復興しようよ没落公爵家!

山椒

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17:目覚め

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 真っ先に走り出したのはマチルダさんだった。

 それに続いてフロスト家の皆様が向かう。俺も一応ちゃんと顔合わせをした方がいいと思ってフロスト家の皆様に続く。

 男女で部屋を分けており今目覚めたのが女性だ。

 マチルダさんの後で女性獣人の部屋に入ればリオと呼ばれた狐の獣人がマチルダさんと話していた。

「おぉ、ジェイダン様か。久しぶりじゃのぅ」
「リオ、本当に久しぶりだね」

 どうやらリオと呼ばれた獣人はジェイダン様と面識があるようだが、ジェイダン様ならフロスト家にいる獣人すべてと面識がありそう。

「体の調子はどうだい?」
「すこぶる調子がよいのぉ。誰が治療をやってくれたのじゃ?」

 リオさんの質問に誰もが俺を見た。

「そなたか。妾たちを助けてくれたものじゃったな」
「はい。七聖者が一人、セオ・オースティンと申します」

 リオさんたちの体を治したのは単純に治癒魔法だ。アカシックレコードを操作してもいいが殺さない相手にそう簡単に痕跡を残すわけにはいかないからな。

 これがジェイダン様たちならアカシックレコードを書き換えるが見知らぬ誰かに使う気はない。

「セオ・オースティン……そうか、お主が魔王を打ち倒したものか」
「はい」

 フロスト領に長くいる人は俺を魔王を倒した者として知っているのかもしれない。あの虎の獣人は知らなかったからイリオス合衆国にはそれが伝わっていないようだ。

 伝わっていればそれはそれで魔王を倒した者のネームバリューで相手を圧倒することができるからな。

 いや魔王を知らないことがあり得そうだ。話を聞いている限りディナトス王国にしか興味がなさそうだし。

「本当に感謝するぞ。お主様がいなければ妾たちはずっとあやつに奴隷として使われていた。……今もあそこにいると考えれば、本当に身の毛がよだつのぉ……」
「お助けできて何よりです」

 まあ俺の行動のせいで一歩間違えれば全員殺されそうになっていたんだけどね。ただそれがあったから救出できたと言えるか。

「それよりも申し遅れたな、妾はリオ。見ての通り狐の獣人なのじゃ。……それで、あやつらはどうなった?」
「リオさんたちを捕らえていた獣人のことですか?」
「うむ」
「二度とこの土地に踏み入れないように痛い目を見せてからイリオス合衆国に返しました」

 本当は跡形もなく消したがジェイダン様たちにお伝えしたように答えた。

「ん? そうか。それならば安心じゃな」

 ……何やら怪しい感じがしたな。アストラル・アニムスを使って視ておくか。

 うお、マジか。リオさんは嘘を見抜くことができるのか! 見抜くというかアストラル・アニムスのような力を持っている。

 それを最初から知っていれば俺には通じないようにアカシックレコードを書き換えていたんだがな。最初からアカシックレコードを操作しようとしていれば分かっていたことという後悔。

「それより腹減ってないか? 起きたのなら体力回復のために飯食べないか?」
「そんなこと気にせんでよい。ここにはそんな余裕はないはずじゃ」
「ふふん、今はそうじゃないんだぞ? 何せここには万象の騎士がいるからな!」

 さっきまで俺を目の敵にしていたのに早々に俺をあげてくるマチルダさん。

「ご心配なく。今はあなた方客人の分まで十分に買ってきています。お腹が空いているのならどうぞお召し上がってください」
「……そのお金はフロスト家が出したのか?」
「追々いただくつもりなので出していただいたと言ってもいいでしょう」
「いやそれは違うと思います、セオ様。ちゃんとご自身で騎士以外の労働で得たお金で買ったと言うべきです」

 俺がフォローしたのにマヤ様によって封殺された。

「そうなのか……魔王を倒したのに難儀な家に来てしまったのじゃな」
「仕事なので。それよりもどんなものが食べたいですか? 軽めにしますか?」
「うーむ、そうじゃな……今までたらふく食べていなかったからたらふく食べたいのぉ」
「かしこまりました。ちょうどいい時間ですので昼食にいたしましょう」

 俺が厨房に向かおうとすれば当然のようにマヤ様がついてこられる。

「いつもありがとうございます、マヤ様」
「お礼を言われることではありませんよ。セオ様。本来なら騎士の仕事ではありませんのにここまでしていただいているのですから」
「騎士は仕える主人の生活をお守りするのが仕事ですからその範疇です」
「ふふっ、そうですか」

