冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!

森丘どんぐり

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第2章 旅立ちの時

084 食事会

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 心地よい疲労感に包まれながら坂を上っていると、ヴァールが上機嫌に言う。

「さすがにもうこの坂くらいじゃへこたれねえか」

 その言葉に対し、リーベは高い位置にある顔を見上げながら胸を張って答える。

「ふふんだ! もう2回も冒険に出てるんだから、このくらいなんともないよ!」
「そうかそうか! なら明日からは錘を持たせっかな」
「え、おもり?」

 一瞬、耳を疑ったが、ヴァールは平然と続けた。

「そうだ。往復するついでに足腰を鍛えられるんだから儲けもんだろ?」
「……ちなみに何キロ?」
「最低でも5キロだ」
「そんな! 無茶だよ!」
「無茶で結構!」

 そう言い切るとヴァールは実感を込もった言い方で続ける。

「何事もちょっと過酷なくらいがちょうど良いんだよ。慣れは怠惰の始まりだからな」
「確かにそうかもしれないけど……」
「フェアだってリュックに20キロの錘を入れてんだぜ?」
「え、そうなんですか?」

 振り向くと、彼は穏やかな顔で頷いた。

「魔法使いといえど、やはり体が資本ですからね。むしろ我々こそが体を鍛えるべきなのかもしれませんよ」
「? どういうことですか?」

 私の問いに対し、彼は問い返してきた。

「リーベさん。魔法使いの役割とは」
「あ、ええと、剣士を支えることです」
「そうです。なれば、私たち魔法使いが剣士よりも先に力尽きることがあってはならないのです」
「なるほど……体力がなくなっちゃったら、護れるものも護れませんからね」
「そういうことです。まあ、リーベさんは初めてですし、錘については三キロくらいから初めるとよろしいでしょう」
「わかりました」

 了解し、話が終わると視界が広がった。それによって、彼女の前で先輩が深くうなだれ、幽鬼のような怪しい足取りで歩いていることに気が付いた。

「フロイデさん。さっきから静かですけど、具合でも悪いんですか?」

 すると彼は3日砂漠を彷徨さまよった人が水を求めるような声で言う。

「おなか、すいた」
「なるほど……」

 フロイデさんらしいと思っているとヴァールが言う。

「コイツも少しずつ運動量を増やしてるからな。あんなみみっちいもんじゃ足りねえんだろうよ」
「確かに……干し肉とかじゃあまりお腹は膨れないよね」

 と、その時、リーベは大事なことを思い出した。

「あ、そうだ。おじさんたちは今晩用事あったりする?」
やぶから棒だな。まあ、ねえけど」
「ならよかった。あのね、今日はお店が定休日だからみんなを晩御飯に招待してきてって、お母さんが――」
「ほんと……!」

 フロイデは息を吹き返したように溌剌はつらつとした瞳を彼女へ向ける。リーベはその圧に押されつつも頷く。

「は、はい。フロイデさんたちが良ければ、ですけど」

 すると彼はリーダーであるヴァールの方に振り向いた。

「行くよね……!」

 無邪気に問いかけられると、ヴァールは意地悪く口角を吊り上げ、「行かねえよ」と言った。

「なんで?」

 そう問いかける声にはおねだりが通じなかった少年のような悲愴を浮かべていた。これにはさすがの彼も耐えかねたようで「冗談だよ」と早々に撤回した。

「じゃあ行くの?」
「ああ――フェアもそれでいいだろ」 
「ええ、もちろん」
「つーことだ、シェーンにもそう伝えといてくれ」
「うん」
 そうこうする間にテルドルに帰り着いた。

 例によって一行は東門前の十字路で別れ、それぞれの拠点に帰っていった。






 食卓には川魚を使ったテルドル風クラムチャウダーを筆頭に、エーアステ家自慢の料理が並んでいる。それらから立ち上る芳香は6人には広すぎるホールを満たし、孤独を感じる余地を幸福で塗りつぶしていくかのようだった。

