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第2章 旅立ちの時
095 ジャイアントキリング
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冒険者ギルドは今日も冒険者たちが屯しており、室内はまるで市場のような賑わいを見せていた。リーベたちが入場すると、入れ違いになる形で線の細い男性が出て行く。その表情には無骨な空間を脱した安堵が滲んでいた。
男性を横目で見送っていると、フェアがヴァールに冒険者カードを差し出しながら言う。
「それでは、私たちは待機していますので」
「お腹空いたから、早く、ね?」
フロイデが腹を擦りながらカードを差し出すと、ヴァールはニヤリと笑んで返す。
「ああ。腹空かしたからって泣くんじゃねえぞ?」
「赤ちゃんじゃない……!」
「ははは! それじゃ、行ってくる」
彼が受け付けに向かって歩き出すと、リーベは手続きの見学するためにその背中を追った。
2人の向かう先では受付嬢のサリーが書類整理をしていた。
「あ、リーベちゃん」
リーベに気付くと彼女は垂れ目を細め、「聞いてるよ~」と女子トークのトーンで語りかけてくる。
「カナバミスライムを倒したんだってね?」
彼女がそう口にした途端、リーベは周囲の視線が集まるのを感じた。その重圧の中、彼女ははゴクリとつばを呑み下し、恐る恐る頷いて見せた。
すると周囲がドッとわいて、「さすがエルガーさんの娘だ!」「これならテルドルも安泰だな」などなど、誇らしくも気恥ずかしい言葉がリーベの心をくすぐった。
「わ、わたし1人で倒したわけじゃないですよ! おじさんたちには何回も助けられちゃって――」
「ふふ、謙遜なんてしちゃって!」
サリーは口元を隠して上品に笑うとお仕事モードに切り替えた。
「それで、カナバミ退治の報告でよろしいでしょうか?」
「ああそうだ」
ヴァールが頷くと彼女はファイルを開き、2枚の書類を取り出した。その様式からして、リーベはそれが依頼書と報告書だろうと思った。サリーが事前に記入した部分もあり、ところどころに端正な文字が刻まれていた。
「それでは討伐参加者の冒険者カードの提示をお願いします」
「おう」
ヴァールが仲間の分を含む3枚を差し出すとリーベが続く。
「拝見します――はい、ありがとうございました。それではこちらの報告書に記入をお願いします」
ヴァールは差し出された用紙に角張った文字を、刻みつけるように記していく。
『サンチク村南西約3キロメートル地点に縦穴を発見。これは当該の魔物が地中へ潜行するために開けたものである。戦闘後、安全のためにこれを魔法で埋めた。出没地点の至近に集落がないことが幸いし、被害は見られなかった。また、周辺環境への影響は確認できず、安全なものと思われる』
相変わらずの堅苦しい文言にリーベは目で追うのが億劫になるが、それでもどうにか末尾まで読み込んだ。リーベもいつか、クランを代表して報告書を記す日が来るかもしれないからだ。
そんなことを考えている内にヴァールは署名を終え、提出した。
「ありがとうございます。それでは、報酬金のお支払いになります」
それを聞いた途端、リーベの胸が高鳴った。
(希少な魔物を倒したんだから、たくさんもらえるよね!)
「わくわく……!」
「ふふ、今回はすごいよ~?」
硬貨の載ったトレイを重そうに運んできながら、サリーがいたずらっぽく言う。彼女が「よっこいしょ」の掛け声でトレイを置くと、リーベとヴァールは揃って短い声を上げた。
「す、すごい……!」
「こんなにか!」
それは並の労働者が3ヶ月働いて得られる給与と同程度の額だった。
たった1回の冒険で、しかも時間にして半日でこんなに稼げてしまうなんてと、リーベは冒険者業にロマンを感じずにはいられなかった。
「はい。カナバミスライムからは大変貴重な素材が採れますし、何より、第一級に分類される手強い魔物ですから」
「え、カナバミって一級なの?」
意外な事実に驚いていると、ヴァールが言う。
「俺たちは適切に対処したから容易く映るんだろうが、あいつは本来、相当に手強い魔物だ」
「へえ……あ。剣も魔法も、普通にやったら効かないもんね」
「そういうこった」
ヴァールが結ぶと、サリーが微笑んで続く。
「そんな魔物を六級冒険者のリーベちゃんが倒しちゃうなんて、冗談抜きで凄いことなんだよ?」
碧眼を煌めかせてそう言った。
その言葉にリーベ自分がこの街の英雄の娘である事実を思わずにはいられなかった。
(……もしかしてわたし、才能があるんじゃ――)
そんな考えを抱いた途端、側頭部に鈍痛が走る。ヴァールがデコピンをしたのだ。
「あいだっ! もーっ! いきなり何するの!」
「弟子が増長しねえように、活を入れねえとな。おらっ!」
デコピン!
「あいったあーっ!」
「ふふふ! お弟子さんをいじめるのもほどほどにしてくださいね」
サリーが冗談っぽく言うと、ヴァールは「りょーかい」と最後の1発をお見舞いしてきた。
「あたた~っ!」
サリーはひとしきり笑うとヴァールの方を見て「ところで……」と、丁重に切り出す。
「明日からカナバミスライムの解体と運搬を行うので男手を集めていまして、ヴァールさんには是非、ご協力いただきたいのですが、如何でしょう」
テルドルは5大都市に数えられるくらいには大きな街だが、彼ほどに逞しい肉体を持つ者は早々いない。それを思えば、ギルドが彼の手を欲するのは当然のことだった。
「どうするの?」
リーベが尋ねるとヴァールは平然と答えた。
「明日なら別にいいぞ」
「ほんとうですか! ヴァールさんが手を貸してくれるならほんとうに助かります!」
「はは! ここの軟弱な連中に任しちゃおけないからな」
「ふふ、お給料も出ますので、ふるってご参加ください」
「おじさんがいるならあっという間に終わっちゃいますよ」
リーベがそう言って笑うと、ヴァールが「お前も手伝うんだぞ」と言ってきた。
「え⁉ なんで!」
「なんでってそりゃ、体作りのためだろ?」
「で、でも今日は冒険だったし、明日はお休みなんじゃ……」
「たった半日で成し遂げたつもりでいるようじゃあ、しょうがねえぞ?」
事実として、早朝から今までたったの半日しか経っていない。戦闘はハードであったが、移動は馬車を利用したこともあり、体に掛かる負担は前回よりもずっと軽いものだった。
「そ、そうだね……うん。明日も頑張ります…………」
殊勝な態度を見せるとヴァールは短く笑い、サリーへ向けて手を上げる。
「んじゃ、またな」
「はい。今後のご活躍を応援しています」
男性を横目で見送っていると、フェアがヴァールに冒険者カードを差し出しながら言う。
「それでは、私たちは待機していますので」
「お腹空いたから、早く、ね?」
フロイデが腹を擦りながらカードを差し出すと、ヴァールはニヤリと笑んで返す。
「ああ。腹空かしたからって泣くんじゃねえぞ?」
「赤ちゃんじゃない……!」
「ははは! それじゃ、行ってくる」
彼が受け付けに向かって歩き出すと、リーベは手続きの見学するためにその背中を追った。
2人の向かう先では受付嬢のサリーが書類整理をしていた。
「あ、リーベちゃん」
リーベに気付くと彼女は垂れ目を細め、「聞いてるよ~」と女子トークのトーンで語りかけてくる。
「カナバミスライムを倒したんだってね?」
彼女がそう口にした途端、リーベは周囲の視線が集まるのを感じた。その重圧の中、彼女ははゴクリとつばを呑み下し、恐る恐る頷いて見せた。
すると周囲がドッとわいて、「さすがエルガーさんの娘だ!」「これならテルドルも安泰だな」などなど、誇らしくも気恥ずかしい言葉がリーベの心をくすぐった。
「わ、わたし1人で倒したわけじゃないですよ! おじさんたちには何回も助けられちゃって――」
「ふふ、謙遜なんてしちゃって!」
サリーは口元を隠して上品に笑うとお仕事モードに切り替えた。
「それで、カナバミ退治の報告でよろしいでしょうか?」
「ああそうだ」
ヴァールが頷くと彼女はファイルを開き、2枚の書類を取り出した。その様式からして、リーベはそれが依頼書と報告書だろうと思った。サリーが事前に記入した部分もあり、ところどころに端正な文字が刻まれていた。
「それでは討伐参加者の冒険者カードの提示をお願いします」
「おう」
ヴァールが仲間の分を含む3枚を差し出すとリーベが続く。
「拝見します――はい、ありがとうございました。それではこちらの報告書に記入をお願いします」
ヴァールは差し出された用紙に角張った文字を、刻みつけるように記していく。
『サンチク村南西約3キロメートル地点に縦穴を発見。これは当該の魔物が地中へ潜行するために開けたものである。戦闘後、安全のためにこれを魔法で埋めた。出没地点の至近に集落がないことが幸いし、被害は見られなかった。また、周辺環境への影響は確認できず、安全なものと思われる』
相変わらずの堅苦しい文言にリーベは目で追うのが億劫になるが、それでもどうにか末尾まで読み込んだ。リーベもいつか、クランを代表して報告書を記す日が来るかもしれないからだ。
そんなことを考えている内にヴァールは署名を終え、提出した。
「ありがとうございます。それでは、報酬金のお支払いになります」
それを聞いた途端、リーベの胸が高鳴った。
(希少な魔物を倒したんだから、たくさんもらえるよね!)
「わくわく……!」
「ふふ、今回はすごいよ~?」
硬貨の載ったトレイを重そうに運んできながら、サリーがいたずらっぽく言う。彼女が「よっこいしょ」の掛け声でトレイを置くと、リーベとヴァールは揃って短い声を上げた。
「す、すごい……!」
「こんなにか!」
それは並の労働者が3ヶ月働いて得られる給与と同程度の額だった。
たった1回の冒険で、しかも時間にして半日でこんなに稼げてしまうなんてと、リーベは冒険者業にロマンを感じずにはいられなかった。
「はい。カナバミスライムからは大変貴重な素材が採れますし、何より、第一級に分類される手強い魔物ですから」
「え、カナバミって一級なの?」
意外な事実に驚いていると、ヴァールが言う。
「俺たちは適切に対処したから容易く映るんだろうが、あいつは本来、相当に手強い魔物だ」
「へえ……あ。剣も魔法も、普通にやったら効かないもんね」
「そういうこった」
ヴァールが結ぶと、サリーが微笑んで続く。
「そんな魔物を六級冒険者のリーベちゃんが倒しちゃうなんて、冗談抜きで凄いことなんだよ?」
碧眼を煌めかせてそう言った。
その言葉にリーベ自分がこの街の英雄の娘である事実を思わずにはいられなかった。
(……もしかしてわたし、才能があるんじゃ――)
そんな考えを抱いた途端、側頭部に鈍痛が走る。ヴァールがデコピンをしたのだ。
「あいだっ! もーっ! いきなり何するの!」
「弟子が増長しねえように、活を入れねえとな。おらっ!」
デコピン!
「あいったあーっ!」
「ふふふ! お弟子さんをいじめるのもほどほどにしてくださいね」
サリーが冗談っぽく言うと、ヴァールは「りょーかい」と最後の1発をお見舞いしてきた。
「あたた~っ!」
サリーはひとしきり笑うとヴァールの方を見て「ところで……」と、丁重に切り出す。
「明日からカナバミスライムの解体と運搬を行うので男手を集めていまして、ヴァールさんには是非、ご協力いただきたいのですが、如何でしょう」
テルドルは5大都市に数えられるくらいには大きな街だが、彼ほどに逞しい肉体を持つ者は早々いない。それを思えば、ギルドが彼の手を欲するのは当然のことだった。
「どうするの?」
リーベが尋ねるとヴァールは平然と答えた。
「明日なら別にいいぞ」
「ほんとうですか! ヴァールさんが手を貸してくれるならほんとうに助かります!」
「はは! ここの軟弱な連中に任しちゃおけないからな」
「ふふ、お給料も出ますので、ふるってご参加ください」
「おじさんがいるならあっという間に終わっちゃいますよ」
リーベがそう言って笑うと、ヴァールが「お前も手伝うんだぞ」と言ってきた。
「え⁉ なんで!」
「なんでってそりゃ、体作りのためだろ?」
「で、でも今日は冒険だったし、明日はお休みなんじゃ……」
「たった半日で成し遂げたつもりでいるようじゃあ、しょうがねえぞ?」
事実として、早朝から今までたったの半日しか経っていない。戦闘はハードであったが、移動は馬車を利用したこともあり、体に掛かる負担は前回よりもずっと軽いものだった。
「そ、そうだね……うん。明日も頑張ります…………」
殊勝な態度を見せるとヴァールは短く笑い、サリーへ向けて手を上げる。
「んじゃ、またな」
「はい。今後のご活躍を応援しています」
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