 まあ普通の騎士はこんなことをするはずはないがな。

 俺とマヤ様は厨房で料理している間に他の人たちはダイニングルームに向かっているようだった。

 いつも監視しているルナ様とマチルダさんがいないから少し気になった。

 それはともかく、マチルダさんの要望でそれなりに豪勢な料理を作っている。

「マチルダのためにこんなことをしなくてもいいですのに」
「約束は約束ですから」

 マヤ様はマチルダさんに厳しい。いやルナ様に悪影響を及ぼしているから厳しいのだろうな。

 豪勢な料理を作るためには下準備は必要だが、裏技を使うことにした。

 一般的な裏技は魔法だ。本来魔法は戦闘用というイメージが強いが使いどころはそれなりにある。

 例えば切断魔法。かなり硬い食材を切る時に使われたりと魔法を修めている者はそういうところで魔法を工夫して使う。

 俺の場合はそんな補助ではない。アカシックレコードを書き換えて下ごしらえができている状態に情報を書き換えればあら不思議、下ごしらえができた状態になる。

 この方法で俺は時短することがある。時間がある時はこんな方法使わない。使ったらいつもの時に頼ってしまいそうだからな。

「それはいったい……?」
「少しした裏技です。マチルダさんがお腹を空かせているので早くしないといけませんからね」

 隣にいたマヤ様には気づかれたから説明した。

「さすがセオ様ですね。私はまだ魔法を料理に使うということがあまりできなくて」

 魔法を料理に使えるというのはそれだけ熟練の魔法使いということだ。

 誰でもできる料理で使える魔法は火魔法だが、それでも魔法が得意な人ほど火力重視で使っている人が多いらしいからそこでも苦戦するらしい。

「マヤ様なら大丈夫ですよ。あれほどの魔法の熟練度ならばあとは自信をつけるだけです」
「そ、そうですか……?」
「はい。それとも自分の言葉では不足ですか?」
「い、いえ! そんなことはありません! ……それなら後で付き合っていただけませんか……?」
「はい、喜んで」

 マヤ様は案外自信がなさそうだからなー。

 ☆

 転移をすでにお見せしているから俺とマヤ様は料理を厨房に置いたままダイニングルームに向かう。

「全く、お前は何をしておるのじゃ!」
「うぅ……」

 ダイニングルームでは椅子に座ったリオさんとその椅子の前で正座しているマチルダさんがいた。

「マチルダには教育係を任せていたはずなのに、どうしてルナ様にこんな言葉遣いを教えておるのじゃ?」
「そ、それは……」
「それは?」
「……ちゃんと教えていなかったから」
「このバカタレめ!」
「ひぅ」

 これはもしかしなくてもマチルダさんはリオさんに頭が上がらないのか。

 ということはマチルダさんはマヤ様に続いてリオさんも弱点ということか。

「何をされているのですか?」

 ダイニングルームに入ってリオさんに声をかける。

「おぉ、お主様か。聞いておくれ、このバカタレがルナ様の教育を放り出していたと言っておるのじゃ」
「リオさんは前までここにいたのですか?」
「そうじゃ。ルナ様とレイラ様のお世話を任されておってな。ここから離される前にその役目をマチルダに任せておったのじゃ。それなのに……このバカタレは……!」

 そんな怒り心頭のリオさんを前にして、マチルダさんは俺にすがるような目を向けてきた。

 よほどリオさんに頭があがらないんだろうな。

「まあまあリオさん。ここは一先ず落ち着いてください」
「しかしじゃな……」
「リオさんのために作った料理がありますから」
「む、それは食べないと失礼じゃな」

 ほっとしているマチルダさんだが俺はそんなに甘くはない。

「ご飯を食べてからの方が元気が出ますから、お説教はそれからでいいと思いますよ」
「うむ、そうじゃな。ここはビッシリとマチルダにお世話のなん足るかを叩き込まなければならんのじゃ!」

 ほっとしていた顔はすぐさま絶望に変わるマチルダさん。そして俺をキッと睨み付けているのがおかしくて仕方がなかった。

「料理を運ぶのに人手がいるのかい? それなら私が向かおう」
「いえ、その必要はありません。仕える主にそんなことをさせません」

 俺が指を鳴らせばテーブルの上に大量の料理が並べられた。

「カッコつけすぎだろ」
「完璧ならカッコつけてもいいんだよ」

 マチルダさんにさっきのことがあってかそんなことを言われたが軽くかわす。

 そう言えばリオさんはどこに座るのだろうか。フロスト家の皆様が座りマチルダさんがルナ様の隣に座れば座っていないのは俺とリオさんだけになった。

「ほら、お主様も座らんか」
「どこに座るのですか?」
「妾はお主様の隣じゃよ」
「分かりました」

 俺はいつものようにマヤ様の隣に座れば俺の空いている隣にリオさんが座った。

 しかも心なしかリオさんと距離が近い気がする。

「むむ! お姉ちゃんもぐいぐい行かないと!」
「ちょっと、やめなさいレイラ……!」

 マヤ様の隣にいたレイラさまが俺の方にマヤ様を押して俺に近づけている。

「ふふ、随分と賑やかな食卓になったのじゃな」

 楽しそうにしているリオさんだが、正面にいるマチルダさんにはすごく睨まれているしルナ様も俺を睨み付けられているから落ち着いて食べれることはなさそうだと諦めることにした。
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