桜の葉が舞い散る季節、あなたの傍にいられたら

第１２章

３

　「あの、先日電話した相原ですけど……」

　インターホン越しに言うと、門の電子ロックが解除され、俺達は漸くその建物の中に入った。

　そこは思った以上に古い建物で、パンフレットで見た様子とは明らかに違っていて、俺は少しだけ不安を感じた。

　入口の受付を覗くと、対応に出て来たのは、愛想のない中年の女性だった。

　「どうぞこちらへ」

　そう言って通されたのは、相談室と書かれたプレートが貼られた、会議用の長テーブルとパイプ椅子がいくつか並んだだけの、何とも殺風景な一室だった。

　「どうぞ」と促されて、パイプ椅子に座る。でも翔真さんは、見慣れない光景に戸惑っているようで……
　
   「翔真さんも座ろ｣

　俺が言うと、漸くパイプ椅子に腰を下ろした。

　「私はソーシャルワーカーの喜多です」

　丁度俺の正面に座った女性が、名刺を差し出しながら言った。

　医療ソーシャルワーカー、患者やその家族の方々の抱える問題点を、社会福祉士の立場から解決に導いてくれる人だ、って聞いたことがある。

　「こちらへはどういった経緯で？」
　「あの、それはその……たまたま友人が持ってきてくれたパンフレットを見て、それで……」
　「そうですか。では、ここがどういった施設かは、ご存知ですよね？」

　喜多さんが、黒縁のメガネを指の先で、クイッと持ち上げた。