またねの鶴

窓野枠

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第2章 また、いつか

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 ハンカチを広げると、折り紙の鶴が出てきた。遥が最後の日に手渡してくれた折り鶴だった。

 その中に、大切にくるまれていたもの──鶴の形をした友情である。

 遥が「またねの鶴だよ」と言って、震える指で折ってくれたもの。その鶴の羽には、細く鉛筆でこう書かれていた。

「また、いつか」

 真一はそれを見たとたん、ぐっと目を閉じた。閉じたまぶたの裏に、遥の最後の笑顔が浮かぶ。それはどこまでも優しく、そして、どこまでも遠かった。

 休み時間が終わって、他の子たちが戻ってくる。真一は急いで折り鶴をしまい、何事もなかったふりをして席に戻った。

 けれど心の中には、言葉にならないざらざらした痛みがずっと残っていた。

 日が過ぎるごとに、まわりの子たちは、それぞれのグループをつくっていった。

 鬼ごっこ、給食の配膳、音楽の合唱。

 誰かとつながる機会は、無数にあるように見えるのに、真一だけはそのどれにも入れなかった。

 声を掛けようとして止める。笑い声の輪に入りたくて、でも近づけない。

 そんな日が続いた。

 ある日、音楽の時間。真一はふと、隣の子のリコーダーが落ちたのを拾って手渡した。

「……ありがとう」

 その子は言った。けれど、すぐに反対側の席の子と話し始めた。「ありがとう」の後に何も続かないのは、真一にはいつものことだった。

 教室の隅に咲いたアジサイのように、自分だけ別の時間を生きているような感覚。

 でも、ランドセルの底にある折り鶴だけが、確かに言ってくれている。

──おはよぉ。
──また、いつか。

 真一は、毎日、折り鶴の存在をそっと確かめることでしか、自分を保つことができなかった。

 そして、心のどこかで、ずっと信じていた。
「いつかまたね」が、本当に僕たちの間を飛び交う日を──

 あの日から9年が経った。彼の胸には、あの折り鶴と、遥の「またね、いつか」が色あせずに明瞭に残り続けていた。

 真一は高校1年生になっていた。
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