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完結編
ずっと伝えたかった言葉 ②
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やっと言えたあ……!
もう駄目、顔が熱くて仕方がない。今すぐ手で扇ぎたいけど、抱きしめられたままだからそれもできないし。
……え。私、アメデオに抱きしめられてる?
ちょっと待って、今更実感したわ。どうしよう嬉しいけど恥ずかしい! 人通りが無いとはいえ外だし、結婚前にこんなこといいのかしら!?
「……へ」
私が一人でわたわたしていたら、頭上から掠れた吐息が降ってきた。見上げるとアメデオは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていて、私と目が合うなりよろよろと後ずさって行く。
「……へ?」
もう一度、今度はさっきよりも強めの疑問符が聞こえてきた。何故か右手を空中に彷徨わせた後、ばちんと音を立てて口元を覆ったアメデオは、そのままの姿勢で静止してしまった。
どうして何も言ってくれないんだろう。やっぱり……やっぱり、もう、遅かったのかな。
「アメデオ……?」
多分表情には悲しみが表れてしまっていたと思う。小さな声で名前を呼んだら、広い肩が大袈裟なぐらい跳ねた。
「いや、え。……ま、は……え?」
「あの、どうしたの?」
「え……いや、その……へ」
ええと、アメデオが意味のない音しか話さなくなってしまった。
どうしよう。私、何か変なことをしてしまったのかしら。それとも、伝わらなかった?
「……好き」
もう一度言うのは案外簡単だった。これがやけくそというものなのかもしれないけど、力を貸してくれるならこの際何でもいい。
私はまっすぐ彼の目を見て、一歩足を踏み出して距離を詰める。
「アメデオ、好き」
「いや、ちょっと、まって」
「好きなのっ! 貴方のことが、好き!」
「わ、わかったから! 頼むからちょっと待ってくれ! 俺、気絶しそうなんだ……!」
気付けばアメデオは顔を隠していた手を取り払っていて、その頬は見たことがないくらい真っ赤になっていた。
「なんだよ……俺が、どれだけ。どれだけ、好きだと。あー……駄目だ。死にそうだ」
かと思えば、何かをぶつぶつ言いながらその場にしゃがみ込む。気絶しそうとか言ってたし、大丈夫なの?
ハラハラしながら近寄って行くと、アメデオが俯いたまま手招きを始めたので、私もまたしゃがんで彼の顔に耳を寄せる。
その瞬間、手招きしていた手が電撃の速さで動き、私の手首を掴んで引き寄せた。
何が起ころうとしているのか理解しないうちに、熱い手が頬を包んで、瑠璃色の双眸が至近距離に迫ってきて。
気付いた時には、お互いの唇が重なり合っていた。
ほんの一瞬の出来事だった。私は呆然としてしまって、未だ至近距離にある整った顔が照れ臭そうに微笑んだのを、微かに口を開けたまま見つめていた。
「……きっと、貴方には一生敵わないんだろうな。けど覚悟しておいてくれ。俺はもう、一切遠慮はしない」
え、何? 何を言っているのか、頭が理解しようとしてくれないのだけど。
すっかり馬鹿になった私の耳は、それでも次に言われた言葉だけはしっかりと聞き留めていた。
「愛してる」って、言ってくれたことだけは。
「なあ、それ。貴方が買ってくれたプレゼント、貰ってもいいか?」
「……え? でも、これは、泥の中に落としてしまったから」
「そんなことどうだっていいよ。例え泥の色に染まってようと愛用するね、俺は」
おかしなことを言って微笑むアメデオを見ていたら、いろいろと馬鹿馬鹿しくなってきた。
そうねロレッタ、ルーチェ。私、悩みすぎだわ。
この人は破天荒で、天才で、女心なんて汲み取る気もなくて、でも優しくて。
こんな私に、結婚しようって言ってくれた人だもの。
もっと信じれば良かった。変に考えすぎずにありのままを伝えるだけで良かった。
でもそれが解ったから、これからはきっと大丈夫なのだと思う。
「お、笑ったな? もっと笑ってくれ、可愛いからずっと見ていたい」
「も、もう。何言ってるの」
赤くなる顔をごまかすためにひしゃげた包みを押し付けると、アメデオは礼を言うなりすぐさま包装を解き始めた。
取り出してみると端のところがほんの少しだけ泥に汚れていたから、やっぱり買い換えると伝えたのだけど。彼はこれがいいんだと言って、幸せそうに微笑んでいたのだった。
もう駄目、顔が熱くて仕方がない。今すぐ手で扇ぎたいけど、抱きしめられたままだからそれもできないし。
……え。私、アメデオに抱きしめられてる?
