冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!

森丘どんぐり

文字の大きさ
48 / 96
第1章 英雄の娘、冒険に出る

047 未完成の魔法

しおりを挟む
 リーベは氷魔法『アイス』を応用して双円錐の氷塊を生成する。

 昨日習ったメガ・ファイアは魔弾に宿る熱を内に籠め、効率化する繊細さが求められたが、それに比べればこちらはとても単純だった。料理でたとえるなら、ぶつ切りと皮むきくらいに難易度の開きがある。
 だが、簡単だからと侮ってもいられない。

 師匠であるフェアの指示に耳を傾け、目的の形を目指す。

「そうです。この形と大きさをよく覚えておいてください」
「はい! ……あの、撃ち込んでみてもいいですか?」
「どうぞ」
「よーし……」

 リーベはキッと的を見据え、その中央に狙い澄まし、叫ぶ。

「アイスフィスト!」 

 ヒュッと空気を裂いて飛翔した氷塊は的を外し、背後の壁面で儚く砕け散った。

「ああ……」

 落胆しているとフェアが淡然と言う。

「アイスフィストは魔弾の生成は簡単ですが、当てるのが非常に難しいんです。ひとまずは中央に限らず、的の何処かに当てることを目標にしましょう」
「は、はい!」 

 彼の言葉に励まされたリーベは、とにかく数をこなすことを念頭に置いた。

 それから撃ち続けること十数回。ようやく的に命中させられた。

「はあ……はあ…………こ、こんなに当たらないものなんですね」

 額に浮いた汗を拭いつつ、問いを重ねる。

「アイスフィストって、精度が良いんじゃないんですか?」
「言葉が足りませんでしたね。アレはあくまで、比較の話です。両者を突き詰めていった場合、メガ・ファイアは魔弾の放つ熱などが作用して大きく精度が落ちます。対してアイスフィストはよほどの距離を空けないかぎり、環境に左右されることはありません」
「ええと……?」
「要するに、術者の力が及ばない部分で精度が落ちるかどうか、と言うことです」
「なるほど……じゃあわたしの魔法が当たらないのは――」
「経験が足りていないということですね」

 ずばり言われてリーベ肩を落としていると、フェアは小さく笑った。

「ふふ。ですが、気を落とすことはありません。この魔法は石を投げるようなものですので、慣れてしまえば存外容易く当てられますよ」
「だと良いんですけど……」

 そう答えながら水筒を傾けていると、彼は仕切り直すように手を打ち鳴らした。

「さ、休憩はこのくらいにして、訓練を再開しましょう」

 理屈はどうあれ、彼女のやるべきことは変わらない。今はそれに専念するだけである。






「アイスフィスト……!」

 高速で宙を駆ける氷塊は的の縁に当たって砕け散った。

 あれから日が暮れるまで何十回も撃ったが、命中率は3割と言ったところだ。初日で3割なら十分な気もしたが、アイスフィストは正確性が求められる魔法なのだ。動かない的が相手なら10割――しかもど真ん中に命中させられないと話にならない。

 スタッフを構え直そうとしたその時、リーベは例の倦怠感を覚える……魔力切れだ。

「ふう……ふう…………すみません。もう限界です」

 呟くように訴えるとリーベはへたり込んだ。脚の力が抜けて崩れ落ちたのだ。この違いは監督してくれていたフェアにも伝わっており、例の劇薬を手渡してくる。

「これを飲めば多少楽になるでしょう」

 その言葉とは裏腹に、彼女はさらなるダメージを負う羽目になった。

「うげえ……」

 苦みに嘔吐いているとヴァールたち剣士組がやって来る。

「魔力切れか?」
「ええ。少し早いですが、今日は切り上げた方が良いでしょう」
「そうだな。んじゃ、10分休憩したらテルドルに帰るぞ」
「は~い……」

 それから彼女らは車座になって、各々休息を取っていた。その間、ヴァールは弟子の剣術について講評していた。

 リーベから見て、フロイデは模範的な剣士だ。それは基本に忠実であるという意味ではなく、ケチの付けようがないという意味でだ。

 しかし師匠の目からだと違って見えることをリーベは知った。それは時に厳しい言葉を交えつつ、長々と語り聞かせている様子から見て取れる。

(フェアさんはわたしのこと、どう思ってるのかな?)

