冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!

森丘どんぐり

文字の大きさ
95 / 96
第2章 旅立ちの時

094 希望になるために

しおりを挟む
 無事テルドルに帰還した冒険者一行はギルドに向かうその前に、食堂エーアステに立ち寄った。理由はもちろん、リーベの両親に無事を告げるためだ。

 リーベは客の邪魔にならないよう気をつけつつ、表から入る。するとオーダーを告げたばかりなのか、父エルガーが入り口正面にいて、娘に気付くなり「おかえり!」と飛んできた。

 それに呼応するかのように客たちからも「おかえり」の声が上がる。

「あはは、ただいまです」

 リーベは客たちに手を振ると父の方へ向き直った。

「お仕事中にごめんね。どうしても顔だけは見せたかったから」
「いいさいいさ! いくらでも邪魔してってくれ」

 エルガーがそう言った途端、その背後から「これ2番さんね」とリーベの母であり、この食堂の亭主であるシェーンの声が響いてくる。

「お、呼ばれちまったか。ちょうど良い。お前もシェーンに顔を見せてやってくれ」

 そう言いつつエルガーは持ち場に戻った。リーベはそれに続く形でカウンターの方へ向かい、は厨房にを覗き込む。 

「お母さんただいま」
「あら、お帰りなさい」

 複数の調理を同時に行っていた母が微笑む。

「無事で良かったわ。また後でお話を聞かせてね?」

 今のシェーンは世界中の誰よりも忙しいのだ。にも関わらずこうして愛情を注いでくれるのだから、リーベは幸せ者だ。

「うん! それじゃあね」

 母の元を離れると、リーベは外に待たせている仲間の元へ――ではなく、自室に向かった。なぜならおじさんに『ついでに荷物置いてこい』と言われているからだ。

「ただいま、ダンク」

 ベッドの上にちょこんと座り込んでいた彼は飼い主を見ると安堵に瞳を潤ますが、直後、他の犬の気配を感じ取って威圧感を放つ。

「…………」
「あはは……気のせいだよ」

 荷物を下ろしたリーベはダンクを抱きしめようとしたが、いまの自分が汚いことに気付き、撫でるにとどまった。

「また後でね? 行ってきます」

 リーベは親友に見送られて店の前に出る。
 そこではヴァールたちが退屈そうにしているかに思われたが、違った。

「あ、ボリスさん」

 そう。ボリスと話し込んでいたのだ。

「あ、リーベちゃん。おかえり」
「ただいまです。怪我の方は大丈夫ですか?」
「ああ。俺はあのゴミ拾い野郎とハゲフラワーと違って打撲だったからな。すぐ退院できたんだぞ」
「はは、そうなんですね」

(ゴミ拾い野郎はともかく、ハゲフラワーって……)

「それより聞いたぞ。リーベちゃんが倒したんだってな」
「え?」

 同じ言葉でも話し方によって印象は変わってくるものであり、彼の言う『リーベちゃんが倒した』は、『リーベを含めた四人で倒した』という意味ではなく、『リーベ1人で倒した』という意味にすげ替えられていた。

 それを不思議に思って仲間の方を見やると、3人は一様いちように頷く。
 その裏にどんな意図があるのかはリーベには知れなかったが、彼女はひとまず、話を合わせた。

「は、はい。なんとか」
「そっか~……はあ」

 ボリスは深いため息をついた。それには安堵の他にも複雑な感情が込められていることを、リーベは直感した。だから慌ててフォローの言葉を口にする。

「ああでも! わたしは正面から戦いましたし、みんなにフォローしてもらってどうにかでしたから! だから……」

 言葉に詰まると、彼が丸い目をしていることに気付く。一瞬の間を経て、彼は「ぷっ!」と吹き出した。

「ははは! そんな気ぃ使わなくていいぞ」
「で、でも……」
「俺たちを負かした魔物を、リーベちゃんみたいな新人が倒しちまったのは確かに悔しいさ。でもそれより嬉しいんだよ」
「嬉しい?」
「ああ。俺たちの英雄の娘が、こんなにも早く手柄を立てたんだ。この街の人間としちゃ、嬉しくなっちまうもんさ」
「そ、そうなんですか……ちょっと気恥ずかしいです。はは……」
「俺だけじゃねえぞ。ロイドもバートも、他の連中も。みんなが喜ぶさ。だから覚悟しとけよ」

 彼はカラカラと笑うと「んじゃ、俺は飯食いに行ってくっから、あばよ」と食堂エーアステに入店するのだった。

 その背中を見送ると、リーベは仲間たちの方へ振り向いた。

「どうしてあんな嘘をついたの?」
「なりたいんだろ。希望に」

 師匠の口から出た言葉にリーベはハッとさせられた。

「どうしてそれを……?」
「師匠から聞いたんだ。弟子が何のために冒険者やってんのかは知っとくべきだろ?」
「それは、そうだけど……でも! その為に嘘をつくなんてダメだよ!」
「嘘はついてない。事実を多少、誇張しただけだ」
「同じことだよ!」

 その言葉を最後に、両者は睨み合うような形になった。もちろん互いに敵意を持っている訳ではないが、品性のすれ違いがこの対立を生み出したのは事実であった。

 リーベはだんだんと虚しくなっていって項垂れた。するとヴァールが諭すように言う。

「いいかリーベ。希望ってもんはな、お前が与えるんじゃなくて、周りが勝手に抱えるもんなんだ。だからお前はどんな賞賛も、行き過ぎた評判も。毅然と受け止めなければなんねえんだ。そうでなきゃ、誰もお前に希望を見出せねえぞ」
「それは……そうかも、だけど……でも!」

 振り仰ぐと、ヴァールは彼らしからぬ達観した瞳をわたしに向けていた。

「嘘で終わらせたくないなら、お前はお前の希望に近づく努力をしなきゃならない。そうだろ?」
「おじさん……」

 リーベの理想――それは強く誠実であり、人々の信頼を受ける、そんな英雄の像だ。だがそれはあくまで彼女個人のものであり、街のみんながそれぞれ持っているものとは違ってくる。

 現状、街の人々は「英雄の娘が冒険者になった」というその事実に希望を抱いた。そして『英雄の娘が魔物を倒した』という事柄がそれを補強しているのだ。

 たったそれだけのこと。倒したのがクサバミだろうがカナバミだろうが、そんなことは些細な問題でしかない。そして問題になるのは、彼女の理想との乖離かいりだ。

 彼女は人々の心に希望を与えたいと思った。だが、その課程で『魔物を倒した』という結果を提示しなければならない。それは言い換えれば『リーベがどれほど強いか』という事だ。
 しかし、リーベ以前に街の注目を集めていた冒険者エルガーは違った。

『この人がいる』

 たったそれだけの事実で周囲に希望を与えていたのだ。強さや戦績などではない、もっと純粋な信頼だ。それをはリーベの現状とは異なっている。

――ではどうすればその落差を埋めていけるか。それはひとえに、『結果を出す』ということであった。街の人々が心から信頼できる実績が、必要なのだ。

「……わかったよ。わたし、もっと強くなる! 嘘になんてさせないんだから!」
「その息だ!」

 ヴァールはリーベの背中を強かに叩いた。

「うげほっ! い、痛いよ……」
「気合いを入れてやったんだ。感謝しろよ」

 彼は言うが、痛いことをされて感謝するのは変態だけだ。彼女は無論、そんな趣味はない。恨めしく睨んでいると、それまで沈黙を貫いていたフェアがくすりと笑う。

「気合いも入ったことですし、冒険を続けましょうか」
「え? またどこかに行くんですか?」
「報告をするまでが、冒険……!」

 そう格言を残したフロイデの瞳には、報酬金で美味しいものを食べようという目論見がありありと浮かんでいた。

「ふふ、そうですね。早くギルドに行きましょうか」

 リーベたちは肩を並べて冒険者ギルドを目指し、歩き出した。体力は空っぽに等しい状態であったが、気力に限っては出発時よりも豊富にあるような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...