【完結】執着系御曹司との甘く切ない政略結婚 ー愛した人は姉の婚約者でしたー

姉の婚約

６

「ここ数年、うちの売上はかなり減少しているわ。いつ赤字に転じてもおかしくないの。このままいけば、どうなるか……」

「うちの経営状況って、そんなにまずかったの？」

　問いかける姉の横顔をチラリと見る。

　姉は大学に進学しているし、私に至っては費用がかかると言われる音大を希望している。両親はそれを許してくれたが、もしかして金銭的にかなり無理をさせることになるのだろうか。

「正直に言えば、今はギリギリなんとかやっていけているってところかしら。人気のフルーツ大福なんかもあるけど、定番商品の売り上げも最近では……。ああ、あなたたちの学費は心配しなくてもいいの。けれど、ねぇ」

　普段ははっきりとものを言う母が、珍しく言いよどむ。そんな様子から、この先はどうなるかわからないと不安視しているのが伝わってきた。
　
「好調とはいえ、そろそろ飽きがきているのが数字に表れているわ。とはいえ、それに代わるものなんて簡単に作りだせるわけもないし」

　世の中に類似品はたくさん存在するし、うち以上に魅力的な商品もある。たくさんの情報があふれる昨今、長く愛される商品というよりは次々と打ち出される目新しいものに興味を持つ人が多いのだろう。人気を維持するのは、以前に比べて相当難しいに違いない。

　母の説明によれば、新商品もそれなりに注目が集まるのだという。けれどあくまでそれは一時にすぎず、長くは続かない。

　言われてみれば、フルーツ大福以降に販売したものからは、定番商品が生まれていないと思い至った。

　以前ならば波川屋というブランドだけで重宝されていたが、トレンドが目まぐるしく変わる今、それだけでは通用しなくなりつつあるのだと母が言う。

「小野寺が、本格的な茶房の出店を企画しているの。ターゲットにしているのは年齢の高めの客層で、そこで波川屋の商品を取り入れたら話題になるだろうと提案があったのよ。それが実現すれば、うちも現状を打破する一手になり得るはず。そのつながりを強化するために、あちらか縁談を持ち掛けられたの」

　祖父同士がお互いの子どもを結婚させたいと言っていたのは、私も聞いたことがある話だった。けれど、父の代は両家とも男児しか生まれなかった。

　あちらのおじい様は、それなら孫の代に期待していると冗談交じりに話していたらしい。
　しかしそれも、うちの祖父が他界してしまい自然消滅していたと、父が言葉少なに語った。

　それがここにきて、波川屋の窮状を知った小野寺のおじい様が、茶房の案を打ち出して提携を持ちかけたのだという。併せて、孫同士の結婚も。