愛玩人形

誠奈

文字の大きさ
9 / 227
第2章   初恋…

しおりを挟む
 「キャッ」と言う小さな悲鳴が聞こえて、ゆっくりと後ろを振り返ると、右頬を手で抑え、智子が倒れるように蹲っていた。指の隙間からは、母様の長く伸ばした爪が、智子の右頬を掠めたのだろうか、一筋の赤い液体が流れている。
 
 「智子! ああ、なんてことを……。大丈夫かい?」

 僕はポケットからハンハンケチを取り出すと、それを智子の頬に宛がった。白い木綿のハンケチは、瞬く間に赤く染まり、智子の白い頬は更にその色を失くして行った。

 「酷いよ、母様……。智子は何も悪くないのに、こんなこと……」

 僕は怒りにも似た感情で母様を睨めつけると、投げ出した学生鞄はそのままに、小さく震える智子を抱き上げた、が……

 「兄さま、智子は大丈夫だから……。智子が悪いの。だから……」

 下ろしてくれと言わんばかりに僕の胸を、智子は細い腕で押した。

 それでも僕は、智子を抱く腕に一層力を篭めると、そのまま智子の部屋へと向かって歩を進めた。

 その間も、僕の背中には、母様の射るような……冷たい視線を感じていた。


 やっぱり母様は智子のことを憎んでる。
 母様が智子を実の娘のように思っていると感じたのは、僕の思い違いだったんだ……


 僕は母様を振り返ることなく、智子の部屋のノブを捻ると、普段は入ることすら禁じられている智子の部屋へと、足を一歩踏み入れた。


 初めて目にする智子の部屋……


 そこには智子の甘い香りが満ちていて、僕は一瞬目眩のようなものを感じた。

 全体を薄水色の家具に囲まれたその一角、同じように薄水色のカーテンが風に揺れる窓辺に置かれた寝台に、僕より一回り小さな智子の身体を横たえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...