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第2章 旅立ちの時
085 悪魔の競技
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錘の収まったバックは当然ながら重かった。
背中を大地に向けて引っ張り倒そうと、常に一定の力を掛けてくるため、リーベはそれに抗うことを求められた。そうして姿勢を正しているのは結構な苦労を要するため、その反動で体力がつくのも当然に思えた。効果はそれに留まらず、体力づくり以外にも足腰の筋肉が鍛えられるのだから一石二鳥だろう。
そう思ったリーベはふとヴァールを見やる。
彼は重厚な剣を背負いながら事も無げに歩いている。
(そんなことを長年しているから、こんなにムキムキになったのかな? じゃあわたしもいつかはおじさんみたいに……)
「いやないない!」
おぞましい想像を振り払っていると、前を歩く2人が振り返った。
「なにがないんだ?」
ヴァールの問い掛けによって、声に出してしまっていたのだとリーベは知る。彼女は慌てて「なんでもないよ」というものの、それが儚い努力であることはよく知っている。
案の定、ヴァールは口角を意地悪に吊り上げていて――
「馬車が来ましたよ」
フェアの警告を耳にして一行は足を止める。
「悪いねー」
御者が軽く手を挙げながら馬車を横切らせていく。何となくそれを見送っていると、幌に囲われた荷台に見慣れた3人組の姿があった。
「あ、ロイドさん!」
呼び掛けると向こうも気づいたようで、律儀にも車を止めて降りてきた。
「おはよう、リーベちゃん。それにみなさんも」
「おはようございます。これから冒険ですか?」
問い掛けると、うつらうつらと歩いてきたボリスがこう答える。
「ふぁ……他になにがあるんだ?」
「あ……ふふ。それもそうですね」
「何と戦うんだ?」
ヴァールが問うと、朝日を頭頂に閃かせたバートが答える。
「ミラージュフライですよ」
するとフェアがロイドの方を見て言う。
「ミラージュフライとの戦闘は魔法使いが要になりますから。頑張ってくださいね?」
先輩の激励を受け、彼は威勢よく「はい!」と答えた。
「それじゃ、俺たちはこれで」
「お気をつけて」
手を振って見送ると、彼らは馬車に乗り込み、陽気に手を振り返してくれた。
そうして彼らが北門に向かっていくのを見送っていると、リーベは自分は今、同業者として彼ら見送っているのだと気づき、感慨深いものを抱いた。
「ダイマ!」
「バゴンッ!」と空を蹴散らすこの魔法はリーベにある種の快感をもたらした。しかし忘れてはならない。これは魔物と戦うための訓練であって、遊びではないのだ。
そう自分に言い聞かせても尚、楽しんでしまうのが人間だ。リーベがそのことを歯痒く思っていると「そこまで」とフェアが言う。それを受けてリーベは先生の方を見た。
「どうですか、わたしのダイマは?」
「完璧ですね。この分ならもうこの訓練は必要ないでしょう」
彼はそう言うが、実際、訓練は必要だ。しかし、ことダイマに限っては事情が違う。
炸裂時に大音量の爆発音と衝撃波を辺りに散らすため、一帯の生態系を思えば、おいそれと使用するわけにはいかないのだ。
そんな事情は理解していたが、楽しみを奪われるようで、残念でならない。
「おや、残念そうですね?」
フェアにしては珍しく、悪戯っぽい言い方をする。
それを受けリーベは、自分が近所迷惑な爆裂娘だと思われては堪らないと、慌てて訂正するのだった。
「そ、そんなことはありませんよおっ?」
「ふふ、そうですか」
穏やかに笑うと「さて」と手を打ち鳴らす。
「魔法の基礎が出来上がったことですし、今回からは魔法の訓練に加え、体力づくりもしましょうか」
「体力づくりって、錘はちゃんとリュックに入れてきましたよ?」
「錘をリュックに詰めるのは、どちらかと言えば体幹を鍛える為のものですから、それとは別に、体力作りに特化した訓練を行わなければなりません」
「なるほど……それで、これからはどんな訓練をするんですか」
「往復持久走です」
「おーふくじきゅーそー?」
「ええ」
フェアは手頃な枝を拾うと地面に1本線を引き、20メートルほど離れた場所にもう1本、先ほどの線に対して平行になるように線を引く。
それを見て、リーベはこれから何をやらされるのか、おおよそ理解し、慄いた。そして振り返った彼の穏やかな笑みが、どこか恐ろしいものに思えた。
背中を大地に向けて引っ張り倒そうと、常に一定の力を掛けてくるため、リーベはそれに抗うことを求められた。そうして姿勢を正しているのは結構な苦労を要するため、その反動で体力がつくのも当然に思えた。効果はそれに留まらず、体力づくり以外にも足腰の筋肉が鍛えられるのだから一石二鳥だろう。
そう思ったリーベはふとヴァールを見やる。
彼は重厚な剣を背負いながら事も無げに歩いている。
(そんなことを長年しているから、こんなにムキムキになったのかな? じゃあわたしもいつかはおじさんみたいに……)
「いやないない!」
おぞましい想像を振り払っていると、前を歩く2人が振り返った。
「なにがないんだ?」
ヴァールの問い掛けによって、声に出してしまっていたのだとリーベは知る。彼女は慌てて「なんでもないよ」というものの、それが儚い努力であることはよく知っている。
案の定、ヴァールは口角を意地悪に吊り上げていて――
「馬車が来ましたよ」
フェアの警告を耳にして一行は足を止める。
「悪いねー」
御者が軽く手を挙げながら馬車を横切らせていく。何となくそれを見送っていると、幌に囲われた荷台に見慣れた3人組の姿があった。
「あ、ロイドさん!」
呼び掛けると向こうも気づいたようで、律儀にも車を止めて降りてきた。
「おはよう、リーベちゃん。それにみなさんも」
「おはようございます。これから冒険ですか?」
問い掛けると、うつらうつらと歩いてきたボリスがこう答える。
「ふぁ……他になにがあるんだ?」
「あ……ふふ。それもそうですね」
「何と戦うんだ?」
ヴァールが問うと、朝日を頭頂に閃かせたバートが答える。
「ミラージュフライですよ」
するとフェアがロイドの方を見て言う。
「ミラージュフライとの戦闘は魔法使いが要になりますから。頑張ってくださいね?」
先輩の激励を受け、彼は威勢よく「はい!」と答えた。
「それじゃ、俺たちはこれで」
「お気をつけて」
手を振って見送ると、彼らは馬車に乗り込み、陽気に手を振り返してくれた。
そうして彼らが北門に向かっていくのを見送っていると、リーベは自分は今、同業者として彼ら見送っているのだと気づき、感慨深いものを抱いた。
「ダイマ!」
「バゴンッ!」と空を蹴散らすこの魔法はリーベにある種の快感をもたらした。しかし忘れてはならない。これは魔物と戦うための訓練であって、遊びではないのだ。
そう自分に言い聞かせても尚、楽しんでしまうのが人間だ。リーベがそのことを歯痒く思っていると「そこまで」とフェアが言う。それを受けてリーベは先生の方を見た。
「どうですか、わたしのダイマは?」
「完璧ですね。この分ならもうこの訓練は必要ないでしょう」
彼はそう言うが、実際、訓練は必要だ。しかし、ことダイマに限っては事情が違う。
炸裂時に大音量の爆発音と衝撃波を辺りに散らすため、一帯の生態系を思えば、おいそれと使用するわけにはいかないのだ。
そんな事情は理解していたが、楽しみを奪われるようで、残念でならない。
「おや、残念そうですね?」
フェアにしては珍しく、悪戯っぽい言い方をする。
それを受けリーベは、自分が近所迷惑な爆裂娘だと思われては堪らないと、慌てて訂正するのだった。
「そ、そんなことはありませんよおっ?」
「ふふ、そうですか」
穏やかに笑うと「さて」と手を打ち鳴らす。
「魔法の基礎が出来上がったことですし、今回からは魔法の訓練に加え、体力づくりもしましょうか」
「体力づくりって、錘はちゃんとリュックに入れてきましたよ?」
「錘をリュックに詰めるのは、どちらかと言えば体幹を鍛える為のものですから、それとは別に、体力作りに特化した訓練を行わなければなりません」
「なるほど……それで、これからはどんな訓練をするんですか」
「往復持久走です」
「おーふくじきゅーそー?」
「ええ」
フェアは手頃な枝を拾うと地面に1本線を引き、20メートルほど離れた場所にもう1本、先ほどの線に対して平行になるように線を引く。
それを見て、リーベはこれから何をやらされるのか、おおよそ理解し、慄いた。そして振り返った彼の穏やかな笑みが、どこか恐ろしいものに思えた。
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