漫才

東赤月

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流行語大賞

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「なあなあ、流行語大賞ってあるやんか」

「あるな。その年で一番流行った言葉を決めるやつやな」

「せやせや。それでな、俺も流行語作ってみよ思てな」

「お前が? 流行語なんて作れるもんなん?」

「いや流行語ゆうても言葉やし、俺でもチャンスある思てん。で、これならいけるってのを考えたんよ。ちょっと聞いてくれへん? かなり自信あるで」

「そこまで言うなら聞いてやろないかい。言ってみ?」

「よしきた! んじゃまず、俺が驚くようなこと言ってもろてええ?」

「いや俺が言うんかい。どういうこっちゃねん」

「この言葉は驚いたときに使うんよ。な、頼むわ」

「まあええけど。そうやな……俺実は、昨日寝てへんねん」

「なんやそんなこと。全然驚かれへんわ」

「いやそこは驚いた体で続けてくれや。なんでびっくりニュース選手権みたくなっとんねん」

「この言葉はホンマに驚いた時にしか使わへんねんて。な、何かあるやろ?」

「流行語にしたいのに使う機会制限してどないすんねん。あー、そんな驚く話あったかなぁ? せやな……実は先週、兄貴が結婚してん」

「お前の兄貴が!? アニメのキャラクターにしか興味ない言うとったのに!? はー、これはこれは、驚き!」
「ん?」
「桃の木!」
「は?」
「あ山椒の木」
「なんやそれ」


「なんやて、流行語大賞のために考えてきた言葉やんか」

「いや死語やん! とっくに流行過ぎてんねん! なにリズムに乗って『あ山椒の木』やねん! そんなもん候補にすらならへんわ!」

「分かってへんな。死語なのがええんやないか。若い人は知らんから新鮮で、年配の方は懐かしく感じる、まさに老若男女問わず流行する言葉や」

「そんな古くさい言葉を若い奴らはわざわざ使わんやろ。そもそも長いねん。ホンマに驚いた時にそんな言葉使う余裕なんてあらへんやん」

「そりゃマジメな話してるときまで使え思とるわけやないよ。今みたいな興味引かれる話題が出たとき、自分驚いたで、ってアピールするくらいで丁度ええねん」

「それでも咄嗟に出るとは思えへんけどなぁ」

「ていうか今の話ホンマなん!? お前の兄貴が結婚て」

「ホンマやで。なんや、アニメのキャラクターとしとったわ」

「なんや、ゲームの中の話かい」

「先週、自宅に等身大の人形が届いてん」

「えええええ!? ホンマに!?」

「ほれ」


「ん?」

「ん? やないねん。咄嗟に出ぇへんかったやろ? さっきの」

「ああ! いやちょっと衝撃がでかすぎてん。今やるわ」

「いややらなくてええねん」

「驚き!」
「おい」
「桃の木!」
「はぁ」
「あ山椒の木」
「なんやそのポーズ」


「なんやて、山椒の木をイメージしたポーズやねん」

「山椒の木のイメージなんて分かるわけないやん! そもそも流行語にポーズなんて含まれへんねん!」

「分かってへんな。ポーズがあった方が印象に残んねん。それが流行に繋がるんや」

「だから驚いたときにそこまででけへんて。興味ある話題やったら、すぐ続き聞きたなるやろ? そんなポーズしとる暇あったら、ほんでほんで? って訊くわ」

「ちゃうねん。興味ある話題やからこそ、一度呑み込まなあかんねん。この言葉はそのための間を作ってくれるんや」

「会話のペース乱れそうやけどな」

「ポーズかて、十分間があるから余裕を持ってできるんや。大事やで、ポーズは。例えばヒーロー物のアニメあるやろ? そこでヒーローが登場したとき、直立不動で、参上! なんて言うたらどうなると思う?」


「朝の集会やな」

「せやねん! そんなんもう学校で、きりーつ、れーい、ちゃくせーき、するのと変わらへんねん! カッコ良さも何もないねん! 悪役も悲しなんねん。敵なのに、もっとカッコ良くならへん? て言いたなるねん!」

「流行語てそういうもんちゃうと思うんやけどなぁ」

「印象に残るのが大事っちゅーことや。実際、お前はもう忘れられなくなったはずやで。驚いた時には自然と俺の姿を思い出すはずや」

「まあ暫くは忘れへんやろな」

「せやろ! もうお前は驚くたびに、この山椒の木のポーズを頭に浮かべなあかんねん」

「純粋に驚かせてくれや。地味に嫌やなそれ」

「けど、な! これなら流行語大賞狙えるんとちゃう?」

「どこからその自信来るねん。俺ならともかく、見ず知らずの人間やったら一日も経たずに忘れるやろ、こんなん」

「せやろか?」

「まったく、こんなんならわざわざ作り話するんじゃなかったわ」

「作り話? ああ、兄貴の!? なんややっぱウソやったんか。どこまでがホントやったん?」

「結婚したってのはホンマや。ゲームの中でやけどな」

「ああ、それじゃあ驚かれへんな」

「そういうわけやから、俺今かなり眠いねん。もうええか?」

「眠い? ああ、昨日寝てないってやつやな。なんや、お前一日くらい寝なくてもなんとかなる言うてなかったか?」

「その話したの昨日やねん」

「ああせやった。って、お前二日寝てへんの!?」

「そういう意味で言ったんやけど」

「それなら一昨日から寝てへん言うてくれなな! 大丈夫なん!?」

「そこは普通に心配してくれるんやな」

「あ、せやった。驚き!」
「いやもうええねん」
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