君の声が聞きたくて

誠奈

文字の大きさ
174 / 337
第17章  generalpause

しおりを挟む
 「何をしている……」

 勢い良く身体を起こし、彼女の手の中にあるスマホに手を伸ばす。彼女が身重の身体でさえなかったら、もしかしたら掴みかかっていたかもしれない。そんな勢いだった。

 「返せ……」

 そんなつもりはなくても、自然と声音に怒気の色が含まれる。

 でも彼女はそれを物ともせず、赤く塗った唇を不敵に歪ませ……

 「あら、見られたら困るようなことでもあるのかしら?」

 厭味ったらしい口調で言って、指を画面上に滑らせた。

 「べ、別に何も。兎に角返してくれ」
 「ふーん、じゃあ聞くけど、《ともき》って誰?」
 「えっ?」


 どうしてその名前を?


 当然だが、スマホには智樹のアドレスも番号も、それからメールのやり取りも残されている。

 ただ、全てロックがかけてあるから、パスワードを入力しない限りは開くことが出来ないようになっている。しかも、パスワードは智樹の誕生日を暗号化した物になっている。
 だから、いくら他人が俺のスマホに触れたとしても、智樹とのことが彼女に知られることはない筈……


 なのにどうして?


 「だ、誰だって良いだろ。君には関係のないことだ」
 「貴方は良くても私は良くないの。寝言で他人の名前を呼ばれて、気にならないわけないでしょ?」
 「寝言だって? 俺……が?」
 「そうよ? あんまり何度も同じ名前を呼ぶんですもの、気にならないわけないでしょ? それに……」

 まだ何か言いたげな顔で、スマホに指を滑らせる。

 俺は一向にスマホが手元に返って来る気配がないことに苛立ちを隠せず、彼女の細い手首を掴むと、その手から強引にスマホを奪い取った。

 「何よ、私はただ貴方が浮気でもしていないか確かめただけで、それがそんなに怒ること?」


 俺が浮気だって?

 ハッ……、笑わせるな…!
 俺がどんな想いで智との別れを選んだのかも、未だに寝言で智樹の名前を呼ぶ程に、智樹への未練を断ち切れずにいることも、何も知らないくせに……

 尤も、別れを決断したのは、彼女のためでも、ましてや自分のためでもない、彼女の腹に宿った小さな命のためだけど……
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

処理中です...