50 / 337
第7章 adagio
5
しおりを挟む
それだけは出来ない……、そう繰り返す俺に、大田君は尚も強引に俺の腕を引き寄せようとする。口は忙しなく動いているけど、俺には大田君が何を言いたいのかさっぱり読み取れない。
もしかして俺は揶揄われているんだろうか……
若しくは、今まで女性にしか興味の持てなかった俺が、本当に男と恋愛する気があるのか、試されているんだろうか……
だとしたら、どちらにしたって最低だ。
俺は乱暴に大田君の手を振り払うと、彼が呆然とするのも気にすることなく、足早にその場を立ち去った。
そうだ……、大体が恋人がいる身で他の相手と、なんて……おかしいじゃないか。
揶揄われてるとも知らないで、俺も相当な馬鹿だな……
腹立ち紛れに大股で曲がり角まで行き、そこでふと足を止め、ポツリと額に落ちた雫に空を見上げた。
「雨……?」
ついさっきまであんなに星が瞬いていた空が、今は星一つ見えないくらいに、厚い雲で覆われている。
しまったな……、こんな時に限って折り畳み傘は通勤用の鞄に入ったままだ。
買うにしたって、一番近いコンビニは駅前にあったあの一軒だけだし、その間に雨足は強くなるだろうし……
だからと言って、あんな風に別れてしまった大田君に、傘を貸してくれなんて、そんな都合の良いことは言えないし……
それにもう彼は……
「参ったな……」
ポツリ呟いた俺は、そっとアパートの方を振り返った。
いないだろうと、いる筈ないだろうと、そう思っていた。
でも振り返った視線の先で、両手を首に巻き付け、苦悶の表情を浮かべる大田君が、雨に濡れるのも厭わず立っていて……
「どう……して?」
つか、何やってんだよっ!
俺は色を変え始めたアスファルトの上を、全速力で駆け始めた。
「ちょ……、何してんのっ!」
雨粒なのか、それとも涙なのか、頬を濡らす大田君を抱きとめ、首に巻き付いた手を強引に引き剥がし、途端に激しく咳き込み始めた大田君を抱き抱えて、何とか雨のかからない場所まで移動した。
もしかして俺は揶揄われているんだろうか……
若しくは、今まで女性にしか興味の持てなかった俺が、本当に男と恋愛する気があるのか、試されているんだろうか……
だとしたら、どちらにしたって最低だ。
俺は乱暴に大田君の手を振り払うと、彼が呆然とするのも気にすることなく、足早にその場を立ち去った。
そうだ……、大体が恋人がいる身で他の相手と、なんて……おかしいじゃないか。
揶揄われてるとも知らないで、俺も相当な馬鹿だな……
腹立ち紛れに大股で曲がり角まで行き、そこでふと足を止め、ポツリと額に落ちた雫に空を見上げた。
「雨……?」
ついさっきまであんなに星が瞬いていた空が、今は星一つ見えないくらいに、厚い雲で覆われている。
しまったな……、こんな時に限って折り畳み傘は通勤用の鞄に入ったままだ。
買うにしたって、一番近いコンビニは駅前にあったあの一軒だけだし、その間に雨足は強くなるだろうし……
だからと言って、あんな風に別れてしまった大田君に、傘を貸してくれなんて、そんな都合の良いことは言えないし……
それにもう彼は……
「参ったな……」
ポツリ呟いた俺は、そっとアパートの方を振り返った。
いないだろうと、いる筈ないだろうと、そう思っていた。
でも振り返った視線の先で、両手を首に巻き付け、苦悶の表情を浮かべる大田君が、雨に濡れるのも厭わず立っていて……
「どう……して?」
つか、何やってんだよっ!
俺は色を変え始めたアスファルトの上を、全速力で駆け始めた。
「ちょ……、何してんのっ!」
雨粒なのか、それとも涙なのか、頬を濡らす大田君を抱きとめ、首に巻き付いた手を強引に引き剥がし、途端に激しく咳き込み始めた大田君を抱き抱えて、何とか雨のかからない場所まで移動した。
0
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる