メイメイ

伏織

文字の大きさ
3 / 12

3

しおりを挟む



「あっ」

 大きく手を広げて、思いっきり砂の中に突っ込んだ右手の指先が、何か柔らかいものに当たった。思わず動きが止まる。砂の中に更に手を入れ、その柔らかい物を探っていく。

 僕の手よりも大きくて、フワフワとした膨らみ。押し込むと、僕の手はその中にズブズブと沈み込んでしまうという気がしたが、実際そうはならずに優しい弾力で押し返された。

 謎に満ちていて蠱惑的こわくてきな柔らかさに、己が今までやろうとしていた事も忘れ、砂の中の女性が何も言ってこないのをいいことに、しばし夢中になって触っていた。


 薄いサマーニットの生地越しに、彼女の体温を感じる。丸みを帯びたボールの様な膨らみを撫でたり、揉んだりしていると、やがてその中央というか、頂点の部分というか、何か柔らかさとは違う、少し硬い小石の様な物がある事に気付いた。

 その頃にはもう、その膨らみが何なのか解り始めていた僕の心臓の鼓動は、鼓膜を突き破らんばかりに高鳴っていた。


 恐る恐る、指先でその突起を軽く押してみると、砂の中から吐息とも悲鳴とも違う、よく分からない声がした。一体どういう時に、人はこのような声を上げるのか。当時の僕には思い当たらなかった。


「ご、ごめんなさい」


   痛かったのだと思った僕は、砂の中から素早く手を引っ込めて謝った。

「いいのよ」煽る様な声で女性が応える。好奇心に支配されていた脳内の波が引いていき、僕は我に返った。大きく深呼吸をして、再び砂の中から女性を発掘する作業に戻った。

 僕が初めに探り当てたのは女性の右手で、そこから続けて彼女の肩と、上半身の右側までを掘り出した。僕が大分掘ったにも関わらず、あまり深くには埋まっていない様に思えた。
 そして何故か、彼女の右の脇腹から下の部分と、身体の中心から先は砂が硬くなっていて、それ以上掘ることが出来なかった。


「これ以上は硬くて掘れないよ」

「もう充分よ。身体はもう充分。今度は頭の周りの砂を退かして頂戴ちょうだい


 言われるがままに、僕は女性の右肩の上の砂を掘り始めた。彼女はゆっくりと右腕を上げると、細い指で僕の後頭部を撫でた。髪を愛おしげに撫でる感触に、耳まで熱くなる程たかぶった。


 僕のうなじや耳朶じだを時折指先でくすぐる手付きは、およそ子供を可愛がって頭を撫でるそれとは、全く違うものの様に感ぜられた。

 始めて味わうむずがゆい、苛立ちにも似た何かに、全身を支配されそうになるのを何とか押し返しながら、僕は砂の中から女性の頭を掘り出した。


「こんにちは」

「........うん」


 ようやく砂の中から姿を現した女性は、生まれて数年程度の僕でも、自信を持って断言出来るほど美しい顔をしていた。


 切れ長で、猫の様なつり目は長く太い睫毛に囲まれ、その中で黒い瞳が濡れた光を放っている。つり目に対して、眉毛はハの字に眉尻が下がっている。左目の下に泣き黒子ぼくろがあるのが、より一層美しさを際立たせている様に見える。鼻筋はそこまではっきりと通ってはいないが、小さくて可愛らしい鼻までスッと下りている。

 薄くもないが厚すぎもしない、柔らかそうな唇が少し開いて、そこから前歯がチラリと覗く。


「やっと顔が見れた」

「うん」

「お名前は?何て言うの?」


 両端がわずかにキュッと上がっている唇が、艶っぽく動いている。そこから、ようとして知り得ない何かを含んだ、優しい声が出てくる。誰に教えられた事もないのに、僕はその唇に己の唇を重ねたくなった。


「……__良介」

「じゃあ、リョウちゃんって呼んでもいい?」

「いいよ」


 僕が返事をすると、彼女は花が咲いた様な微笑みを浮かべた。息が止まりそうな程、僕は強い衝撃を受けた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...