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4話 ネロ・バシランはもがれて落ちるか5
しおりを挟む「――っと、……ネロ?」
前のめりに崩れ落ちかけたネロの身体をベルテは慌てて腕に抱えなおす。
ベルテが首を伸ばし、ネロの顔を窺えば、元より半分溶けかけていた瞳は今や瞼にすっかり隠れてしまっていた。
(すこし、やり過ぎたか)
与えられる刺激に対して随分とネロの反応が良いから、こう言った性的接触に耐性が低いの様だとは推測していたが。思考を低下させた上で、混乱と快感による精神的負荷をかけられた結果、どうやらキャパシティが越え、意識を飛ばしてしまったらしい。
己の与える刺激に怯えつつも悶え、欲の飲まれて熔けてゆく様子があまりにも可愛らしいものだから。早急な手出しはしまいと考えていたのに、つい興が乗ってかるい悪戯のつもりが自制がきかなった。
「まいったな」
後始末をしなければと、ネロの下半身と手をチーフで拭い、ズボンの前を留めた所で手を止め、ネロを腕に抱きかかえなおしてベルテは眉を下げた。
良くも悪くも、色事に関してはそれなりに経験を重ねて来たから。ある程度、己の欲に関してはコントロールが効くし、そもそも慣れもあって気持ちは高ぶれど、直接刺激もせずに兆すなんて事は無くなっていたのに。
ネロに触れ、痴態を見ただけで、ズボンの布地を窮屈だと押し上げているの己のモノを知覚してベルテは苦笑する。
他人への奉仕など本来は面倒だ。獲物相手に雰囲気を作るためには致し方がないと割り切り、わざわざ気持ちを高揚させる努力をする事はあるが、まさか手が止まらずむしろ押しとどめる努力をするハメになるとは。
ネロが意識を飛ばしてしまって良かった、とベルテは思う。気を失い、身体から力が抜け落ちて倒れるネロに驚きベルテは我に返った。
別に薬の効能的に、これから何をしようとネロは記憶できないだろうし、しばらくは起きないだろうが、頭に血が上った状態で事に及ぶなど、どんな落とし穴があるか分かったものじゃない。ベルテは一時期の衝動で欲を満たすだけではなくて、ネロを確実に間違いなく手に入れたいのだ。
中途半端なつまみ食いは余計に飢餓感を煽ってしまう。
(そう、分かっているのだが……)
腕の中の、年齢の割には成熟しきっているとは言いがたい薄い身体は無防備に曝け出されて、抗いがたく魅力的だ。触れた場所からベルテの体温が移るが、徐々に通常の体温へと戻るネロの身体が冷え切る前にシャツを着せるべきだ。頭で理解はしているのに、ベルテの胸にくっついたすべやかな背中を身体から離すのが億劫で。力の入ってないネロの柔らかな腹を撫で、汗のにおいが滲んだ頭に鼻先を突っ込んで匂いを嗅ぎながらあと少しだけとぐずっている。
いっそのことネロのズボンを脱がして、その太ももで己のモノを挟んで処理してしまった方がまだ落ち着いたかもしれないな、と言い訳がましい誘惑に駆られながら。
まるでセックスを覚えたての若者のような余裕のなさと自分の思考回路をつくづく厄介に思う。もうしばしこのまま己の腕の中で。ネロの目覚めがどこまでも遠くあれば良い。しかしはやく、ネロ自身の意思で己を受け入れる様になって欲しい。
喘ぐネロが反射的にベルテを求めるように手を伸ばしてきた様を反芻する。その時の感じた胸の高ぶりと多幸感は今まで経験がないものだった。
普段、何重にも蓋をして目を逸らしている渇きが、触れたことで余計に強まった気配を感じつつ、”いつかの日々”を夢想をしながらベルテは次の一手を考える。
名残惜しいが、ネロが目が覚めるにはこの場を繕って立ち去った方が良いだろう。今はまだ、自分たちの関係は「うっかり酒の混じった紅茶を飲んで眠ってしまったネロ」に寄り添って待つほどの仲ではない。
仕事があるからと、先に立ち去る謝罪を一言残すくらいの距離感が丁度良い。
薬を盛られ、何をされたのだとか気づきもせず、己の失態をネロは気まずく思って、ベルテがいないことに胸をなで下ろすだろう。
それから次の食事の誘いはほんの少しばかり時間を空けるのも良いかもしれない。真面目なネロの事だ。ベルテの訪問頻度が空けば、もしかしたら酔って何かをしでかしたのだろうかと、気にするなんて事もあるかもしれない。
思いのほかネロはベルテを知り、また己を受け入れて貰うことを望み始めていた。
きっと今回の事でネロは同じ失敗を恐れて今後ベルテとの食事の席で酒を飲むことに尻込みするだろう。だから今度はベルテもまた酒が過ぎて酔った姿を晒せばお互い様だろうと提案すればきっと彼は食いつくだろう。どんな人間も、興味のある相手の弱みを知るという誘惑には逆らえない。
そうしてまた一歩、ネロを誘い込んで近づくのだ。
(まったく、もどかしくて面倒な作業だ)
だが金と名声を得るために策略を巡らせていた頃よりもほんの一歩の進展に焦燥感と、あまりある充足感を覚えるのは不思議なものだと、ベルテは苦笑する。
まさか数日後、この行き過ぎた悪戯が、目覚めたネロにどんな影響を与えるなんて、知るよしもなく。
「――ぇ?」
「!?」
ぱし、と乾いた音が響いて。
ベルテは振り払われた手を何が起こったのか分からず見つめ、次いでネロの顔を見た。
「っす、すまない。驚いて……」
そう言ったネロの顔に浮かぶのは、偽りのない驚きだ。
しかしそれはベルテから肩に触れられた事に驚いたモノではなく、どちらかというとそのベルテの手を振り払った自分の行動に驚いた様子で。
「ネロ」
「っ」
「……どうやら、体調が悪いようだね、食事は日を改めようか」
一歩、ネロの方へと踏み出したベルテから、離れる様にネロがたたらを踏むように後退する。戸惑うネロの表情にそれが意思に添わない反射的な、本能的な動きだとベルテは察し、それ以上接近するのを避けて口にした言葉は。
「そう、だな……今日は止めておこう」
ネロの肯定に思いのほかダメージを受ける自分にベルテは何処か他人事のように驚いた。
提案はネロの状態を探るためだった。図書館をいつものように訪れたベルテを眼に入れたとき、ネロは間違いなく来訪を受け入れていた。なんなら通常なら足を止めてベルテが近付くのを待つところ、さりげなくコチラの方へと歩み寄る姿勢すら見せて、ネロにとってあの日のことはベルテの想像通りの道筋を辿っていると思われたのに。
――一体、何が起きているのか。
ネロ自身も把握できていない不可解な行動をとった事を気に病まないよう、ネロに逃げ道をつくる言葉を選んだつもりだった。
だが実際はベルテ自身が無意識に、ネロの拒絶を恐れた故に作った逃げ道だと、気がつくことは出来ず。
あの黒い瞳が気まずげに己から逸らされるのを前に、ベルテはただ呆然とするしかなかった。
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