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第27章 All for you
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久しぶりに過ごす二人きりの時間……
俺は表情一つも変えず、一言も言葉を発することのない翔真に向かって、これまで自分の身に起きたことを、記憶に残っている限り、洗いざらい話して聞かせた。
ダルクで出会った、翔真と良く似た名を持つ柊真のことまで全部……
「俺の前で他の男の話しすんじゃねぇ」って、翔真が嫉妬丸出しの口調で俺を睨みつけるのを想像しながら……
「翔真、俺さ、やっぱ無理だよ」
自分自身のために踊るなんてこと、俺には出来ないよ。
だってそうだろ?
俺の心も……身体も、全部が翔真への想いで満ちているのに、その想いを仮にでも捨てて、空っぽのまま踊るなんて、俺には無理だ。
「だからさ、俺、今度のステージも、お前のために踊るよ」
翔真のために……
翔真への想いだけを乗せて……
「それでいいだろ? な、翔真……」
俺はもう一度翔真に口付けると、枕元に置いてあった腕時計を手に取った。
翔真が常に身に着け、愛用していた物だ。
「これ、借りてっていいよな?」
上本に刺された時の物だろうか、所々に血液の痕跡が色濃く残るベルトを手首に巻き付け、その使命を忘れてしまったかのように針を止めた盤面を耳に当てた。
「じゃ……、俺行くな?」
重い腰を上げ、ずっと繋いでいた手を静かに解いた。
また来る……、本当はそう言いたかった。
でも俺は、喉まで出かかったそのたった一言を飲み込んだ。
「俺に会いに来る暇あんなら、その時間をレッスンに当てろ」って、翔真ならきっと言うだろうから……
だから俺は、約束はしない。
いつか……
いつになるか分かんねぇけど、もしかしたら永遠にそんな日が来ないのかもしれないけど、もし翔真が目を覚ましたら、その時はどこにいても、何をしていても飛んで来るから……
それでいいんだよな、翔真。
「そん時まで、コイツは俺が預かっておくから」
サラッと風に靡く髪を撫で、穏やかな顔で眠り続ける翔真に、今出来る一番の笑顔を向け、俺は病室を後にした。
「もういいの? もう少しゆっくりしても……」
廊下で待っていた和人が駆け寄って来て、ふっくらとした手で俺の両手を包んだ。
「いいんだ」
翔真が生きている、それだけでいいんだ。
俺は表情一つも変えず、一言も言葉を発することのない翔真に向かって、これまで自分の身に起きたことを、記憶に残っている限り、洗いざらい話して聞かせた。
ダルクで出会った、翔真と良く似た名を持つ柊真のことまで全部……
「俺の前で他の男の話しすんじゃねぇ」って、翔真が嫉妬丸出しの口調で俺を睨みつけるのを想像しながら……
「翔真、俺さ、やっぱ無理だよ」
自分自身のために踊るなんてこと、俺には出来ないよ。
だってそうだろ?
俺の心も……身体も、全部が翔真への想いで満ちているのに、その想いを仮にでも捨てて、空っぽのまま踊るなんて、俺には無理だ。
「だからさ、俺、今度のステージも、お前のために踊るよ」
翔真のために……
翔真への想いだけを乗せて……
「それでいいだろ? な、翔真……」
俺はもう一度翔真に口付けると、枕元に置いてあった腕時計を手に取った。
翔真が常に身に着け、愛用していた物だ。
「これ、借りてっていいよな?」
上本に刺された時の物だろうか、所々に血液の痕跡が色濃く残るベルトを手首に巻き付け、その使命を忘れてしまったかのように針を止めた盤面を耳に当てた。
「じゃ……、俺行くな?」
重い腰を上げ、ずっと繋いでいた手を静かに解いた。
また来る……、本当はそう言いたかった。
でも俺は、喉まで出かかったそのたった一言を飲み込んだ。
「俺に会いに来る暇あんなら、その時間をレッスンに当てろ」って、翔真ならきっと言うだろうから……
だから俺は、約束はしない。
いつか……
いつになるか分かんねぇけど、もしかしたら永遠にそんな日が来ないのかもしれないけど、もし翔真が目を覚ましたら、その時はどこにいても、何をしていても飛んで来るから……
それでいいんだよな、翔真。
「そん時まで、コイツは俺が預かっておくから」
サラッと風に靡く髪を撫で、穏やかな顔で眠り続ける翔真に、今出来る一番の笑顔を向け、俺は病室を後にした。
「もういいの? もう少しゆっくりしても……」
廊下で待っていた和人が駆け寄って来て、ふっくらとした手で俺の両手を包んだ。
「いいんだ」
翔真が生きている、それだけでいいんだ。
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