ちょっと待って、今更実感したわ。どうしよう嬉しいけど恥ずかしい! 人通りが無いとはいえ外だし、結婚前にこんなこといいのかしら!?
「……へ」
私が一人でわたわたしていたら、頭上から掠れた吐息が降ってきた。見上げるとアメデオは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていて、私と目が合うなりよろよろと後ずさって行く。
「……へ?」
もう一度、今度はさっきよりも強めの疑問符が聞こえてきた。何故か右手を空中に彷徨わせた後、ばちんと音を立てて口元を覆ったアメデオは、そのままの姿勢で静止してしまった。
どうして何も言ってくれないんだろう。やっぱり……やっぱり、もう、遅かったのかな。
「アメデオ……?」
多分表情には悲しみが表れてしまっていたと思う。小さな声で名前を呼んだら、広い肩が大袈裟なぐらい跳ねた。
「いや、え。……ま、は……え?」
「あの、どうしたの?」
「え……いや、その……へ」
ええと、アメデオが意味のない音しか話さなくなってしまった。
どうしよう。私、何か変なことをしてしまったのかしら。それとも、伝わらなかった?
「……好き」
もう一度言うのは案外簡単だった。これがやけくそというものなのかもしれないけど、力を貸してくれるならこの際何でもいい。
私はまっすぐ彼の目を見て、一歩足を踏み出して距離を詰める。
「アメデオ、好き」
「いや、ちょっと、まって」
「好きなのっ! 貴方のことが、好き!」
「わ、わかったから! 頼むからちょっと待ってくれ! 俺、気絶しそうなんだ……!」
気付けばアメデオは顔を隠していた手を取り払っていて、その頬は見たことがないくらい真っ赤になっていた。
「なんだよ……俺が、どれだけ。どれだけ、好きだと。あー……駄目だ。死にそうだ」
かと思えば、何かをぶつぶつ言いながらその場にしゃがみ込む。気絶しそうとか言ってたし、大丈夫なの?
ハラハラしながら近寄って行くと、アメデオが俯いたまま手招きを始めたので、私もまたしゃがんで彼の顔に耳を寄せる。
その瞬間、手招きしていた手が電撃の速さで動き、私の手首を掴んで引き寄せた。
何が起ころうとしているのか理解しないうちに、熱い手が頬を包んで、瑠璃色の双眸が至近距離に迫ってきて。
気付いた時には、お互いの唇が重なり合っていた。
ほんの一瞬の出来事だった。私は呆然としてしまって、未だ至近距離にある整った顔が照れ臭そうに微笑んだのを、微かに口を開けたまま見つめていた。
「……きっと、貴方には一生敵わないんだろうな。けど覚悟しておいてくれ。俺はもう、一切遠慮はしない」
え、何? 何を言っているのか、頭が理解しようとしてくれないのだけど。
すっかり馬鹿になった私の耳は、それでも次に言われた言葉だけはしっかりと聞き留めていた。
「愛してる」って、言ってくれたことだけは。
「なあ、それ。貴方が買ってくれたプレゼント、貰ってもいいか?」
「……え? でも、これは、泥の中に落としてしまったから」
「そんなことどうだっていいよ。例え泥の色に染まってようと愛用するね、俺は」
おかしなことを言って微笑むアメデオを見ていたら、いろいろと馬鹿馬鹿しくなってきた。
そうねロレッタ、ルーチェ。私、悩みすぎだわ。
この人は破天荒で、天才で、女心なんて汲み取る気もなくて、でも優しくて。
こんな私に、結婚しようって言ってくれた人だもの。
もっと信じれば良かった。変に考えすぎずにありのままを伝えるだけで良かった。
でもそれが解ったから、これからはきっと大丈夫なのだと思う。
「お、笑ったな? もっと笑ってくれ、可愛いからずっと見ていたい」
「も、もう。何言ってるの」
赤くなる顔をごまかすためにひしゃげた包みを押し付けると、アメデオは礼を言うなりすぐさま包装を解き始めた。
取り出してみると端のところがほんの少しだけ泥に汚れていたから、やっぱり買い換えると伝えたのだけど。彼はこれがいいんだと言って、幸せそうに微笑んでいたのだった。
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