113 / 125
第13章
15
しおりを挟む
翔真さんの顔が見る見る苦痛に歪んで行くのを、涙で曇る視界の中で見ていた。
ごめんね……、ごめん……
何度も心の中で謝罪の言葉を繰り返しながら、それでも俺の手は緩まることはなかった。そして、指先に渾身の力を込めようとしたその時、暫く鳴る事のなかったスマホが、軽快なリズムを響かせながら震えた。
和人だった。
俺は翔真さんの首に巻き付けた手を解き、スマホを手に取ると、途端に激しく咳き込み始めた翔真さんを部屋に残し、キッチンに出て震える指で画面をタップした。
「……もしもし……」
声が自然と掠れる。
「あ、雅也? 暫くそっち行ってないけど、どうしてる? 翔真さんの様子は?」
いつもと変わらない和人の声に、それまで張り詰めていた感情が一気に解きほぐされ、自分に対する遣り場のない怒りが涙となって溢れ出す。
「和人……、俺さ、最低だよ……」
翔真さんを殺して自分も……なんて、そんな事を、一瞬でも考えた俺は最低だよ。
「何があったかは聞かないけどさ、ちょっと落ち着きましょ? きっと疲れてるだけだから、ね?」
電話越しでしゃくり上げるように泣く俺に、和人がまるで子供をあやす様に言う。
「なんならさ、今日は無理だけど、明日ならそっち行けるから、ゆっくり話聞くよ?」
次々……まるで蛇口の締め方を忘れてしまったかのように、涙が溢れて止まらなかった。
俺は一人じゃないと、そう思えた。
でも俺は「大丈夫だから」と、「心配するな」と、強がってみせた。
本音では、この汚物とゴミで溢れかえった現状を、和人に見られたくなかっただけなのに……
ごめんね……、ごめん……
何度も心の中で謝罪の言葉を繰り返しながら、それでも俺の手は緩まることはなかった。そして、指先に渾身の力を込めようとしたその時、暫く鳴る事のなかったスマホが、軽快なリズムを響かせながら震えた。
和人だった。
俺は翔真さんの首に巻き付けた手を解き、スマホを手に取ると、途端に激しく咳き込み始めた翔真さんを部屋に残し、キッチンに出て震える指で画面をタップした。
「……もしもし……」
声が自然と掠れる。
「あ、雅也? 暫くそっち行ってないけど、どうしてる? 翔真さんの様子は?」
いつもと変わらない和人の声に、それまで張り詰めていた感情が一気に解きほぐされ、自分に対する遣り場のない怒りが涙となって溢れ出す。
「和人……、俺さ、最低だよ……」
翔真さんを殺して自分も……なんて、そんな事を、一瞬でも考えた俺は最低だよ。
「何があったかは聞かないけどさ、ちょっと落ち着きましょ? きっと疲れてるだけだから、ね?」
電話越しでしゃくり上げるように泣く俺に、和人がまるで子供をあやす様に言う。
「なんならさ、今日は無理だけど、明日ならそっち行けるから、ゆっくり話聞くよ?」
次々……まるで蛇口の締め方を忘れてしまったかのように、涙が溢れて止まらなかった。
俺は一人じゃないと、そう思えた。
でも俺は「大丈夫だから」と、「心配するな」と、強がってみせた。
本音では、この汚物とゴミで溢れかえった現状を、和人に見られたくなかっただけなのに……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる