285 / 337
第24章 tempestoso
17
しおりを挟む
「入って?」
翔真さんに背中を押され、俺は目の前で開かれた扉の奥へと足を踏み入れた。
「あっ……」
途端に鼻先を掠める覚えのる匂いに、懐かしさを感じる。
「散らかってるけど」
翔真さんはそう言うけど、俺は全然気にしない。だってどんな場所だろうと環境だろうと、翔真さんといられるなら幸せ……と、思ったけど、前言撤回!
「ねぇ、これはさ散らかってるのレベル超えてると思うけど?」
リビングに入るなり苦言を呈した俺に、翔真さんが苦笑いを浮かべる。
「いや……、だからこれは……その……、ごめん……」
さっきまでとは打って変わって情けない声を出す翔真さんが、愛おしくてたまらない。
「嘘。謝らないでよ。俺、気にしてないから」
別に部屋がどれだけ汚くたって、少々だらしなくたって、それも全部ひっくるめて翔真さんのことが好きだし、翔真さんといられるなら、それだけで俺は……
「あ、そう言えば、快気祝いって何?」
おっちゃんが言ってた。
親睦会ってのは表向きで、本当は快気祝いのための飲み会だって。
「病気だったの? どこが悪かったの? もう平気なの?」
矢継ぎ早に質問を投げかける俺に、翔真さんが酷く慌てた様子で首を振る。
「違うんだ、智樹」って。
「でも、竜二って人のおっちゃんが……」
「竜二? あ、ああ、上杉か。あいつ大袈裟なんだよな」
どういう……こと?
「とにかく座って?」
翔真さんが俺の手を引いてソファに座らせる。部屋には不釣り合いなくらい大きなソファは、以前翔真さんが住んでた部屋にあったのと同じ物だ。
「何か飲む? ……って言っても、酒かコーヒーくらいしかないんだけど」
「いらない。それよりちゃんと説明して?」
じゃないと俺……
「分かった。ちゃんと説明するから、とりあえず落ち着いて?」
俺の手をそっと握り、翔真さんがフッと息を吐き出した。
「実はね、先週……だったかな、俺熱出してさ」
「熱?」
「そう、熱」
聞き返した俺に、翔真さんがクスリと笑って頷いた。
翔真さんに背中を押され、俺は目の前で開かれた扉の奥へと足を踏み入れた。
「あっ……」
途端に鼻先を掠める覚えのる匂いに、懐かしさを感じる。
「散らかってるけど」
翔真さんはそう言うけど、俺は全然気にしない。だってどんな場所だろうと環境だろうと、翔真さんといられるなら幸せ……と、思ったけど、前言撤回!
「ねぇ、これはさ散らかってるのレベル超えてると思うけど?」
リビングに入るなり苦言を呈した俺に、翔真さんが苦笑いを浮かべる。
「いや……、だからこれは……その……、ごめん……」
さっきまでとは打って変わって情けない声を出す翔真さんが、愛おしくてたまらない。
「嘘。謝らないでよ。俺、気にしてないから」
別に部屋がどれだけ汚くたって、少々だらしなくたって、それも全部ひっくるめて翔真さんのことが好きだし、翔真さんといられるなら、それだけで俺は……
「あ、そう言えば、快気祝いって何?」
おっちゃんが言ってた。
親睦会ってのは表向きで、本当は快気祝いのための飲み会だって。
「病気だったの? どこが悪かったの? もう平気なの?」
矢継ぎ早に質問を投げかける俺に、翔真さんが酷く慌てた様子で首を振る。
「違うんだ、智樹」って。
「でも、竜二って人のおっちゃんが……」
「竜二? あ、ああ、上杉か。あいつ大袈裟なんだよな」
どういう……こと?
「とにかく座って?」
翔真さんが俺の手を引いてソファに座らせる。部屋には不釣り合いなくらい大きなソファは、以前翔真さんが住んでた部屋にあったのと同じ物だ。
「何か飲む? ……って言っても、酒かコーヒーくらいしかないんだけど」
「いらない。それよりちゃんと説明して?」
じゃないと俺……
「分かった。ちゃんと説明するから、とりあえず落ち着いて?」
俺の手をそっと握り、翔真さんがフッと息を吐き出した。
「実はね、先週……だったかな、俺熱出してさ」
「熱?」
「そう、熱」
聞き返した俺に、翔真さんがクスリと笑って頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる