禁色たちの怪異奇譚 ~ようこそ、怪異相談事務所へ。怪異の困りごと、解決します~

出口もぐら

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第三章 夢の深淵編

26話目 悪友との邂逅、そして類が及ぶ(三)

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 斑鳩に連れられた見藤は駅構内にある、関係者用の一室に案内されていた。そこには久保の姿もあり、事情聴取に同席している。
 その場に東雲の姿はなく、被疑者に狙われた彼女は別室で女性警官から精神的なケアを受けている最中だと聞き及んでいる。

 そして、見藤と斑鳩の間で進む会話。

「で、このはからいは有難いんだが……」
「文句言うなよ、俺だって非番だったんだ」
「そうなのか」
「そうだよ」

 彼らの会話は久保が先程も感じた通り、いつになく親しげだ。どことなく疎外感を抱いた久保は、おずおずと口を開く。

「あの、見藤さん」
「あぁ、大丈夫だ。こいつは俺の知り合いだ」

 久保の疑問に答える見藤は、気だるそうにパイプ椅子に体重を預けている。その片手は殴られた頬に氷嚢を当てていた。患部は赤く腫れあがり、事件の壮絶さを物語っているようだ。
 一方、久保は見藤の隣のパイプ椅子に座っており、簡易的な机を挟んだ向こう側には斑鳩の姿。
 
 斑鳩は見藤の言葉に眉を寄せて抗議する。

「ああん?の間違いだろう?」
「黙ってろ」

 斑鳩の軽口に、今度は見藤が眉を寄せた。

(やっぱり見藤さんって、変な人に好かれやすい……)

 久保は鼻をすすりながら、そんな事を思っていた。

 軋むパイプ椅子に座る斑鳩は、腕組みをしながら不服と言わんばかりに見藤を睨んでいる。彼の格好は勤務中には思えない。それがどうして、暴漢を取り押さえた見藤の事情聴取を行うというのだ。久保が想像するよりも、警官としての立場は上なのだろう。

 斑鳩の風貌は如何にも警官というような生真面目さがうかがえる。その髪色は珍しく赤銅色をしていて、瞳は赤褐色にも映る。
 そして、見藤と並び恵まれた体格。座っているため分かりづらいが、斑鳩の方が背丈は高いだろうか。一般平均の体格をしている久保が華奢に思えてくる。

 斑鳩は眼光鋭く、久保を射抜く。鋭い視線に、久保は思わず身をすくめる。しかし、見藤は大丈夫だと言わんばかりに目配せをしたのだ。その次には、仏頂面をしながらも口を開く。

「こいつはある意味、俺と同業だ」
「同業者……」
「普段は強面警官を装ってはいるが、れっきとしたまじないを扱う家の出だ。俺達の事情にも理解がある」

 見藤の言葉に、またもや不服と言わんばかりに鼻を鳴らしたのは斑鳩だ。

「おい、普段はってなんだ。一応は本業だ。まぁ要は、俺もの人間ってことだ。俺が出た方が、話が早いだろ?」

 そう言って不敵に笑う斑鳩はなんとも頼もしい。更に、その立場と警察という権力の傘を借りれば、怪異によって引き起こされた事件や事故を処理しやすいのだろう。こうして見藤と久保、事情を知る者同士を引き合わせて保護してくれている。

 久保に紹介を終えると、斑鳩は腕を組み小さく息を吐いた。

「不幸中の幸いだ、俺が近くに居合わせた。運がよかったな」
「そうだ、な……。……そうか、久保くんのお陰か」

 斑鳩の言葉に思い当たる節があった見藤は久保の名を口にする。

「はい? 僕ですか?」

 久保の強運が、非番であるはずの斑鳩をあの現場に呼び寄せたのだろう。
 それは突き詰めれば――。久保が見藤を買い出しに誘わなければ、東雲はあの凶行の餌食となっていた可能性を孕んでいたことになる。

 不運を強運でリカバリーした久保。そんな彼を「なかなかに興味深い」と斑鳩は笑った。そして、「できることなら、もっと早く駆けつけて欲しかった」と悪態をつく見藤はすっかり、いつもの調子に戻っていた。
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