全能で楽しく公爵家!!

山椒

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全能の爆誕

029:摸擬戦。中編

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 次はシルヴィー姉さんとクレアさんの第二試合で、俺とノエルさんはシルヴィー姉さんとクレアさんと交替した。

「アーサー、すごかった」

 交替する際にシルヴィー姉さんからそのお言葉をもらったが、独り言のような感じだった。

 だってそうじゃないと俺に話しかけるなんてできないのだから。それはそれで進歩なのかは分からないが、進歩だと思っておこう。

「アーサーすごかった! あんなに強かったのね! お父さんやパスカルから強いとは聞いていたけど、戦っているところを見たことがなかったから初めて知ったわ」
「そうかな」
「私に勝ったんだからもっと自信を持ったら?」
「あんたは自信を持ち過ぎなのよ! もっと謙虚にしてなさいよ」
「強い人の特権だよね~」

 こういうことをサラっと言っているからシルヴィー姉さんとルーシー姉さんにウザがられているのだろうな。でも仲がいい模様。

「アーサーって四歳なのにあんなに強いなんてすごいわね! 天才よ!」
「あ、ありがとう……」

 ルーシー姉さんからすごい称賛を受けて少し照れてしまった。

「それにアーサーは魔力も魔法適正もすごいからとんでもないわね!」
「……ルーシーお姉ちゃん、もうやめて、恥ずかしいから」
「これくらいは誉め慣れとかないとやっていけないわよ?」
「ルーシーお姉ちゃんは誉め慣れているの?」
「まあ、私は社交界デビューしているからそれなりには慣れてるわよ」

 あー、俺ってそういえば公爵家だったな。社交界デビューもあるとか、嫌だなぁ。

 そうこう話しているうちにシルヴィー姉さんとクレアさんの試合が始まった。

 クレアさんがシルヴィー姉さんに攻撃を仕掛けるが、それをシルヴィー姉さんは完璧に受けてみせた。

「あー、シルヴィーが相手だから仕方がないか」
「私でも勝てないんだから勝てるわけないわよ」

 クレアさんがシルヴィー姉さんに勝てないことは本人がわかっているだろう。それでも諦めないその姿勢が美しいと感じてしまうのは、彼女の婚約者だからだろうか。

「ノエルさん、クレアさんは固有魔法を持っているのですか?」

 さっきからクレアさんは魔法で身体能力を向上させているようだが、それ以外の魔法が見られなかった。だからノエルさんに聞いてみた。

「持ってる。でもクレアは固有魔法をそんなに鍛えてないから使わないわよ」
「そうですか……」

 あの感じから見て、たぶんクレアさんは器用貧乏的な感じか? それにシルヴィー姉さんは普通に強いから、シルヴィー姉さんの余裕は崩せないでいた。

 クレアさんが少し息が上がってきたところで。シルヴィー姉さんがクレアさんの木剣を弾き飛ばしてクレアさんの首元に木剣を近づけた。

「第二試合勝者、シルヴィー」

 当たり前の結末だと思うが、それでも悔しそうにしているクレアさんはきっとこれからも努力するだろう。

「アーサー、次は私たちね」
「もう僕の番なんだね……」

 ルーシー姉さんに言われてルーシー姉さんと一緒にシルヴィー姉さんとクレアさんと交替する。

 その時にクレアさんに一言声をかける。

「クレアさん、良かったですよ」
「……どこも、よくありません」
「そうですか? クレアさんの諦めない姿勢、僕はとても素敵だと思いました」

 俺の言葉にクレアさんはプイッと俺から顔を背けてノエルさんがいる場所に戻っていく。それをルーシー姉さんからジト目で見られていたことは気にしないようにする。

「アーサーって、クレアちゃんにあんなこと言うのね。婚約者だから?」
「る、ルーシーお姉ちゃん……?」
「いつもは四歳みたいに無邪気なことを言っているのに、アーサーがあんなこと言うなんて聞いたことなかったわよ」

 うん? もしかしてルーシー姉さんは俺の新たな一面を自身以外に見せているから拗ねているのか?

