気分が悪いわ。」
やれやれ。と彼女は言った。
はっきり言って、やれやれとそう言いたいのはこちらの方だった。
彼女の話す内容はまるで靄がかかったように不明瞭に感じられた。
いや、意味は分かる。言葉の意味は分かるのだ。つまり彼女が言いたいのはこうだ。
彼女にはボクが「何かを探している」という事がわかった。そして、その答えが「マグヌス効果」である事もわかったのだ。だから彼女は"親切に"それをボクに教えてくれたと言う事だろう。
内容は理解できる。しかし、何度反芻しても彼女の言いたいことはさっぱり理解できなかった。
ボクが何かを探している?
そしてその答えが、ナントカ効果とかいう空中を移動する物体に関する現象だというのだ。
「ピンとこないの?自分が何を探しているのかが分からない?」彼女は眉を顰めてボクに聞いてきた。
「うん、さっぱり分からない。」
ボクは素直にその質問に答えた。「本当に心当たりがないんだ。」
彼女は再びため息をつくと、コーヒーを飲み干した。めんどくさそうな様子だったが、それでもやはりコーヒーを飲む姿は優雅だった。
彼女はまたボクをまっすぐに見据えて、一呼吸置いてから話し始めた。
「貴方はね、話のオチを探していたのよ。」
「オチ?」
「そう、オチよ。つまり貴方が作ったお話の、綺麗な締め方。貴方はそれを探していたの。」
彼女はどうやらボクを混乱させるのが余程好きらしい。
ボクが黙っている間に彼女は話を続けた。彼女はただ淡々と、まるで面接でも受けているかのように、機械的にボクに話しかけていた。
「貴方は退屈な毎日を過ごす中で、現実逃避のために頭の中にストーリーを描いたの。」
「まるで、そう映画みたいなね。」
「私にはそのお話がどういった内容なのかまでは分からない。けれど貴方にはピンとくるものがあるはずよ。そうでしょ?」
「そして、貴方はそのストーリーを本物だと思い込んだ。本当に心の底からね。その意味が貴方に分かる?」
「心の底からストーリーを思い込むってことは自分がそのストーリーを創作した事実を忘れるって事なのよ。」
「二重人格みたいなものね。そういう物語ってよくあるでしょ?もう一人の自分が出てきたり、偽りの記憶を捏造したり。」
「それこそ映画みたいな話ね。」
「そうして、退屈な日常を忘れるためのストーリーを頭の中に作り上げ、作った事を忘れてしまった貴方はそれに入り込んだの。まぁどういう形で入り込んだのかは私には分からないけど、登場人物になりきったり、幻を見たり、幻聴を聞いたりね。とにかく貴方には心当たりがあるはずよ。」
「貴方大丈夫?すごい顔だけど、余程ショックを受けたのね。」
「『何でそんなことが君にわかるのか?』って?」
「…私にはね力があるの。この世界の大体のことは一目見ればわかってしまうのよ。まぁ、ディテールは分からない事が多いけど、とにかくそんな力があるのよ。」
「ま、私に関する詳しい話は一旦置いときましょう。長くなるのは嫌だし、今は貴方の疑問に答える時間なのよ。」
「貴方が脳内で作ったストーリーは貴方にとって本物だったの。本物の世界、本物の人間、本物の事件。」
「だからこそ、貴方はその世界がある意味で許せなかったのね。」
「ご都合主義とか、ちゃぶ台返しとか、そういう制作者の都合を感じさせるものを貴方は許せなかったのよ。だって、貴方にとってその世界は本物なんだから。本物の世界には都合が良すぎることなんて起きないものね。」
「貴方は夢想家じゃなく、リアリストだったのよ。残念ながらね。」
「だから貴方はストーリーの最後、つまりオチが近づくにつれて、そのお話をどう収集をつけていいか悩んだのよ。全くの無意識のうちにね。」
「これで私の話していたことが理解できたでしょ?貴方は探し続けていたの。そのストーリーのオチを。そしてそのキーとなる何かを。」
「貴方、色々考えてたみたいだけど何を考えていたのか自分でもよくわかってなかったっていうんだから、笑えないわ。」
「そして貴方が探していたその答えが、つまりオチこそが『マグヌス効果』なのよ。私にはそれが、わかるの。」
「よかったわね。スッキリしたんじゃない?」
彼女はそう言い終わると、チーズトーストのハーフを齧った。
チーズトーストは既に冷えていて、チーズトーストらしい音を鳴らさなかった。
ボクは彼女がチーズトーストを食べ終えるまでずっと黙っていた。いや、本当は黙っていたんじゃない喋る事ができなかったのだ。
何を言えばいいのか、自分でも全く分からなかった。様々な考えが浮かび、また沈んでいった。
月世界都市、コミュニスト、流刑地。
そしてルナ・デリバリー。
それらはボクの創作だったのか?
ある日、事件に巻き込まれた彼女。努力と勤勉で困難を乗り越える彼女。いつか、地球に旅立つことを夢見て毎日働く彼女。
ボクが思い、考え続けた彼女は本当にボクの想像の産物だったのだろうか。
ボクは深呼吸をして、真っ直ぐ前を向いた。
ボクを真剣な、そして心配そうな眼差しで見つめている名前も知らない不思議な力を持った彼女に、言いたいことが幾つか浮かんだのだ。
その中で、ボクはたった一つのセリフを厳選した。
「つまりマグヌス効果を使って、彼女は道路を飛び越えたんだね。」
ボクは目の前で、チーズトーストを食べ終えすっかり手持ち無沙汰になってしまった"彼女"にそう言った。
言うべきことは沢山あるような気がしたが、言いたいことはそれだけだった。
彼女はボクの言葉を聞いて、何か言いたげな様子だった。そして、それを言うことを悩んでいる様子でもあった。
最終的に、彼女は言葉を飲み込んで「そうね。」とだけボクに言った。
その言葉を受けてボクは、月で働くルナ・デリバリーの彼女を思った。
彼女が送ったメッセージ、その最後のシーンを頭に思い浮かべていた。
完成途中の高速道路、その途切れた道に向かって勇猛果敢に飛び出していく彼女の姿を。
工事途中で途切れた道は一種の崖のようなものだ。その断崖絶壁に向かって彼女はスピードを全く緩めず、寧ろどんどん加速しながらバイクを疾走させる。
そしていよいよ崖の端が差し迫った時、彼女のバイクは空に飛び出すのだ。
「揚力を生み出すためにバイクを回転させるなら、バックスピンで空中に飛び出したはずよ。」
彼女はボクの想像の補足をするように、言った。
その一言でボクのイメージは更に補強された。
咄嗟の状況でマグヌス効果を思いついた彼女の努力と勤勉、そして美しくバックスピンで宙を舞うバイク。
その情景は美しかった。例えそれがボクの頭が生み出したものであっても。
何よりも尊く、本物であるように思えた。
これが本物でないのならば、いったい何が本物なんだ?
「ありがとう。」
ボクは目の前の彼女に礼を言った。そして心の中で、月で働き地球を夢見る彼女にも礼を言った。「ありがとう。」と。
「楽しかったわ。」
彼女は荷物を持って立ち上がった。
ボクは店を去っていく彼女を、ただ黙って座って見ていた。
結局最後まで名前すら聞かなかったことに、彼女が会計を終えてレストランを完全に退店してしまってから気がついた。
でも、それでよかった。確かに彼女は不思議で魅力的だった。
でもボクが思い続ける女の子は一人でいいのだ。
まずは働き始めることから始めなければいけない、とボクは考えた。
会計を済ませ、レストランを後にする。
またパンを焼き続ける人生が始まる。
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