秋。中学2年生

優雅

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秋。中学2年生。

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 秋は好きだ。一年を通して最も落ち着く季節だと思うし、昔の人々も和歌でそれを証明してきた。例えば百人一首とか。あんまりかるたをする機会は無かったけれども、それでもそこに編纂されている歌自体は好きだ。
 詳しく語るとその浅学が露呈してしまうので決して口は開かないが、例を挙げるとすれば春道列樹の一首などだろうか。

『山川に 風の懸たるしからみは なかれもあへぬ紅葉なりけり』

一見ザ・秋、という感じもするが、一句一句の意味をよく見てみると、その深みが分かる。まあどこらへんに深みがあるかと言われても説明できないんだけれど。なんとなく気に入った一首だし。

 さて、そんな感じでらしくもないことを考えてしまうこの季節。情緒豊かになるのは何も大人だけの特権ではなく、僕たち中学生にもそれは当てはまる。夏のイベントはとうに過ぎ去り、待つのは絶望を数値化する憎き試験達。

 携帯も碌に触らせてもらえない生徒が訪れるのは娯楽の宝庫、図書館。多くの生徒が現実逃避、もとい、情緒育むため本を借りに図書館に訪れる。



 つまり、なにが言いたいかというと。


「何しているの、坂井君、さっさと分類しなさい。」



———————絶賛本の整理中だということだ。



 目の前には返却された本が山積みで、やる気が削がれていく。
思わず溜息をついていると、先輩に小突かれた。


「あの、田村先輩。僕、本の片付けとかあんまりそういうの分かんない———」
「さっき懇切丁寧に教えてあげたわよね。」
「‥‥‥‥…はい。」

 そもそも話の前提がおかしい。こういう仕事は図書委員の仕事であって、美化清掃委員の僕が出る幕は無いはずなのだ。それなのに何故手伝いをさせられているのか。


「そりゃあ、坂井君がいつも図書館に入り浸っているからでしょ?」
「いや、それはまあ、そうですけど。」
「それに、ね。ほら、あそこに君の好きな」
「ストップストップ!!先輩、やめてくださいよ。」


 さっさと逃げることが出来たはずなのに、向こうにいる小山内先輩で釣られた自分が心底憎い。

 小山内京香先輩、通称京さんは、僕が密かに思いを寄せている人だ。部活をさぼって学校内を彷徨っていた時に、たまたま図書館で出会った。
 そのおっとり系美人の見た目とは裏腹に、その中身はかなり粗野。少し揶揄っただけですぐに拳が飛んでくるし、関節技を極めてくる。だけど、時々垣間見えるその乙女チックな表情がとても可愛い……。ちなみに、最近は関節技も悪くないなと思い始めている。理由は絶対に言えない。
 

 表情筋をだらしなく緩ませていると、小山内先輩と目が合った。
手を振ろうとしたところで脇腹をつねられる。


「いってぇ…何するんですか、田村先輩。」
「それはこっちのセリフよ。ぼさっとしてないで、とっとと片付けなさい。」


気付くと本が分類されていた。


「あ、ありがとうございます。先輩!!」
「……………はあ、次からはちゃんと分類するのよ?」


 なんやかんや言って、優しい先輩だなと思う。友人の話によると、頭脳明晰で、都内でも有名な某進学校への合格もほぼほぼ間違いないのだとか。思いやりもあり、その小さく可愛らしい見た目と相まって、一部の男子からの人気がすごいんだとか。


「そういえば、田村先輩って、苦手なこととかあるんですか?」


本棚に本を戻しつつ、ふと湧いてきた疑問を声にする。


「どうしたの、藪から棒に。」
「いや、少し気になって。」
「運動……かしら?」
「そうですか。」

それはなんというか、意外と予想通り……


「予想通り?」
「いえそんなことはないです。」
「ふーん」
「…………」


何を言えば良いか分からず、沈黙する。とりあえず目の前の本を片付けていく。

 誰だよ、六法全書なんて借りたヤツ。場所が分かんねえよ。


しばらく見知らぬ本達と格闘を繰り広げていると、先輩から別の話題を振られた。
「そういえば最近、私、料理始めたのよね。」
「あ、そうなんですね。」


なんともまあ、らしいことで。


「まあ料理っていってもお菓子なんだけど」
「ふんふん」
「美味しいとは思うのだけれど、自分で食べても、実際どれぐらいの出来かが分からないのよ。」
「へー。……………へんふぁい、いふぁいれす。」
「ちゃんと人の話を聞かないからよ。」

頬を引っ張られた。痛い。

  田村先輩がお菓子作りを趣味にしているというのは、京さんから聞いたことがある。彼女の話によれば、とても美味しいとのこと。
 僕としては、京さんの手料理の方が食べてみたい気もするけれど、それを本人に言ったら怒りの鉄拳が飛んできた。どうやら、意外にも女子力の低さを気にしていたらしい。


「それで、なんですか?」
「そう。貴方に実け、賞味してもらおうと思って。」
「…………今一瞬、実験って言い掛けませんでした?」
「気のせいよ。」
「…………なんで目を逸らすんです?」




閑話休題。




しばらく二人でとりとめのない会話をしながら作業をしていると、後ろから声をかけられた。
「たむらっち、何してるの?」
「京さん‼グフッ」
「お前には話してない。あと気安く下の名前で呼ぶんじゃねぇ。」
今日も華麗なボディーブロー。
「あら、京さん、ちょうど良いところに。」
「もしかして本の片付け?私も手伝おっか?」
「お願いしようかしら。」
「あ、京さんも一緒にやってくれるんですか?それは心強いですね!」
「だから坂井、お前うるせぇ。」




 それからは京さんと、図書館司書の先生の手伝いもあって、片付けは順調に進み、下校時間内には帰れることになった。
残念ながら、僕は二人とは家が反対方向なので、一人寂しく帰宅路へ。








 一人で帰ると、色々と考え事をする機会が増える気がする。だから、僕はこの時間が好きだ。たまに友達と一緒に帰ることもあるけれど、でもやっぱり、一人が落ち着く。


しかし、一面に広がる綺麗な秋空を見ながら、ふと思う。『もし、このままずっとこのままだったら』と。
 京さんにしばかれ、田村先輩にこき使われ、友人と馬鹿やって。授業中に遊んで先生に叱られて……。悪くない日常だと思う。もちろんこれが永遠に続かないというのは分かっているし、続いたらそれはそれで面白くない。けれども………………





あ。


ふと、僕は思った。

明日までに提出の宿題、まだ一文字もやってない。

僕の頭がその事実を認識した瞬間、寒気がした。いや、まだ大丈夫だ。
そして、今までのしんみりとした感情をかなぐり捨て、両手でリュックをしっかり押さえながら、僕は家に向かって駆けていくのだった。  

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