「この度はお招きいただきありがとうございます」

 客人の1人であるフェアが丁重に礼を述べると、食事会の主催者であるシェーンもまた、丁重な物言いで応じる。

「こちらこそ、急にお呼びしちゃって。ご迷惑でなければ良いんですけれども」
「とんでもない。こちらとしてもたいへん嬉しいお話でしたよ」

 そう言うと彼は両隣に佇む連れを見やった。視線の先ではヴァールとフロイデがジーっと、食卓に並ぶ料理を見つめてたい。

「相変わらず食い意地張ってんな、お前ら」

 エルガーは愉快に笑うと、シェーンもまた微笑んだ。

「ふふ! さあ、お料理が冷めないうちにどうぞ」

 こうしてみんなで食卓を囲み「いただきます」というと、ヴァールとフロイデは『よし』と言われた犬のようにに勢いよく料理に食らいついた。

「相変わらずすごい食べっぷり……喉詰まらせたりしないでよね?」

 心配して言うと、ヴァールが咀嚼しながらコクコクと頷いた。

「まったく……品がなくてすみませんね」

 フェアが詫びると両親は笑った。

「ヴァールさんたちはこうじゃないと」
「ああ。むしろ行儀よく食ってたら病気を疑うからな」

 シェーンくすりと笑うとフロイデに問い掛ける。

「フロイデくんのお口にはあったかしら?」

 すると一心不乱にクラムチャウダーを頬張っていたフロイデは顔を上げ、シェーンを見た。目が合うと彼は恥ずかしがり、空いた手でスカーフを握り、視線を彷徨わせる。

「う、うん……おいしい」

 顔を赤くして答えると、シェーンは満足そうに微笑んだ。

「良かった。リーベから牛乳と魚が好きだって聞いてたからクラムチャウダーを作ったの。まだまだたくさんあるから、遠慮しないでどんどん食べてね?」

 その言葉を聞くとフロイデは無邪気に目を輝かせた。

「うん、ありがと……!」

 その言葉を受けたシェーンの表情は慈しみに満ちたもので、リーベは「もしかしたら男の子も欲しかったんじゃないかな」と思った。

 どんな思いを抱くのかは当人の自由だが、リーベは娘としてはちょっぴり複雑だった。

「リーベも美味いか?」

 ポテトサラダを食べていると、エルガーが埋め合わせるように問うてくる。だがその表情を見るに、この問い掛けには娘の機嫌を取ろうという打算はなく、純粋に批評を求めているのがわかる。

「美味しいよ?」

 素直に答えると、彼は満面の笑みを湛えた。

「そうかそうか! そりゃ、良かった」

 その反応を不思議に思いつつ、ポテトサラダを見つめていると、いつもより具材が大きめであるのに気付く。

(それになんだか、味付けが濃い気が……)

「あ! これもしかして、お父さんが作ったの」
「あーやっぱわかっちまうか。はは、シェーンみたいに上手くは出来ねえんだよな」 

 白々しく言いつつも、見破ってもらえてうれしそうだ。

「師匠が料理……しかもサラダって。柄じゃねえにも程があるだろ?」

 ヴァールの歯に衣着せぬ物言いに対し、エルガーは鷹揚に笑って見せた。

「はは! 俺はもう食堂のオヤジだからな。サラダくらい作れねえと笑われちまう」

 得意げにそう言っていると、隣でシェーンが笑った。

「ふふ、ジャガイモ茹でてる時なんて『そろそろいいか』って30秒刻みで聞いてきてたいへんだったのよ?」
「しぇ、シェーン!」

 エルガーが妻に口止めしようとするも、時すでに遅し。
 食堂はすでに娘らの笑い声で満たされていたのだ。






 愉快な空気の中、食事を終えた一同は多少の歓談を経てお別れすることになった。

「今晩はお招きいただき、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそお疲れのところ来てくださって――」

 フェアとシェーンが挨拶を交わす傍ら、ヴァールは練習場からの帰りに言っていた錘をリーベに手渡してきた。

「きっかり3キロだ。明日はこれを鞄に詰めてこい」
「う、うん。わかった」
「なんだ、錘なんて持たせて」

 エルガーが横から問うてくると、意外なことにフロイデが訥々とつとつと答える。

「リーベちゃん、体力ついてきた、から」
「おお! なんだそうなのか」

 上機嫌に言うと彼は娘の頭を撫でてきた。

「短期間ですごい成長っぷりだな」
「ま、まあね」

 人前で褒められるのは何となく気恥ずかしくて、リーベは素っ気なく答えてしまった。

 しかし嬉しい気持ちは父にちゃんと伝わっていた。

 リーベがくすぐったい思いをしていると、挨拶を終えたフェアが仲間2人を連れて帰っていった。
 するとエルガーは大きく伸びをする。

「んじゃ、これ片づけっか」

 その声に振り返ると、食卓を埋め尽くす食器たちが目に飛び込んできた。毎度ながら、楽しい時間の後始末というのは実に億劫おっくうで、リーベはげんなりさせられた。しかし3人で掛かればこんなのあっという間だろう。

「……よしっ!」

 リーベは気持ちを切り替え、片付けに取り掛かった。




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