 そんなまさかぁ~。俺とルーシー姉さんは姉弟だし、いつかはお互いに家庭を持つことになるんだからそんなことで拗ねるわけがないだろ。

「いいわ、アーサーに勝ってアーサーの初めてをすべてもらうわ!」
「えっ?」

 何でここに来て優しい姉がこんな感じになったんだ!? ていうか普通に聞いたらエロイ感じに聞こえてしまうが、ルーシー姉さんにその意図はないだろう。

「二人とも、何だか変なことになっているけど、準備は良さそうだね」
「いいわ、いつでも始めて」
「えっ、僕は別に大丈夫では……」
「第三試合、始めッ!」

 俺の心の準備が整わないまま模擬戦が始まってしまった。

 ルーシー姉さんは合図と共に、木剣を放り投げてルーシー姉さんの固有魔法である『創剣そうけん』で金色の剣を手に持ち、背後に複数の金色の剣を宙に浮かせながら創剣した。

「アーサー! 行くわよ!」
「あー、うん、どうぞいつでも」

 これがルーシー姉さんの固有魔法かと感心しているとルーシー姉さんが浮いている剣を三本射出してきた。

 それを強化した木剣ですべて打ち落とすと、今度は五本になって迫ってきていた。しかも続いてルーシー姉さんが向かってきている。

 五本目の剣を打ち落とした次の瞬間、すでにルーシー姉さんが今にも俺に攻撃を仕掛けようとしていた。

 そうなることは分かっていたから後ろに飛んでかわそうとする。

「甘いわよ!」

 でもルーシー姉さんもそれを見越していたかのように手に持っていた剣を伸ばして俺を斬りつけようとする。

「そんなこともできるんだ」

 これはかなり強い固有魔法だ。剣のリーチを変えれるのは相手の虚をつくことができる。

 だがありがたいことに俺の全能はオートガード機能がついているから、虚を突こうとしても素早く剣を動かしてルーシー姉さんの剣を受け止める。

「ッ!? まだまだ!」

 俺が剣を受け止めたことに驚きはしたが、攻撃の手を休めずに今度は上から五本の剣を落としてきた。

 それもアクロバティックな動きで受け流したり打ち落として無傷で乗り越えた。

「ふふっ、これで倒したと思ったのに、やるわね」
「ルーシーお姉ちゃんもえげつないことをしてくるね」
「それを全部打ち落としたアーサーに言われたくないわよ! 次よ!」

 俺から離れることなく今度は創剣の攻撃や援護なしに向かってくるルーシー姉さん。

 さっきまでの小細工なしでも十分に強いが、それでもノエルさんよりも少し劣っていると言ったところだ。

「受けてばかりでいるつもり!?」
「お姉ちゃんが激しいからだよ……!」
「どこでそんないやらしい言葉を覚えたのよ!」
「えー……」

 別にいやらしく言ったつもりはないのだが。

 それにしても、本当にどうしよう。どうやって決着をつけようか。

 別にこのまま一時間だろうが十時間だろうが俺は続けられる。でもルーシー姉さんはそうはいかないから姉さんの体力切れを狙うのが一番良さそうなんだが……このままだと一時間は軽く粘ってきそうだ。

 創剣を使ってくれるのなら魔力切れがあるのだが、その手はもう使ってくれなさそうだ。

「やめっ!」

 悩んでいても完璧に攻撃を受け流しているところでお父上様から中止の合図が入ったことで、俺とルーシー姉さんは止まった。

「どうして止めるのよお父さん!」
「これ以上時間をかけさせるわけにはいかない。勝者はアーサーだ」
「それこそどうしてよ! アーサーは受けてばかりだったじゃない!」
「ルーシー。自身とアーサーの状態をよく見てみるといい」

