H･I･M･E ーactressー

第12章 ｓｃｅｎｅ３：診察室

８

　「どうする？　一旦休憩にすっか？」

　森岡監督さんが松下さんに言う。でも松下さんは首を横に振る。

　「次の仕事も入ってるし、このまま続けよう」

　そっか、松下さんくらい有名で人気の男優さんともなると、一日に何本も掛け持ちしたりするって聞いたことあるし、迷惑かけるわけにはいかないよね？


　… ってゆーか、僕が悪い訳じゃないけどね？
　悪いのは森岡監督さんだもん。


　「あの、ＨＩＭＥ……頑張るので、このままお願いします」

　流石にこの体勢でずっといるのは辛いし、何よりも前も後ろも早く解放して欲しい。

　「くくく、その言葉忘れないでくれよ？」
　「……はい」

　ＨＩＭＥに二言はない！

　「それに……、俺の可愛い従兄弟をガッカリさせるなよ？」
　「あっ……」

　夢中になっててすっかり忘れてたけど、スタジオの片隅には智樹のお友達の桜木くんが、固唾を飲んで撮影を見守っているんだった……


　桜木くん、僕のこんな姿を見てどう思ったんだろう？

　興奮……してる？
　それともガッカリは……、してないか……
　だって桜木くんのお股、遠目で見ても分かるくらい、しっかり膨らんでるもん。

　でもそれって、目の前にいるのがＨＩＭＥだから……だよね？
　もしＨＩＭＥの正体が僕……智樹だって知ってたら、きっとそうはなってないよね？

　はあ……、なんだか複雑……


　なんて考え事をしていると、数人のスタッフさんが僕のお股の間に集まって、何やらコソコソ話を始めていて……

　「あの……」

　僕が言うと、スタッフさんの一人が宙に浮いたお尻に手を伸ばした。そして紐状になったパンティ（しつこいようだけど、貞操帯ね）の後ろを引っ張った。

　「え、ちょ、ちょっと……？」
　「あ、すいません、鍵外すように言われて……」


　あ、なんだ…、そうなんだね？
　良かった、僕……、スタッフさん達に手篭めにされるのかと思っちゃったよ。

　ほら、たまーにあるからさ、台本にない……サプライズ的なことがさ。