狂人

東赤月

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始まりの日

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 けたたましい音で目を覚ました。初めて聞く音だ。どうやら誰かが扉を叩いているらしい。
「ああ、あんた、急いで来てくれ!」
 何が何やら分からないまま、自警団の男に連れられる。道中、村長の家に向かうのだろうと察した。しかしそこで、予想だにしない光景が広がっていた。
 村長の家が、破壊されていたのである。
「ああ、村長……!」
「そんな……!」
 女と男が悲嘆していた。周りにいる村人も悲しみの声を洩らしている。人工知能でしかない村長を自分たちと同じ仲間だと思っていたのだろう。
 しかし、悲しむ前にやるべきことがあるのではなかろうか。自警団の男に尋ねる。誰がこんなことを?
「分からない。ただ、今朝犯人からこんな手紙が届いたんだ。きっとあんたの家にも届いてるはずだ」
 そう言って、彼が手紙を見せてくれる。そこにはこう書いてあった。
『我々は外を知る者です。
 長年この村に留まってきましたが、ここは異常です。
 直ちに目を覚ましてください。
 状況の改善が見られない場合、一日につき一人、村人を殺害します。』
 雷に打たれたかのような衝撃が走った。この村の中に外を知る人がいる。そしてその人は、この村がおかしいと分かっている。興奮に肩が震えた。
「ふざけた野郎どもだ。何が目を覚ませだよ。村長の仇は絶対にとってやる!」
「ええ、勿論! この村の中にいるって言うなら、探し出してとっ捕まえてやるわ!」
「村長を殺した殺人犯を許すな!」
 そこにいる村人全員が声を上げたので、同調する。そうだ、ここで喜んではいけない。自分はあくまで普通の村人として振る舞い、陰でこの人を支えるのだ。
 やっとこの地獄から解放される。そのためなら何だってしてやる。湧き出てくる喜びを抑えながら、狂人は村人に扮するのだった。
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