S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
297 / 369
第24章   A piece

しおりを挟む
 そして何かを描き上げると、俺に見せて来た。
 それは、思わず吹き出してしまうくらい下手くそな絵で、きっと絵を描くことなんて好きでもないし、寧ろ苦手なんだってことはすぐに分かった。


 でも俺が笑うから……


 男は何枚も何枚も……、畳が埋まるくらい、沢山の絵を描いては俺に見せた。


 楽しかった。


 こんなに笑ったのは何時ぶりかと思うくらい、沢山笑った。
 なのに、不意に抱き締められた瞬間、どうしてだか涙が溢れた。
 別に悲しいことなんて、何一つなかったのに、涙が次々溢れて止まらなかった。

 「智樹? 悪ぃ……、驚かせちまったな」

 俺の涙を見て、男の腕が俺から離れて行こうとする。


 違うのに、そうじゃないのに……


 「ごめんな。急にこんなの怖かったよな?」


 違う……、違う違うっ!


 俺は、一度は離れてしまった手を掴み、濡れた頬へと導いた。今の俺は、そうすることでしか、思いを伝える術を持ってないから。

 「智樹?」

 俺の頬に触れた男の指先が震えているのが分かった。

 「よ……で?」


 もっと呼んでくれよ、「智樹」って。
 その口で、その声で、俺の名前を呼んで欲しい……


 涙のせいだろうか、たった一言を声にするだけで、喉が引き攣れるように痛む。
 それでもどうにかして伝えたくて……

 「智……樹って、呼……で?」

 もどかしい想いだけを、外を白く染める雪のように積もらせ、俺は男の手をキュッと握った。

 「呼べって、言ってるのか? 俺に、お前の名前を?」
 「しょ……まに、呼んで……ほし……」


 翔真の口で、翔真の声で……


 「ここに来てから初めてだな、智樹が俺の名前呼んでくれたの、翔真って……」

 さっきまで震えていた筈の指先が、俺の頬を濡らす涙を拭う。


 どうしてだろう……
 この指が、この腕が、この声が、こんなにも懐かしく感じるのは……


 それは、初めてこの男に会った時から感じていたこと。
 もしかしたら、俺の記憶の片隅にある、あの光はこの男のことなんだろうか……?

 現に、この男に会ってからというもの、俺の中で光はどんどん大きく、輝きを増していっている。


 俺はこの男を知っている?


 固く閉ざした記憶の扉の向こうに、この男はいるんだろうか……
 もしそうなら俺は……

 過去へ通じる扉の鍵を永遠に開けることは出来ない……いや、しちゃいけないんだ。


 もし開けてしまったらその時こそ、俺は……


 だから今だけ……、この瞬間だけでいい、この胸に抱かれていたい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...