 彼は弟子を励ますことはあれど、厳しく叱責することはない。そういう方針というべきか、性格というべきか……何れにせよ、リーベは真相を知りたかった。

「…………」

 どう切り出したものか、様子を伺いつつ考えていると、彼と目が合った。

「おや、どうかしましたか?」
「ああ、いや……その…………」

 答え倦ねていると、さといい彼は弟子の心配を酌み、穏やかな笑みを湛えて、声なき問い掛けに答える。

「リーベさんは立派ですよ。たった3日でここまで進めたのですから、自信を持ってください」
「……でも……」
「私は言葉が足りないことはあるでしょうが、嘘は言いません。なので全て、言葉通りに受け取ってください」
「フェアさん……」

 彼の微笑を見ていると澱のように積もっていた不安が解消されていく。自然、心も軽くなり、不安に感じていたのが馬鹿らしく思えてきた。

 ちょうどその時、ヴァールが立ち上がる。

「うっし、帰るぞ」

 その言葉を受け、リーベは脚に力を込める。
 あの劇薬の効果か、不調は取り払われており、難なく立ち上がることが出来た。











  帰る道すがら、ヴァールは相棒に問う。

「リーベの具合はどうだ?」
「ええ、至って順調ですよ。アイスフィストは命中に不安がありますが、メガ・ファイアの方は完璧です」
「そんな! 完璧だなんて、言い過ぎですよ!」

 リーベが照れくさくなって口を挟むとヴァールは声をあげて笑った。

「フェアがそこまで言うんなら、よほど好調なんだろうよ!」
「もーっ! 揶揄わないでよ!」

 彼は一頻ひとしきり笑うと、急に神妙になって言う。

「そんだけ魔法が使えるなら、連れて行っても問題ないな」
「え?」

 リーベは唖然として歩みを止めてしまった。

 固定された視界の中で、フロイデが小さな口を、小さく動かす。

「冒険に出る、の?」
「そうだ――」
「で、でも! まだアイスフィストの方は全然ダメなんだよ!」
「わかってる。だが、最低限自衛できる魔法があるんなら今はそれでいい」
「…………」

 釈然としないでいると、フェアが言い添える。

「不安に思う気持ちはわかります。可能であれば、あなたが納得できるだけの訓練をしてあげたいのですが、そうもいかないのです」
「どういうことですか?」
「ぼくたち、王都から派遣されてきた」

 フロイデの言葉に、リーベはヴァールの手紙を思い出した。

 第三級以上の魔物が数を増やしていると書いてあった(リーベにはその等級がなんなのかわからないが)。

「……そっか。みんな、仕事でここに来たんだよね」
「そう言うこった。お前を育てる前に、まずは使命を果たさないとなんねえ。じゃねえとギルドに怒られるし、余計な被害を招くかもしんねえからな」
「ごめんなさい。わたし、自分のことばっかりで……」
「自分を鍛えるのがお前の仕事だ。気にすんな」
「……うん」

 不甲斐なさに押し黙っていると、ヴァールが決定を告げる。

「とにかくだ。明日は訓練を中止して、依頼選びと準備にあてる。いいな?」

 メンバー全員から承知の声が上がると、彼はリーベに言う。

「リーベ。お前はリュックとかは持ってるのか?」
「うん。お父さんのお下がりを貰ったの。あ、あと中身も食べ物以外は一通り用意してあるよ」
「さすが師匠。用意がいいな」
「この分だと、明日は余裕を持って過ごせそうですね」

 フェアの言葉にフロイデが項垂れる。

「? 何かあったんですか?」
「むう……」

 フロイデは押し黙って口を開こうとしなかった。

 心配になる中、ヴァールがケタケタと笑う。

「はは! こいつは最初、せっかく確認してやったのに『心配だから~』ってリュックをひっくり返して、あげく忘れ物をしやがったんだ!」
「ヴァール……!」

 フロイデが顔を真っ赤にして黙らせに掛かるも、リーベは既に聞いてしまった。

 冷静に見えて存外おっちょこちょいなその一面に、彼女は思わず噴き出してしまうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...