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第6章  007

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「えっと、俺は……」

 黒瀬からの問いかけに、最初に口を開いたのは、それまでずっと沈黙していた岸本だった。

「気付いたら……って言うか、自分でも良く分かんないうちにここにいてdすね……」

 そう言って苦笑する岸本の反面、翔真と智樹は動揺を隠せず、明らかに落ち着きが無くなっている。

 もし岸本が、ここに連れて来られた要因に二人が関係していることを明かせば、疑いの目は間違いなく二人に向けられる。
 二人は徐々に大きく、強くなる鼓動が周りに聞こえるんではないかという不安からか、乾いた喉にゴクリと唾を飲み込んだ。

「では、時間までは分からない……と?」
「ええ、まあ……そういうことですね」

 岸本の曖昧な口ぶりに、黒瀬は小さく息を吐き出すと、

「そうですか。ありがとうございます」

 軽く頭を下げ、今度は本木に視線を向けた。

「では本木さん、あなたはどうですか?」
「順を追ってお話をした方がよろしいでしょうか?」

 本木は顔色を変えることなく、銀縁眼鏡の縁を指で持ち上げると、少しだけレンズの向こう側の眼光を鋭くさせた。

 それに気付いているのか、それとも気付いていないのか、

「可能な範囲で構いませんので、お話願えますか?」

 黒瀬は柔らかな微笑みを本木に向けた。
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