君の声が聞きたくて

第２４章 tempestoso

１６

　「どうかした？」

　並んでエレベーターに乗り込んた俺を、翔真さんが覗き込む。

　「ううん、何でもない」

　心配かけちゃいけないと思って首を横に振るけど、堪え切れずに溜息が零れてしまう。

　溜息の理由は分かってる、潤一さんと雅也さんのせい。でも実際はそれだけじゃない。
　翔真さんに会えたことが嬉しくて、マンションにまで着いて来てしまったけど、俺にはずっと気になってることがある。


　二人の企みのことはともかくとして、それだけは嫌でも確かめないと……


　エレベターが止まり、先に降りようとした翔真さんのコートの裾を咄嗟に掴んだ。

　「翔真さん……、恋人は？」
　「えっ？」

　聞いた瞬間、翔真さんの顔が一瞬強ばった。

　「もしいるなら俺……」

　これ以上は先に進むわけにはいかない。

　「どっち？」

　もう一度聞き返した俺を、翔真さんが真剣な表情で見つめる。

　「じゃあ、俺からも聞くけど、智樹は？　智樹にはいるの？　新しい恋人」
　「俺は……」
　「ねぇ、智樹？　智樹は、まだ俺のこと想ってくれてるから、ここまで着いて来たんじゃないの？」

　「違う？」と聞かれて、俺は咄嗟に首を横に振った。

　「好きだから……、他のことなんて考えらんないくらい、頭ん中翔真さんのことばっかりで、だから俺……」

　この三年、ずっとそうだった。
　何をしてても、俺の頭の中は……頭だけじゃない、心の中まで、全部翔翔真さんで埋め尽くされていた。

　「おいで？」

　翔真さんが俺の手を強引に引くから、俺は翔真さんの胸にボフッと音を立てて飛び込んだ。

　「馬鹿だね、智樹は。俺も智樹と同じだよ。 智樹のこと以外、何も考えられないから。それに、俺さっき言ったよね、まだ愛してる、って」
　「あっ……」
　「冗談だと思った？」
　「そ、そんなこと……」

　翔真さんの言葉を、冗談なんて疑ったこと、ただの一度だってない。

　「俺は、三年前と変わらず、智樹を愛してる。だから、余計な心配はしないで？」

　「ね？」と念を押されて、コクリと頷いた俺の額に、少しだけ冷たくなった唇が触れた。