夢の中の雪

東赤月

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疑問

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「むう、負けたか」
 僕が部長から取ったカードで最後の一組を揃えると、部長は苦笑いして言った。部長は手からクイーンの書かれたカードを場に出し、伏せてあったカードを表にする。当然、それもまたクイーンであった。
 僕は辛くも部長に勝利した。負けたとしてもお使いを頼まれるだけなので大したことではないが、負けた途端に罰ゲームを変えるという理不尽なことを平気でする部長である。勝っておいて損はないだろう。
 けれど、こういう勝負で部長が負けるなんて珍しい。いつもなら嬉々として罰ゲームをさせる側なのに、する側になるなんて初めて見たかもしれない。まあ、運の絡む遊戯だ。全戦全勝という方がおかしいだろう。
「では、儂が買いに行くとしよう。希望はあるか?」
「ミルクティーをお願いします」
「私は緑茶で」
 僕と彩花さんの言葉を聞き、部長は頷いた。
「いいじゃろう。暫く待っておれ」
 そう言って、部長はトランプを片づけぬまま引き戸も閉めずに出て行った。
 僕と深谷さんが部室に残される。
「………………」
 こうして二人で取り残されると、何を話していいか良く分からない。部長がジュースを買いに行く場所は学校の近くにある品物が安いスーパーマーケットのはずなので、二十分はこのままだ。もしかしてこれこそが部長の目的か? それともその間に部長は実験用の道具を持ってくるとか。いやしかしこの状態はトランプの勝ち負けの結果だし、それとは関係ないはずだが――
 あれ、とそこで僕は一つの疑問に思い至る。
 そもそも、これは本当に部長の実験なのか?
 部長の罠を回避することばかりに頭を使っていた僕は、部長という脅威がなくなった今、他の可能性を考える余裕が生まれていた。
 俯き、思考を深める。
 実験を行うとき、部長はいつも直接僕たちに実験があると言いに来ていた。だから僕たちは覚悟して実験に臨むことができたので、入部の際のような致命的な失態は犯さなかった。今回そういった覚悟抜きで部長が僕たちを撮影しようとしているんだと決めつけていたが、その前提が間違っているのではないだろうか。勿論、実験ではないと思わせて実験させるということは何回か行われたし、今回もそういうケースであるということを否定はできないが、例えそういった場合でも、やはり事前に部長が直接、僕たち二人に通達に来ていた。僕だけに対し深谷さんが部室に来て欲しいとだけ言った今回の状況は、前回までの通達に比べるとかなり特殊なものだ。思えば、部長は僕の来訪に対し関心だと言っていた。とぼけているだけかと思っていたが、実際に意外だったのだろうか。いや、やはりとぼけていて、深谷さんは巨大な釣り針であるとか……。
 思考が同じ場所を回り始めた。右手でこめかみを押さえ、思考を中止する。
 駄目だ。疑い始めたらきりがない。答えの出ない問いは止めよう。
 とりあえず、部長の実験を警戒するという基本的なスタンスは変えないこととした。気を張っておくに越したことはない。
 待てよ、と新たな疑問が浮かぶ。
 もしこれが実験でないとしたら、深谷さんは何の用事で僕を呼び出したんだろう。部長がいる部室に呼び出したということは、ただ単純に三人で遊びたかっただけだったのだろうか。それとも結局実験で……、いや、そこを考えるのは無駄だ。
 折角二人きりなのだから、聞いてみてもいいかもしれない。実験の呼び出しだったのなら彼女は嘘を言うだろうが、それならそれで別に構わないし、別の要件で呼び出したのなら今こそそれを聞くべきだろう。
 聞こう。自らの行動を定め、まさに深谷さんに話を聞こうとした時だった。
「ねえ、深谷さ――」
 ピシャン
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