君の声が聞きたくて

誠奈

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第1章   misterioso

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 偶然降り立った駅。

 最寄りの一つ手前の駅で電車を降りたのに、特に理由なんてない。もしあるとすれば、それは酷く雨が降っていたから、それだけだ。

 その日俺は、長年付き合って来た彼女にプロポーズをした。給料の三倍……とまではいかなくとも、一目見てブランド物だと分かるような婚約指輪だって用意した。

 でも振られた。 高校時代からだから、もう八年の付き合いにもなるのに、だ。

 どうして振られたのか、その理由は知らない。ただ一つ分かるのは、結婚を前提に付き合っていると思っていたのは、俺だけだったってこと。彼女は俺との結婚なんて、最初から考えてなかったんだ。

 ショックだった。
 八年だ。当然彼女だって俺との結婚は考えてくれていると思っていた。

 だからかな、勇気を振り絞って差し出した指輪を手に取ることもなく、たった一言「ごめんなさい」と頭を下げられた瞬間、俺の視界が真っ暗になり、足元はグラグラと揺れた……ような気がした。


 その後……いや、その瞬間のことは、正直あまり覚えていない。

 気付いた時には、それまで見事なまでに晴れていた空から降り出した雨の粒が、瞬く間にアスファルトを濡らし始めていた。


 ああ、そうだ思い出した。


 突然降り出した雨から逃れるように、タイミング良く駅に停車していた電車に乗り込んだんだ。泣きたいのは空よりも、俺の方なのに……と、心の中で悪態をつきながら。

 そうして降り立った駅が、この駅だった。

 勿論、大型ショッピングモールが隣接していることもあって、タクシーが捕まりやすいのも理由の一つだ。普段利用している駅には、タクシー乗り場も無ければ、バス停すら無いのだから。


 念のためにとリュックに入れてあった折りたたみ傘を手に改札を出て、アーケード伝いにショッピングモールの入口に差し掛かった時だった。

 どこからともなく歌声が聞こえたような気がして、俺は折りたたみ傘を広げて声のした方に足を向けた。
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