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しおりを挟む「あっ」
大きく手を広げて、思いっきり砂の中に突っ込んだ右手の指先が、何か柔らかいものに当たった。思わず動きが止まる。砂の中に更に手を入れ、その柔らかい物を探っていく。
僕の手よりも大きくて、フワフワとした膨らみ。押し込むと、僕の手はその中にズブズブと沈み込んでしまうという気がしたが、実際そうはならずに優しい弾力で押し返された。
謎に満ちていて蠱惑的な柔らかさに、己が今までやろうとしていた事も忘れ、砂の中の女性が何も言ってこないのをいいことに、しばし夢中になって触っていた。
薄いサマーニットの生地越しに、彼女の体温を感じる。丸みを帯びたボールの様な膨らみを撫でたり、揉んだりしていると、やがてその中央というか、頂点の部分というか、何か柔らかさとは違う、少し硬い小石の様な物がある事に気付いた。
その頃にはもう、その膨らみが何なのか解り始めていた僕の心臓の鼓動は、鼓膜を突き破らんばかりに高鳴っていた。
恐る恐る、指先でその突起を軽く押してみると、砂の中から吐息とも悲鳴とも違う、よく分からない声がした。一体どういう時に、人はこのような声を上げるのか。当時の僕には思い当たらなかった。
「ご、ごめんなさい」
痛かったのだと思った僕は、砂の中から素早く手を引っ込めて謝った。
「いいのよ」煽る様な声で女性が応える。好奇心に支配されていた脳内の波が引いていき、僕は我に返った。大きく深呼吸をして、再び砂の中から女性を発掘する作業に戻った。
僕が初めに探り当てたのは女性の右手で、そこから続けて彼女の肩と、上半身の右側までを掘り出した。僕が大分掘ったにも関わらず、あまり深くには埋まっていない様に思えた。
そして何故か、彼女の右の脇腹から下の部分と、身体の中心から先は砂が硬くなっていて、それ以上掘ることが出来なかった。
「これ以上は硬くて掘れないよ」
「もう充分よ。身体はもう充分。今度は頭の周りの砂を退かして頂戴」
言われるがままに、僕は女性の右肩の上の砂を掘り始めた。彼女はゆっくりと右腕を上げると、細い指で僕の後頭部を撫でた。髪を愛おしげに撫でる感触に、耳まで熱くなる程昂った。
僕のうなじや耳朶を時折指先で擽る手付きは、凡そ子供を可愛がって頭を撫でるそれとは、全く違うものの様に感ぜられた。
始めて味わうむず痒い、苛立ちにも似た何かに、全身を支配されそうになるのを何とか押し返しながら、僕は砂の中から女性の頭を掘り出した。
「こんにちは」
「........うん」
ようやく砂の中から姿を現した女性は、生まれて数年程度の僕でも、自信を持って断言出来るほど美しい顔をしていた。
切れ長で、猫の様なつり目は長く太い睫毛に囲まれ、その中で黒い瞳が濡れた光を放っている。つり目に対して、眉毛はハの字に眉尻が下がっている。左目の下に泣き黒子があるのが、より一層美しさを際立たせている様に見える。鼻筋はそこまではっきりと通ってはいないが、小さくて可愛らしい鼻までスッと下りている。
薄くもないが厚すぎもしない、柔らかそうな唇が少し開いて、そこから前歯がチラリと覗く。
「やっと顔が見れた」
「うん」
「お名前は?何て言うの?」
両端が僅かにキュッと上がっている唇が、艶っぽく動いている。そこから、杳として知り得ない何かを含んだ、優しい声が出てくる。誰に教えられた事もないのに、僕はその唇に己の唇を重ねたくなった。
「……__良介」
「じゃあ、リョウちゃんって呼んでもいい?」
「いいよ」
僕が返事をすると、彼女は花が咲いた様な微笑みを浮かべた。息が止まりそうな程、僕は強い衝撃を受けた。
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