 お父上様から言われてルーシー姉さんは俺の方を見る。

 おそらくお父上様が言いたいのは、どちらが余裕があるかということなのだろう。もちろん息を切らさず汗一つ流していない俺の方が余裕があるだろう。

 今回は下手に演技をして怪しまれるといかないと思って疲れている演技をしていなかった結果、俺の勝利となった。

「うっ……く、悔しいッ!」
「ま、まあ判定負けだからそこまで悔しがる必要はないよ……」
「弟に負けて悔しいのよ! もう一回するわよ!」
「そこは……また今度しようね」

 悔しがるルーシー姉さんと戻り、今度はシルヴィー姉さんとノエルさんが入れ替わりで向かう。

「お疲れさまです、アーサーさま」
「ありがとう、ベラ」

 ベラから水を貰って水分補給を行いつつ、チラッとルーシー姉さんの方を見る。

「うがぁ! 悔しい!」
「まだ言ってんすか? 何度も気にしたら負けっすよ」
「姉は弟よりも強くないといけないのよ!」
「へー」

 ジャンヌから水を貰ってむしゃくしゃしながらがぶ飲みしているルーシー姉さんを他所に、クレアさんと並んでシルヴィー姉さんとノエルさんの試合を見る。

「クレアさんはどちらが勝つと思いますか?」
「……前に聞いた話だと、お姉さまはシルヴィーさまとルーシーさまに勝っているようですよ」
「へぇ、お姉ちゃんたちに」

 俺が戦った感じ、それは本当だろうな。ノエルさんの強さは俺と比較すれば台無しになるが、異端であることは間違いない。

「第四試合、始めッ!」

 お父上様の合図でシルヴィー姉さんは白銀の鎧を全身に身に纏い、ノエルさんは全身から炎を噴き出させている。

 さっきの俺とルーシー姉さんみたいな構図になりそうだと思ったが、そうはならずにシルヴィー姉さんがノエルさんに殴りかかりに行く。

 それにノエルさんが炎をシルヴィー姉さんに放出するが、シルヴィー姉さんはそれをものともせずにノエルさんの近くに来た。

 相性的にはシルヴィー姉さんの方が有利な気がするが、あの鎧は熱耐性を持っているのか?

 シルヴィー姉さんはノエルさんに殴りかかるが、ノエルさんは紙一重で避けて炎を放出するが、どうにもあの鎧は何か仕掛けがあるようだ。

「その鎧、水魔法が組み合わされているのね」
「元々纏創鎧剣はただ鎧と剣を作り出すものじゃなく、得意魔法と組み合わせることで攻撃力や防御力を飛躍的に上げるもの。私の得意魔法は水、相性はいい」
「なるほどねぇ、確かに炎は効きづらそうだね」

 ということはルーシー姉さんは炎魔法を創剣に組み合わせることができるのか。

「今日は、勝つ!」
「うーん、それじゃあその上からねじ伏せる炎を出しちゃお」

 いつにもなく声を上げるシルヴィー姉さんに、ノエルさんは先ほどの炎とは比べ物にならないくらいの火力の炎を全身から勢いよく出した。

「きゃっ!」

 熱風や炎がこちらにまで来てクレアさんが危なかったから魔法障壁で防いだ。

「大丈夫ですか?」
「は、はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 こちらよりも近くにいたお父上様とエリオットさんは難なく無事だが、すでに二人は一歩踏み出していた。

「それまでだ」
「これ以上の戦いは試合ではない」

 シルヴィー姉さんの前にお父上様、ノエルさんの前にエリオットさんが立ったことで試合は強制的に中断させられた。

「えぇ~、これからなのに~」
「まだやれる」
「ダメだ。この試合は引き分けで終わりだ」

 どうして中断させられるようなことをするのだろうかと俺は思ってしまった。普通に危ないだろうに。
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